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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第八章:武王が居た国
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1301話・プリームス覚醒作戦会議

ギンレイの死と魔神王アニムスの滅亡、そしてその経緯を知ったアグノス達5人。

この真実は余りにも残酷な上、プリームスの暴走を止める確実な術は直ぐに見つからなかった。



「せめて暴走の仕組みが分かれば遣り様も有るのだけど…」

と呟きソロルは頭を抱える。



そんな様子を見て不思議そうに尋ねるアグノス。

「どうしてそこまで親身になってくれるのですか?」

プリームスはソロルにとって全くの他人…なのに身内や大切な存在のように助けようとしているからだ。



少し思考してからソロルは答えた。

「……以前の私なら手を貸さなかったわ。でもプリームスの記憶と感情に同調してしまったから…」



その答えは漠然としていて、アグノスの疑問は深まるばかりだ。

「んん? え〜と…つまり?」



これにクラージュが見兼ねた風に割って入る。

「同調して自分の事のように感じたのですよね? 多分、他人事に思えなくなったのでは?」



するとソロルは、ぎこちなく頷いた。

「うん…これは理屈じゃ無いわ。ギンレイの願いを汲んで何とかプリームスを止めたい…それが私の願いよ」



『ギンレイさんの願い?』

アグノスが同調したのは、プリームスの記憶と感情だけだった。

しかしソロルは違ったようだ。

「ソロルさんはギンレイさんの記憶にも触れたのですか?!」



「偶然だったけど先にギンレイの記憶へ干渉出来たの…もしこの順序が逆だったら、きっとプリームスの記憶だけで終わっていたわね」



「ギンレイさんは…どんな想いで自死を選んだのですか?」

怖々(おずおず)と尋ねるアグノス。


本当は聞きたく無かった。

プリームスを守ろうとする意図なのか、それとも魔神王を倒す確固たる使命の成せる業なのか?

どちらにしろ、その強い意志が遥かに上回っているように思え、自分が矮小な存在に感じてしまったのだ。



「ギンレイは魔神王を倒せなかった事もだが、自分がプリームスを縛る要因になったのが許せなかったの。何よりも敬愛する人の苦しむ姿を見たく無かった、だから…」

そこまで言ったソロルは、その先を言い淀んだ。



「自分諸共に魔神王の死滅を選んだのですね…」

とフィートが続く。



「……」

否定をしないソロルの沈黙が、それを肯定していた。



「私がギンレイさんの立場だったら…そこまで出来なかったかも知れない」



そう愕然として呟くアグノスへ、ソロルが優しく告げた。

「それぞれ人には立場があるわ。全てを投げ打てる環境なのか、或いは統治者のような容易に身を呈し得ない立場なのか…だから他者と比べる事自体が無意味なのよ」



傍で聞いていたフィートが頷く。

「それには私も同意です。ですからアグノス殿下は思い悩まず、今やるべき事を考えるべきでしょう」



今まで何度諭されただろうか?

己に落胆しては絶望し、その度に仲間に励まされアグノスは自身を奮い立たせることが出来た…全く有難い事だ。

「二人の仰る通りです…卑屈になってはいけませんね。兎に角、何か出来る手立てを考えましょうか」



「そうね…プリームスが暴走した仕組みを、アグノスは正確に分かっているの?」



ソロルから敬称無しで呼ばれ、少し戸惑ってしまうアグノス。

これでも一国の王妃なので当然と言えば当然なのだが…。

『言われてみればプリームス様の事も聖女王から急にプリームスだし…』

「え? あ…はい。一応はプリームス様から教えられています」



「知っている事を詳しく話してみて」



「は、はい…分かりました。え~と…」


   ※

   ※

   ※

   ※


アグノスからプリームスが暴走する仕組みを聞き、ソロルは小さく唸り声を漏らした。

「う~ん……」



ここまで悩まれると話した側も不安で仕方ない。

「や、やっぱり難しいですか?」



「ん~~因果の闇…いえ、貴女達は因果の負属性と呼んでいるのよね。まさか人間が吸収して最終的に闇堕ちするなんて初めて聞いたから…」

ソロルは半ば信じられない様子で返した。


因果の負属性が発生する主な起因は、世界中に存在する”負の感情”にある。

そして因果の負属性の濃度が深まれば、人心は乱れて世の中も乱れ始める。


この乱れが最も顕著に目に取れるのが戦争だ。

そうして人間は互いを殺め合い、結果的に因果の負属性は希薄になっていくのだった。

これは言わば神が作りし因果の循環機構で、魔神と同じく人を間引き、また淘汰するのが目的だとソロルは考えていた。


『なのに独自で因果の負属性を吸収して浄化するなんて…』

はっきり言ってプリームスは、神の作り出した機構から逸脱していると思えた。



「剣聖であるお祖父様が居ても、プリームス様1人に劣勢を強いられていました。このままでは誰かが命を落とし兼ねません…急いでプリームス様を止める手立てを見つけないと」

アグノスは悲壮な表情を浮かべて言った。



「確か暴走した別の自我が、プリームスの意識を封じ込めていると言ったわよね?」



「はい、それを越えてプリームス様の意識に干渉出来れば、暴走した自我へ抵抗出来るかもとも仰ってました」



「成程…なら暴走を止める手立ては有るわね」

何やら合点がいった様子で呟くソロル。



これにアグノスとクラージュがソロルへ詰め寄り、珍しくフィートも前のめりになった。

「えっ!? 本当ですか?!」

「どうするのですか?!」

「……」



「え…あ〜〜、これは私の仮説なのだけど、プリームスの意識は眠ってると思われるの。だから何とか覚醒されば、暴走している自我を抑制出来るかも知れないわ」



「じゃ、じゃあプリームス様の意識を覚醒させる方法は?」



アグノスにグイグイ詰め寄られ、ソロルは申し訳なさそうに答えた。

「いや…だから"何とか"って言ったでしょう」



「あうぅ…」

「そんなぁ…」

落胆するアグノスとクラージュ。



そんな遣り取りを、イムレースは少し離れた位置で見ながら溜息をつくのであった。

『はぁ……早く此処から出たいのだけど…』



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