1287話・予想だにしない援軍(2)
ズィーナミを護衛に、またフィートを舎人のように従えたアグノスは、アポラウシウスの前に歩み出た。
「ここで貴方は何をされていたのです?」
南方西方で恐れられた最凶最悪の暗殺者…それが死神アポラウシウスだ。
その自分を前にして、全く気後れしないアグノスに感心する。
『流石は永劫の王国の王妃と言ったところか、』
「これはこれはアグノス王妃殿下…」
「私の質問に答えていませんよ」
アグノスは威圧するのでは無く、ただ毅然と告げた。
これへ何時ものように戯けず、恭しく首を垂れて答えるアポラウシウス。
「失礼致しました…私めはタトリクス様に加勢する為、ここまで参った次第です。因みに、こちらのソキウスさんとグラキエースさんも私と同様ですので」
「では、私達の協力者と言う訳ですか…」
アグノスは胸を撫で下ろした様子を見せた。
ここは敵地の真っ只中と言って良い場所だ。
そんな場所で人間同士が戦いにならないか心配だったのである。
魔神王は常軌を逸した存在で、相対するならば少しでも戦力が欲しいところなのだから。
「そうアグノス王妃殿下が仰るのでしたら、私は異存有りません。只、私達3人共に酷く消耗しておりまして、今直ぐの協力は難しいかと…」
するとアグノスはインシオンへ目配せをした。
インシオンは頷くと、アポラウシウスの横を通り抜けながら言った。
「卿等は休んでいるといい。ここは我らで十分だ」
刹那、アポラウシウスとインシオンとの間に、僅かな間だが緊張が走る。
それもその筈、インシオンはアポラウシウスにとって、苦渋を舐めさせられた仇敵だからだ。
「左様ですか…では、お言葉に甘えて一休みさせて貰いましょう」
と返したアポラウシウスは、何事もなかったように通路側へ徐に歩みを進めた。
これに慌てて続くソキウス。
『ちょっ! 冷や冷やさせた挙句に、あたしは放ったらかし?!』
加えて倒れ込んだグラキエースも放置…それだけアポラウシウスには余裕が無かったとも思えた。
アポラウシウスとソキウスが通路に姿を消した後、アグノスは倒れ伏したグラキエースの傍へ駆け寄った。
『グラキエースさん…遅くなって申し訳ありません』
もっと早く自分が決断していたなら、グラキエースがここまで疲弊する事は無かっただろう。
そんな自責の念に打ちのめされたアグノスは、自分だけの力でグラキエースを抱え起こした。
「おいおい…運ぶのは俺がやるぞ?」
心配になってクシフォスが駆け寄って来た。
「いいえ…私にさせて下さい。こう見えても腕力は意外とあるので!」
などと言うアグノスだが、グラキエースを背負う姿は危なっかしくて仕方が無い。
そうするとフィートがアグノスに付き添い、クシフォスへ素っ気なく目配せした。
暗に早く自分の役目を果たせと言っているのである。
「はぁ~~やれやれ。分かったよ…あの壁っぽいのを壊せば良いんだろ」
『せっかく気を遣ってやってるのに酷い扱いだな…全く!』
相変わらずのクシフォスとフィートを尻目に、イースヒースがインシオンへ尋ねた。
「この闇?の壁を壊すのは良いが、この先にプリームス陛下は居られるのか?」
「武林中に気塵空隙を放った。絶対とは言えぬが、プリームス陛下は索敵に掛からなかったのだ。考えられるとすれば…」
「成程…なら気塵空隙が侵入出来なかった壁の向こうって訳か」
「そう言う事だ」
頷くインシオン。
気塵空隙は仙術の奥義の一つで、自身の気を広範囲に拡散させる技だ。
そして拡散した気は術者の触覚となり、凡ゆる物を恰も見て触れたように知覚出来る。
本来は戦闘に利用する技ではあるが、その強大過ぎる気を利用したインシオンが、超広範囲索敵用に応用した技と言えた。
「なら話は早い。打ち壊してやろうぜ!」
意気揚々歩み寄り言い放つクシフォス。
「儂も微力ながら協力させて貰おう」
そう告げたズィーナミは、青白い気功剣を発動させ右手に握った。
「私も豪拳の名とプリームス様への忠誠を懸けて、この壁を壊す力となりましょう」
テユーミアは拳を握りしめて言う。
そんなテユーミアへ、インシオンは勢いを削ぐ様な事を口にした。
「いや…拳は要らぬ」
当然テユーミアはズッコケてしまう。
「ちょっ…お父様?! せっかく盛り上がった所で何なのですか!?」
居合わせる面子の中では自分が一番力が劣るが、それでも余りに酷い言い様である。
これにインシオンは珍しく慌てた。
「あ……違うのだ。言い方が悪かった…すまない」
慌てていても然してそう見えない所は、流石は剣聖である。
そうしてインシオンは申し訳なさそうに段取りを説明し始めた。
「先ずはクシフォス殿、剣匠殿、それにイースヒースが同じ一点に同時攻撃を加える。そして私が追撃する”杭”へ、テユーミア…お前が渾身の蹴りを打ち入れる」
漸く理解したテユーミア。
「あ…そう言う事ですか。成程…』
拳の一撃に十分な自信は有るが、蹴りの方が威力は数倍勝るからだ。
なのに拳を意識してしまったのは、速度や汎用性に優れている所為である。
逆に蹴り技は威力が勝っても、挙動や隙が大きく汎用性に欠ける。
つまりインシオンは動かぬ壁相手なら、威力の高い蹴りを使えと”遠回し”に言ってしまった訳だ。
『フフッ…御父様は案外言葉足らずな所があるのだから』
「では私が最後の一撃を任される訳ですね!」
「うむ……では皆に補足するが、直接斬り付けるような攻撃は止めて欲しい。私の”奥義”の追撃に巻き込んでは不味いからな」
インシオンの説明に背筋が凍るクシフォス、ズィーナミ、そしてイースヒース。
「わ、分かった…」
「承知した…」
「あぁ…」
「始めるとしよう…魔神王の壁など然して障害に為らぬ事を、我ら地上最強級の力を以って示すのだ」
そのインシオンの言葉を皮切りに、4人の気が爆破的に膨れ上がったのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




