1286話・予想だにしない援軍
絶望し心が折れかけた時、2人の身体から漏洩する魔力が止まった気がした。
「…?!」
「え…?!」
唖然とするアポラウシウスとソキウス。
これで魔力枯渇に因って死に至る事は無くなった。
しかし目の前の闇の壁は依然として揺ぎ無い。
『一体何が?!』
不思議でならないアポラウシウスだが、九死に一生を得たのは確かだ。
兎に角ここから立て直し、この闇の壁を突破する方法を模索しなければ為らない。
「ソキウスさん…大丈夫ですか?」
「は、はい…何とか。でも直ぐには動けそうも有りません。それにグラキエースさんが…」
へたり込んだソキウスは、傍で倒れ伏したグラキエースを見やった。
何とか歩く事の出来たアポラウシウス。
徐にグラキエースの傍に屈み込み、その脈と呼吸を調べた。
『ふむ…強靭と言うべきか、或いは精神力の強さゆえか、凄まじい生命力ではあるな』
「大丈夫そうです。このまま少し休ませてあげれば、動ける程度には回復するでしょうね」
「そうですか…」
ホッと胸を撫で下ろすソキウス。
「ほぅ…随分とグラキエースさんの事が心配そうですね? 少し妬けますよ」
揶揄する様なアポラウシウスの言葉に、ソキウスの心臓が跳ね上がった。
『気取られた?!』
ここで自分とグラキエースが”同じ身内”だと露見するのは不味い。
きっと自分がアポラウシウスの動向を探っていると勘付き、命を奪いに来るのは間違いないのだから。
「フフッ…貴女が誰に興味を持とうが、貴女の素性が何であろうが私は気にしませんよ。仲間である限りはね」
アポラウシウスの意味深な言い回しに、身の毛がよだったがソキウスは安心もした。
『成程…互いに協調して敵対しない関係なら、手を出して来ない訳か』
昨日の敵は今日の味方、敵の敵は味方…などと言うが、何にしろ今は助け合わなければ為らない。
強大な魔神王を前に、人間の些細な事情で諍いを起こしている場合では無いのだ。
「それで、どうします? グラキエースさんや私達が全快したとしても、この闇の壁を突破出来る気がしませんよ…」
「……」
ソキウスの言っている事は、アポラウシウスも十分に承知していた。
『一旦出直すか、若しくは何かしらの増援を呼ぶか…』
どちらにしろ自分達と同等以上の存在を、少なくとも3人以上は増やさねば為らないだろう。
「今のままでは突破不可能です…残念では有りますが」
アポラウシウスは率直に告げた。
「そうですよね…では武國の六大大人や永劫の騎士を頼りませんか?」
ソキウスが思い付く中で直ぐに頼れそうなのは、プリームスに随行した面子だ。
そこに武神クシフォスや剣匠の助けが加われば、闇の壁を突破出来るかも知れない。
「ふむ…その方々を直ぐに見つけられれば良いですか、」
「うぅ…確かに」
ソキウスは項垂れた。
何処に居るのか分からない人間を探すのは、そもそもが至難の業である。
しかも今は一刻を争う状況なのだ。
一方アポラウシウスも良い手立てが思いつかない。
『影での移動を使えば、即座に遠距離を移動可能だが…』
魔力消費量が距離に依存する。
故に魔力が枯渇に違い状態の今、それを行えば命を落とす可能性が有った。
「……」
「………」
正に八方塞がり…又は成す術なしな状況に、二人は沈黙してしまう。
「んん? 気配があると思えば妙な組み合わせだな」
「「…!?」」
突如、この広間に至る通路から声がし、アポラウシウスとソキウスは驚愕した。
「む? 倒れているのはグラキエース殿か……お前等がやったのか?」
若干の殺気を纏い、2mは有りそうな巨躯が通路から姿を見せる。
『ええぇっ!? クシフォス様?!』
まさかの人物の登場に、うっかり叫びそうになるソキウス。
偽装しているのがクシフォスに露見しているとは言え、親しげな所をアポラウシウスに知られる訳にはいかない。
と言うか、グラキエースを手に掛けたと思われるのも不味い。
兎に角は誤解を解かねば為らないだろう。
するとアポラウシウスが飄々と答えた。
「早合点しないで頂きたい。ある意味でグラキエースさんとは同志でして、ですから手に掛ける訳が有りません」
「同志だぁ?」
龍の咆哮を片手に、まるで無頼漢の様に迫って来るクシフォス。
これにソキウスは引いてしまう。
『うへっ! めっちゃ柄が悪い…勘弁して!』
威圧感も半端無いが、その実力は永劫の騎士と同等以上と言って過言では無く、戦えば只では済まない。
万が一にアポラウシウスと戦闘になって、それを止める役が自分だけしかいないだけに、本当に切実である。
「大丈夫だ、クシフォス殿。気塵空隙で調べたが、極度の疲労で眠っているようだ」
そう静かに告げクシフォスの背後に現れたのは、全く気配を発しない存在だった。
その装いは純白の掛下に、青銅色の打掛、武人然とした佇まいなのに完全な無手だ。
『剣聖インシオン!!』
予想だにしない存在の登場に、アポラウシウスは驚愕し硬直した。
「この先に魔神王と陛下が居るのか?」
と誰とも無く訊きながら、インシオンの背後から偉丈夫が姿を現す。
雰囲気は違えど、その体躯は武神に比肩する大きさだ。
『なっ…イースヒース?! 南方連合治安維持軍の指令が何故ここに!?』
アポラウシウスは半ば混乱する。
「ちょっ! 師匠…急に止まらないで下さい!」
「そうだよ…君は居るだけで壁みたいな物なんだから、危ないでしょ」
などと文句を言いながら、イースヒースの背後から顔を覗かせたのはテユーミアにエテルノだ。
『豪拳に不死者までだと?! これでは…』
永劫の王国の総戦力と言っても差し支えが無い。
正直、驚きを隠せないアポラウシウスだが、状況が好転した事に安堵感も覚えていた。
「済まぬが…殿が儂とは言え、淑女お二人を守りながらは荷が重いのだが…」
そう苦言を口にして最後に姿を見せたのは、アグノスとフィートを連れたズィーナミ・リニスであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




