1299話・封魔の地下都市(2)
神殿の奥に在る、だだっ広い空間。
その壁や床の材質には、大量の精霊魔石を含む石材が使われているとイムレースが言った。
そして暗にも告げたのだ…クラージュが精霊魔石に誘われて此処に来たと。
「私が人工的に作られた精霊憑きだと…イムレースさんは知っていたんですか?」
怪訝そうに尋ねるクラージュ。
「ん? あぁ~~そうだね。君を初めてみた時に直ぐ感じたよ…精霊憑きっだってね。でも凄いね…ここまで安全に融和した人間を見たのは初めてだよ」
などと少し愉快そうにイムレースは答えた。
「……私が精霊憑きだと言うのは、セルウスレーグヌム王国の国家機密に属します。他言無用に願えますか?」
威圧を込めたクラージュの警告は、イムレースにとって微風程度だったようだ。
「フフッ…そんなに強がらなくても大丈夫よ、基本的に他人が嫌がる事をしたくない質でね。でも私の矜持に反する事なら、その限りではないわよ」
例えセルウスレーグヌム王国が敵になっても恐れるに足ら無い…そう言っている様にも見える。
一触即発の空気……これを容易に変えた者が居た。
フィートである。
「精霊憑きだと精霊魔石に誘引されるのですか? 初めて聞きますね…」
正に空気を読まない率直な問いかけだ。
或いは意図してそうした可能性もある…どちらにしろ曲者なのは明らかだとイムレースに感じさせた。
『内政官より外交官の方が向いてるんじゃないか?』
「まぁ精霊憑き自体が希少な存在だからね。その上、”同属性”の精霊魔石となると尚更に非公知だろうよ」
「同属性?」
首を傾げるフィート。
「うん…ここの材質は”記憶の精霊魔石”が含まれている…」
そこまでイムレースは言うと、指で自身の頭をトントンと触れて続けた。
「クラージュ姫の頭の中に有るのと一緒の物だよ」
「…! そこまで見抜いて……貴女は一体何者なのですか?」
クラージュは薄ら寒くなった。
自分の精霊憑きを見抜く事など普通なら無理だからだ。
その上、症状や状態を具に確認せずに”記憶の精霊魔石”に因ると見抜いた。
これは詰まり狂気の魔法医師に匹敵する魔導医学や魔術学、更には精霊学にも精通している事になる。
『狂気の魔法医師でも唯一無二の存在と言えるのに……』
圧倒的な武力だけでなく、超絶的な叡智まで持ち合わせている…まるでプリームスのようだとクラージュは感じてしまった。
そして期待もしてしまう。
暴走したプリームスを単身で止められるのではないか…と。
『いや…駄目よね。プリームス様の暴走は永劫の王国や、プリームス様を敬愛する私達が責任を持つべきなんだわ』
それが縁であり、因果の結びつきなのだから。
「貴重な記憶の精霊魔石を使用したのは何故でしょう? イムレースさんが仰るには、この大広間だけの様ですが?」
フィートの素朴な疑問に、イムレースは床を指さして答えた。
「この下……最下層には次元の切れ目が有ったんだよ。それを封じて閉じる為に神殿は建設された。この大広間の材質に記憶の精霊魔石が多く含まれるのは、次元の切れ目を閉じる為の魔術機構が必要だったからだね」
「まさか……」
アグノスは悟った。
記憶の精霊魔石には多種多様な魔術機構を付加出来るだけでは無い。
人の記憶や人格…つまり自我に近い物まで付加する事が可能なのだ。
頷くイムレース。
「そう…不眠不休で次元の切れ目を閉じる作業なんて、生きた人間には不可能だ。だから優秀な魔術師の自我を精霊魔石に記録し、数百年も維持可能な地獄の蓋を作った訳さ」
「じゃ、じゃぁ…今も…?!」
人間の意識が…自我が、壁に埋め込まれて身動きも取れずに今も苦しんでいる?
そんな推測がアグノスの中で同情と共に、悍ましい感情を抱かせた。
「ん~~私の見た所では全て失われているね。役目を終えたら自然に消滅するようにされていたか、或いは…」
イムレースが続きを言い淀んだ内容を、アグノスは凡そ推測出来た。
『恐らく自我の自死が可能なようにされていたのか…』
魔神から人類を守る為とは言え、人の複製自我を数百年に渡り酷使するなど正気の沙汰では無い。
正に倫理が欠如した遣り様だが、そこに自死を可能にしたのは唯一の配慮だったのだろう。
「この神殿の内部は此処が一番多いけど、全体的に記憶の精霊魔石が含まれている。ひょっとしたら魔神王やギンレイさん、それに聖女王の事が記録されてるかもね」
イムレースの言葉に、フィートが怪訝そうに返した。
「この神殿にプリームス様が居た確証が有るのですか?」
「この地下都市に聖女王が居た経緯は分からないけど、この地下都市から出て来たのは間違いない。それに”外”とは時間の流れが違う…生活可能な機能が残っているのは神殿だけだよ」
「成程…理解しました」
あっさりと引くフィート。
「ここにプリームス様とギンレイさんが居た……」
呆然と呟きアグノスは周囲を見渡した。
仮に記録を引き出せたとして、それを知った自分は受け入れる事が出来るのか?
いや…真実に耐える事が可能なのか、そんな不安ばかりが募る。
すると見透かしたようにソロルが言い、その場に屈み込んだ。
「知らぬまま状況に流されるより、知って抗う方が人間らしいと思うのだけど」
「ソロルさん……」
「今から私が記憶の精霊魔石に写った情報を調べよう。もし存在すれば君に伝える…それで良いかい?」
恐らく人間では無い、人間を模倣した存在のソロル。
その彼女が何時に無く優し気に尋ねた……まるで根から心配する人の様に。
だからこそアグノスは意を決しれたのかも知れない。
「はい…お願いします」
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




