1296話・ソロルとアグノス
「ではアグノス王妃殿下、私は如何すれば宜しいですか?」
無礼を働いた妹に代わり、イムレースは恭しく尋ねた。
「そうですね…今からプリームス様が現れた最奥へ行こうと思います。ですから護衛をして貰えませんか?」
アグノスの返答に、イムレースは首を傾げた。
「ん? 元から貴女を護衛するつもりだけど?」
プリームスとの戦いで手一杯となる事を予測し、アグノスの面倒をインシオンがイムレースへ頼んでいたのである。
「もう1つ有ります。私がする事に少し協力して欲しいのです」
露骨に嫌そうな顔をするイムレース。
「前もって言った筈だけど、私は聖女王とは戦わないよ。まぁ彼等が全滅したら話は違うけどね」
アグノスは首を横に振った。
「いいえ…イムレースさんやソロルさんの助言を頂きたいのです。私が正しい選択が出来る様に」
「助言ねぇ…」
そう呟いたイムレースは、意見を求める様にソロルを見やる。
するとソロルは直ぐ頷いた。
それを見たアグノスは嬉しそうにイムレースへ詰め寄る。
「では早速向かいましょう! 護衛はお願いしますね!」
「え…あ〜〜、う〜ん…。って、何するつもりなの?」
思った以上に相手の押しが強く、イムレースは少し困惑してしまう。
『これでも私は交渉人なんだけどなぁ…この子、意外に…』
目的が明確に定まった場合、馬鹿には出来ない行動力を見せる。
「最奥へ進みます。そこでギンレイさんが死に至った理由を探ります」
これにソロルが異議を口にした。
「その必要性を感じない。状況から魔神王諸共に、ギンレイを滅ぼしたのは疑いようが無い」
今度はソロルへ詰め寄るアグノス。
「違います! プリームス様は見初めた相手の命を奪いません!!」
「……理解し難いわね」
ソロルは僅かに気圧される。
本来なら脆弱な人間相手には有り得ない…だが不思議とアグノスへ強く言い返せ無かった。
理解が難しい、或いは理解出来ないのは未知に等しい。
また未知とは生命の根幹に潜在的な恐怖を抱かせる。
『だから気圧されたのか?』
人間の遺伝子に依存しているだけに、その可能性も有る。
だが、それとも何か違うように思えた。
そうして何故か無意識に疑問が口を突く。
「好意を抱いたからと言って、命を脅かす相手を殺せないのは自死と同じでは?」
「人間は己の命を顧みず、何かを解決する事が出来る存在です」
毅然とした強い眼差しで答えるアグノスに、ソロルは目を見張り、そして確信した。
『そうか…私は興味が惹かれたのか』
潜在的な未知への恐怖以前に、ただ単に不思議に思え知りたくなったのだ。
「面白い…もっと詳しく聞かせて貰えるかしら?」
「はい、でも事は急を要する状況です。奥に向かいながら説明しても良いですか?」
「勿論よ。さぁ、お姉様…アグノス王妃殿下を守って差し上げて」
急に態度を変えた妹に、珍しく呆気に取られるイムレース。
「………ハハッ。まぁ貴女が良いなら別に良いけど、」
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際限無く放たれるプリームスの黒星撃。
これをインシオンは奥義である天衣無縫・臨で只管相殺し、仲間の為に防ぎ続けた。
だが仙力も無尽蔵では無い…いつかは枯渇と疲弊で、その防御手段を失くすのは明白だった。
『一体どれだけ消耗させれば…』
プリームスの動きが止まるのか?
永遠とも思える攻防に、半ば絶望を抱くインシオン。
そんな彼の視界の隅に、コソコソと壁際を進むアグノス達5人の姿が見えた。
『何をしているのだ?!』
突拍子も無い孫の行動で、インシオンは少しばかり動揺する羽目に。
その所為か手元が狂い、危うくプリームスの魔法に被弾しかけてしまう。
一方、そんな事など露知らずのアグノスは、そそくさと進み切り向かいの通路へ到着する。
「よしっ! 気付かれずに来れました!」
「いや…どうだろうね」
無茶な事に付き合わされ、イムレースは半ば呆れる。
「この先には居住可能な空間が在る。それに特に危険な気配も無い……で、さっきの話だけど、」
ソロルに催促されたアグノスは、通路を進みながら話を始めた。
「はい…先ほど私が言いたかったのは自己犠牲の話です。勿論、人間は自分が一番大切ですが、時には自分以外の存在を第一に考える事が有るのですよ」
「ほほう…」
アグノスの横に並び興味深そうにするソロル。
『やれやれ、仕方無いか…』
そんな様子を見たイムレースはソロルの好きにさせる事にした。
1000年もの間、抑制された環境で生き続けて来たソロルは、あらゆる事象を知覚出来る能力が有った…だが只それだけなのだ。
故に人と接触して感じられる物は随分と新鮮に違いない。
「これは飽く迄も私の考えですが…」
アグノスに勿体ぶった言い様をされ、ヤキモキするソロル。
「何? 早く話して!」
「え…あ、はい。え~と…人は一人では生きて行けません…そもそも種の存続は他者が在って成立しますから。これは人間や生命自体の機構と言うべきでしょう」
「つまり自己犠牲は種の存続の為、自身よりも他者を重要視する本能的な機能の1つだと?」
ソロルの意見に、アグノスは首を横に振った。
「それも有り得ますが、それだけだと私は思いたくは有りません」
「んん? ”それも有り得る”? それに”思いたくも無い”? 複合的かつ感情論も含むと?」
ソロルの中で疑問ばかりが膨らむ。
『この人…見た目は人間だけど……』
人間味を感じない妙な違和感をアグノスは覚えた。
「まぁ論理的に言えば、そんな感じになりますが…」
「興味深いな。それで要するにどう言う事なの?」
「え~と…」
アグノスが分かり易いよう、如何に説明するか言い淀んだ時、先に進んでいたクラージュが言った。
「わぁ…本当ですね。居住空間がありますよ!」
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




