表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第八章:武王が居た国
1364/1770

1305話・生きる目的と信念と矜持

突如、頭上20mの虚空に現れたイムレースは、激流となった闇?でプリームスを覆った。


「足止めは長く持たない。急いで!」

そのイムレースの声音には、いつもの余裕は見られない。

そして告げた相手はインシオン等では無かった。


それは奥の通路から駆け寄って来る者…ソロルだ。

しかも背中にはアグノスを負ぶっており、この切迫した状況下では些か滑稽に見える。

加えてソロルの直ぐ後ろをクラージュが付いて駆けていた。



「何をする気だ?!」



戸惑うインシオンの問いに、頭上のイムレースが答えた。

「無力な君達は黙って見ているか立ち去るんだね。兎に角、邪魔は許さない」



『どう言う事だ?!』

インシオンの戸惑いが増すばかりだ。

手を貸さない…そう頑なに意思表示をしていたのはイムレースなのだから。



こうして居合わせた面々が見守る中、闇に包まれたプリームスへソロルが肉薄する。

片や接近されたプリームスは闇を振り払えず、殆ど身動きが取れない状態だ。


しかし覆った闇がエテルノの推測通り神鉄なら、人が触れれば只では済まない。

常人ならば体内の魔力を分解され、魔力枯渇で死に至る。

また魔力を多く内包する魔術師でも、結局は魔力枯渇の末に意識を失い死に至るのだ。


だが、そうは為らなかった。

プリームスを覆った闇は、ちょうど顔の辺りだけ穴が開いたのである。



「アグノス! クラージュ! 機会は一度切りよ!」



ソロルの言葉に負ぶられたアグノスは頷き、クラージュは大きく返事をした。

「はい!」

「分かりました!!」



直後、ソロルは右手を差し出しプリームスの額へ触れ、それに合わせてクラージュがソロルに抱きついた。

『私の干渉力が勝つか、それとも暴走した自我が勝つか…勝負よ』


魔力硬度を最大限に高め、それを右手の指先から放つソロル。

狙うは防壁となっている暴走した自我だ。

それを力技で壊し突破した後、プリームスの魔力に此方の魔力を同調させ干渉を試みる。

この二段階に渡る魔力行使は、魔力操作の緩急が激しく非常に難度が高い。

故に精度の維持を考え"機会は一度切り"と言ったのだった。


『くっ!! 硬い!』

防壁が想定以上に強固で、ソロルの収束した魔力が失速しかけた。



「ソロルさん…?」

負ぶさっている所為で伝わってしまったのか、アグノスが不安そうな声を漏らす。

そして抱き付くクラージュから、僅かに震えがソロルに伝わる。



「大丈夫…必ずプリームスの意識へ連れて行くわ」

ソロルは優しく2人へ告げた。


不安にさせては可能な事も失敗し兼ねない。

それは自分自身にも言える事…故に確固たる成功の像を、脳裏に強く思い描いた。

『魔力を抉る為に鋭く、突き通す為に強固に…』

そうして暴走した自我…防壁を突破し、何としてもプリームスの意識へ2人を導く。


「…!?」

鼻からポタポタと血が滴るのを感じた。

高度な魔力制御を駆使し過ぎ、脳に異常な負荷が掛かった所為だ。

『このまま無理を押せば、私は死ぬかも知れないわね…』

それでも止められない…否、止めたくなかった。


不思議な感覚だった。

己を顧みず他者の為に事を為す…利他的な行為など本来なら有り得ない。

なのにソロルをそう突き動かすのは、プリームスを救いたいと言う湧き上がる思いからだ。

きっと自己犠牲を厭わないギンレイと、絶望したプリームスの感情に同調したのが原因なのだろう。

『フフッ…これは確かに言葉に因って、論理的に説明出来る物では無いわ』


ふと核心に思える事が脳裏に浮かぶ。

それは”生きる為”の目的だ。


地上に息づく生物達は、皆例外なく種を後世に繋ぐ目的が有る。

そして人間のような自我を持つ高度な存在は、それ以外に別の意義を見出そうとする。

その意義は大半が利己的な物で、人生に於いては当然の考えで憚られる物では無い。


しかし中にはプリームスやギンレイのように、例外や少数派が存在する。

倫理や信義を重んじ、他者の為に己の犠牲を厭わない。

強い感情に因り”目的”を生み出す事が出来る…それこそが人間の持つ特異性なのかも知れない。

『信念…そして矜持…か、』


神に因って生み出され、与えられた枠組みで只々生きる。

そんな面白味の無い生き方など、今のソロルには苦痛としか思えなかった。

『漸く答えに辿り着いた気分だ…』


もっと人間に干渉し多くの事を知りたい、そして多くの感情を体感したい…そんな感情がソロルの胸中を満たす。

それ故か「まだ死ねない」…否、「死にたくない」と考えてしまう。


血が耳の穴からも滴るのを感じた。

既に送り出す魔力、また制御に因る脳への負荷は限界に来ている。

だが可笑しな事に痛みや恐怖は無く、遣り遂げられると言う漠然とした自信が沸々と湧き上がって来たのだ。


『行ける!!』

刹那、弾き合っていたソロルの魔力と防壁が、突如として消失する。

違う…あれ程に強固だった防壁が…暴走した自我が、ソロルの魔力に因って崩壊したのだった。



直ぐ様、ソロルはプリームスの魔力へ同調を試みる。

ここで仕損じれば全てが水泡に帰してしまう…絶対に失敗は出来ない。



「ソ、ソロルさん……」

アグノスが今にも泣きそうな声で言った。



『ハハ…ハハハッ……何と人間の身体とは脆いのか』

ソロルは己の有様に気付き自嘲する。


魔力制御の緩急が激し過ぎ、身体中の血管が裂け始めたのだ。

もう体中へ魔力を循環させ、正確に魔力を放出する事は叶わない。

「大丈夫……もう到達したから…」



その消え入るようなソロルの言葉が聞こえた直後、アグノスとクラージュの意識に闇の世界が広がった。


楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ