1290話・地上最強の集団(2)
「結局、最悪の事態に至ったか…」
そう呟きながらアグノスの元に歩み寄るグラキエース。
しかしその表情からは絶望は窺えなかった。
「グラキエースさん…プリームス様を止める手立てが有るのですか?」
焦る気持ちを抑えてアグノスは尋ねた。
「プリームス様の闇堕ちは、その力を限界まで使い切れば解消される筈です。つまり…」
グラキエースの答えに、クシフォスが続く。
「箍が外れたであろうプリームス殿の攻撃に耐え続ける…我慢比べか、」
「はい。消耗させた後、念の為に捕縛した方が良いでしょう」
「う〜む…」
イースヒースは唸り声を漏らした。
簡単に言うが、行うは難しだからだ。
平常時のプリームスでも、恐らくは永劫の騎士が束になっても勝てないだろう。
そこに暴走した条件が加われば、万に一つも捕縛までもって行けるとは思なかった。
しかしインシオンの考えは違った。
「状況は困難極まりないが、"勝たずても良い"のは幸いだ。ならば凡ゆる手段を使って時間を稼げば良い」
「具体的にどうするのですか?」
アポラウシウスが尋ねた。
これに先ずインシオンは、グラキエースへ確認を取る。
「プリームス陛下の闇堕ちを、貴女は一度対処した経験が有るのだな?」
「如何にも…」
「プリームス陛下の暴走に因る攻撃を、同質の威力で相殺したのでは無いかな?」
グラキエースは笑みを浮かべた。
「フフッ…流石は、この世界で最強と称される剣聖。貴方の仰る通りですよ」
インシオンはアポラウシウスへ向き直って告げる。
「なら方法は簡単だ…二人1組でプリームス陛下の力の水準に合わせる。それで相殺すれば良い」
「成程…では組み分けが重要ですね」
アポラウシウスが居合わせる面々を見渡し、意味深に言う。
暗に誰が一番力が劣るのかを探しているのは明白だった。
「嫌な野郎だな…」
クシフォスが僅かに殺気立ちながら呟いた。
ここで空気を読んだイリタビリスが、すぐさま挙手をする。
「は〜い! あたしが一番弱いので、一番強い方か、一番相性の良い方でお願いします!」
「ふむ…ではソキウスさん…いえ、イリタビリスさんとは私が組みましょう。私なら物理と魔法両面に於いて対処可能ですからね…フッ」
と少し自嘲気味でアポラウシウスが言った。
これは詰まり、器用貧乏だと宣言しているに等しいからだ。
また悪くなった空気はアポラウシウスの所為であり、それを年少者に庇われば立つ瀬がないのも原因だろう。
『ハハッ! かの死神も美少女には弱いか』
内心で嘲笑うクシフォス。
それを見透かしたようにフィートが、クシフォスの脛へ蹴りを入れた。
「ぐわっ!?」
「今は最も切迫した状況です。仲間同士での諍いを誘発する行為は控えましょう」
などと抑揚無く、一同を見渡して告げるフィート。
インシオンは苦笑いを浮かべながら頷く。
「そうだな…ではイリタビリスとアポラウシウス殿で組み、クシフォス殿とテユーミアが組むのが良かろう」
「はい、総司令」
「承りました」
「おう!」
「了解しました、お父様」
「そうなると消去法で儂とグラキエース殿かね?」
剣匠ことズィーナミ・リニスは、傍に立つ褐色の麗人を見やって尋ねた。
この場で最もプリームスに近い実力者と言えるグラキエース。
自分は魔法が使えぬ点からも、妥当な組み合わせと考えたのだ。
「うむ、それが良いだろう」
インシオンから了承を得たズィーナミは、グラキエースへ片手を差し出す。
「こんな枯れた老人で済まない。宜しく頼みます」
この握手は実力を十二分に認めた、敬意から来るものだった。
これにグラキエースは握手を交わし笑顔で応えた。
「こちらこそ、名高い剣匠殿と連携出来る事を嬉しく思います」
協力し合い連携を取るには、その相手を信頼しなければ為らない。
そして信頼は相手の実力を認める事に始まり、相手への敬意を培わせるのだ。
また今回は命を懸ける戦いになるのは間違いなく、尚更に相方への敬意は欠かせない物となる。
これをグラキエースは言葉と態度で示したのだった。
「さて…私は単身で動くゆえ、イースヒースはエテルノと組め。これで均衡が取れよう」
総司令であるインシオンの指示に、イースヒースは苦笑しながら頷いた。
「フフッ…俺は魔法が使えんからな。エテルノ、頼んだぞ」
「うん、魔法関係なら任せて。只、何処まで相殺出来るか分からないけどね」
こうして凡その段取りが済んだ後、インシオンは亡霊を見つめた。
「……」
「何だい? 私は協力しないよ」
素っ気なく返すイムレース。
「貴女が此処に居る理由を訊くまでも無いが、1つ頼みたい事が有る」
居住まいを正して言うインシオンに、イムレースは溜息をついた。
「はぁ……聖女王を止める為の戦いには参加しない、何故なら君達が居るからね。だが君達が倒れて武國に被害が及ぶなら、私が聖女王を倒す事になるだろうよ」
インシオンは首を横に振った。
「違う…アグノス王妃とフィート…クラージュ姫を守ってやって欲しい。それに我らは決して倒れない…必ずやプリームス陛下を止めて見せよう」
「そうか……まぁ3人は私が守ってあげるよ、元々そのつもりだったしね」
そう答えた後、イムレースは凍るような冷たい目でインシオンを睨んで続けた。
「しかし私は君を許していない…北方を捨てた事をね。頼みを聞くのは今回だけだ」
「恩に着る…」
剣聖と亡霊の間に何があったのか、この場に居合わせた面々は知る由も無い。
只、この最強の二人が衝突しなかった事が、幸いだと言えるのは確かだった。
「…! どうやら向こうから来た見たいだよ」
何かに気付いたイムレースは、アグノスとフィートの手を取り言った。
"来た"…それは皆も直ぐに感じとる。
敬愛し馴染み親しんだ存在、そして圧倒的な殺気と威圧感が混ざり、常人ならば気配を感じただけで卒倒したかも知れない。
聖女王プリームス…闇堕ちし暴走した故に、もはや魔神王を超える災害級の存在と化していた。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




