表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第八章:武王が居た国
1353/1769

1294話・暴走の君(3)

最硬度に高めた魔法障壁を前面に張り、グラキエースはプリームスへ突進した。

『魔法は零距離では放てない。組み伏せて制圧する!』



事前に聞かされて居なかったグラキエースの行動に、ズィーナミは焦る。

「グラキエース殿?!」


だが何の策も無しに最強の存在へ仕掛ける訳が無い。

ズィーナミは、それが上手く行く事を祈るしか出来なかった。




完全に足元が凍り付き、床から足が上がらなくなったプリームス。

しかも体の向きはイースヒースへ向いたままだ。


『よし! 行ける!』

グラキエースは疾走の中で確信する。

後は背後から捕縛するだけだ。



刹那、プリームスとグラキエースを隔てるように、灼熱を伴う炎の壁が出現した。



「…! グラキエース殿!!」

思わずズィーナミは叫ぶ。

このままグラキエースが突進すれば、消し炭に成り兼ねない炎の壁へ突っ込んでしまうのだから。



ほくそ笑むグラキエース。

『プリームス様ならそうするでしょうね』



"十字氷華クルクスグレーシス"



密かに展開していた5つの凍楔パゴノカウェアを、グラキエースは炎の壁へ十字に打ち込む。

これで炎の壁(ファイアーウォール)は瞬時に凍結し、氷の壁に変貌したのだった。


そしてグラキエースは止まらない。

右手に握ったロングソードを振い、それは音速を超える斬撃と化した。



"烈風"

衝撃波を伴う不可視の斬撃が、一瞬で氷の壁を粉砕する。

そうして先に見えたのは、無防備なプリームスの後ろ姿だ。



「…!」

グラキエースは目を見張る。

何と此方の動きに合わせ、イースヒースがプリームスへ肉薄していたのだった。

『フッ…流石ね』



まさかの挟撃にプリームスの気配が揺らぐ。



これをイースヒースは動揺と捉えた。

『ハハッ! やはり暴走しても何らかの意識は有るのだな』

されど情けは無用…力尽くで組み伏せて制圧するのみだ。



その時、熱閃ゼストシールマか或いは暗閃カオスルークスなのか、迎撃しようとプリームスが右手を上げる。



「遅い!!」

イースヒースはプリームスの両腕を掴み、魔法の発動を封じた。



魔術師にとって零距離での抵抗は、もはや悪足掻きでしか無い。

「申し訳有りません、プリームス様」

そう呟いたグラキエースは、プリームスを背後から羽交締めにした。


小柄な超絶美少女を、大の大人が寄ってたかって制圧する。

とてもでは無いが見るに耐えない光景だ。


しかしそれは常識が当て嵌まる世界と人の話。

これでも不足な程にプリームスは危険であり、今の結果は奇跡とも言えるのだから。



そう…これで済むなら、本当に奇跡と言えただろう。



「いかん!! 二人とも離れろ!!」

何かに気付いたインシオンが叫んだ。



直後、グラキエースは前半身が、イースヒースは掴んだ両手に激痛が走る。

「ぐっ?!?」

「ぬぉ!?」


そうして咄嗟にプリームスから離れた二人は、自身の体を見て愕然とする羽目に。

何とグラキエースは抱き付いた体の表面が焼け、服がボロボロになっていた。

またイースヒースの両掌は火傷のように爛れる始末。



『これは…!?』

訳が分からず混乱しかけるが、ジッとしていては格好の的だ。

なので直ぐさまイースヒースは、エテルノの元へ飛び退る。



一方、グラキエースは崩れるように両膝を付いた。

「くっ……」



それをプリームスが見逃す筈も無い。

突如膨らんだ魔力?がプリームスの足元から爆ぜ、床の氷諸共にグラキエースを吹き飛ばしたのだった。



「グラキエース殿!!」

無防備な状態で宙を舞えば、もう本人では追撃に対処のしようが無い。

故にズィーナミは自身を顧みず駆け出す。

それは枯れた老人とは思えぬ俊足…縮地に因る疾走で、瞬く間にグラキエースへ到達し抱き留めた。


だが只それだけ…そこから防御する事も、回避する事も出来ない。

そう、ズィーナミは本当に身を呈してグラキエースを守るつもりなのだ。

「グラキエース殿…もう一度試みようぞ」

その一言は、自分では成し得ない可能性をグラキエースに見たからだった。



「…!!」

グラキエースは察した。


今ここにはプリームスの暴走を経験し、それを乗り越えたのは自分しか居ない。

だからこそ何が何でもズィーナミは機会を作ろうとしている。

「ズィーナミ殿……」



プリームスの右手が2人に向けられた。

もはや空中では回避する術は無く、誰もが二人の死を予見する。



『私は氷武帝。この程度では簡単に死ねない…勿論、剣匠も!』

"屈折する空間(エスパースプリエ)"



プリームスの放った熱閃ゼストシールマは、グラキエースを抱えるズィーナミの直前で真上に曲がり、天井に直撃して凄じい爆発を起こした。


その余韻が収まらぬ内に、更にグラキエースは無詠唱で魔法を発動させる。

魔力の縄(ルーンロープ)


それは青白い無数の蛇。

否…蛇に見える縄のような物が、一瞬にしてプリームスを雁字搦めにした。



「きょ、距離を…」

グラキエースは痛む体を押し、ズィーナミへ囁く。


魔力の縄(ルーンロープ)は超難度な捕縛魔法で、術者の魔力や魔力硬度で捕縛力が変化する。

つまりグラキエース程の超絶者ならば、魔力の縄(ルーンロープ)は禁呪や極大魔法級の強さとなるのだ。

それでも足らない…恐らくは僅かな足止めにしかならないだろう。



それを即座に認識したズィーナミは、迷う事無くグラキエースを抱えて飛び退った。

「承知!!」



ガラスが割れる風な耳障りな音がした。

プリームスを雁字搦めにしていた魔力の縄(ルーンロープ)が、跡形も無く破砕し消し飛んだのである。



「なっ…!!」

『一秒も持たないだと!?』

余の力の差にグラキエースは愕然とする。



今ズィーナミは着地し、その両手はグラキエースを抱えて塞がっている。

追撃が来れば防ぐ術は無い。



間髪入れず直径30cm程の黒い球が、プリームスの頭上へ無数に出現した。



背筋が凍るグラキエース。

魔法弾マジックミサイル! いや、あれは!』

暗黒魔法の闇爆撃ダークエクスプロージョンをプリームスが改良し、そして固有魔法にした物…黒星撃メランアステル


数は10数個と流星撃メテオストライクに比べれば地味で、また速度も遅い魔法だ。

しかし対象を追尾し続けて、更には1つ1つの速度が微妙に違う。

要するに1度の回避や防御で済まず、しかも被弾すれば即死級なのだ。



『やはり私ではプリームス様の足下にも及ばずか…』

今度こそ死を覚悟したグラキエース。



その時、凄じい轟音が響き渡り、グラキエースとズィーナミの視界を何かが塞いだのであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ