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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第八章:武王が居た国
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1285話・寂しき別れの時

時間が経過するごとに、プリームスは現実味を感じなくなっているのを感じた。

確かに自分は生きている…しかし夢なのか現実なのか区別が曖昧になっているのだ。

そしてその原因が何なのか凡そ察しも付いていた。


魔神王アニムスの傍に居る限り、潰える事の無い因果の負属性。

それをプリームスが吸収し続けアニムスが浄化する…これが永久機関の様に機能し、中毒化…或いは依存症に似た状態へプリームスは至っているのだ。


『その副作用か……脳の機能が低下し始めている。このままでは…』

本当に現実か夢か分からなくなってしまうだろう。

その前に何としても決着を付けねば為らない。


プリームスは左の薬指に嵌めた指輪をソッと撫でる。

これは永久氷棺コキュートスを封じた指輪だ。


永久氷棺コキュートス──使用する対象を決して解ける事の無い氷で覆い尽くし、時間と存在力をも固定する極大魔法。

これをギンレイに使用し、アニムス諸共に封じてしまうのだ。

そうしてギンレイからアニムスの魂を分離する時間を稼ぐ。


『絶対に安全とは言えない方法だが…』

もう意識を保てなくなりそうな自分には、この方法しか残って居ない。

そう…次の接触が恐らく最後の機会だろう。



人の気配がした。



「プリームス様…お食事の時間です。お世話致しますね」



気怠過ぎて瞼を開ける事も億劫な状態…それでも気配や声音でギンレイだと分かった。

「うん……」



優しく背中を支えられて上半身を起こされるプリームス。

そうして温かなスープをユックリと、そして丁寧に少しずつ口の中へ運んでもらう。



「フフッ…これでは完全に介護だわ。まぁ350年も生きているから、本当なら介護されてても変では無いのだけど…見た目が15歳だなんてね」



自嘲しながら言うプリームスに、ギンレイは首を横に振った。

「きっと元の御体も美しかったのでしょうね…この目で見れないのが残念です」



「……本来の私の身体を預かっている者がいるの。彼女に会えば見る事が出来るわ…だから、ここから抜け出しましょう」



「有難う御座います…プリームス様。そうやって私を最後まで見捨てない貴女が眩しくて…嬉しくて。それに…辛いんです…」



「ギンレイ…?」



「貴女は私に囚われて良い人では有りません。魔神王(アニムス)は私が何とかしますから」



そのギンレイの言葉は、プリームスにとって自殺宣言に等しかった。

「だ、駄目よ! そんな自分勝手な事を私は許さない!」

何より無駄死に思えたのだ。

ギンレイと体を共有しているアニムスが、自決を只黙って見過ごす筈も無いのだから。



「アニムスは魔神の軍勢を召喚する為に、次元回廊を開こうとしています。その動力を蓄え眠っている今が、私が抵抗出来る最後の機なのです…分かって下さい」



「駄目だ…絶対に駄目だ!」

プリームスは力が入らない手と腕で、必死にギンレイを求めた。

だが虚空を掻くばかりだ。



「申し訳ありません…」

その場から咄嗟に逃げ出すギンレイ。


そうして後ろ髪引かれる思いで寝所を後にし、ふと思う…なんて呆気ない別れだろうかと。

また誰も看取ってくれない場所で、寂しく自決する自分が滑稽にも思えた。


『いや…違うか』

そもそも死自体が単一で起こる現象と言える…ならば死は全てに平等な孤独を迎えさせる筈だ。

自然の摂理…そうギンレイは己に言い聞かせた。



無造作に床へ置かれた刀を手に取る。

これはプリームスから贈られた逸品で、伝説級の魔導具でもある。

そして本来ならアニムスに取り上げられていて当然の"武器"だ。


なのにギンレイの手が届く場所に有るのは、アニムス自身が刀を気に入っていたから。

また自決しようなどと考えない…そう高を括っていたからだろう。



『残念だったわね。魔神王…お前の思い通りにはさせない』

ギンレイは鞘から刀を抜き、その刀身を見つめた。


「……?」

刀身に雫が数滴落ち、不思議に感じる。


「あ…」

無意識の内に泣いていたのだ。


「うぅ……」

堪え切れない悲しみが込み上げ、止めどなく涙が流れた。


死が怖いのでは無い。

只々、己が失われる事に寂しさを感じてしまう。

それは恐らく諦め切れない希望と、捨て切れない後悔の所為だ。


『もう…時間が無い…』

ギンレイは震える手で刀の切先を胸に添えた。

自決など、この刀を使えば一瞬…魔神王の核を突き、刀の魔法を解放すれば良いだけ。



「プリームス様…貴女の事を心からお慕いしておりました。どうか……」

『お幸せに…』




「…!!!」

凄まじい爆音と熱の余波が通路を伝い、プリームスが居る寝所まで届いた。

また、それが何なのか即座に察する。

『この魔力は…私の…熱戦(ゼストシールマ)


加えて熱戦(ゼストシールマ)はプリームスの固有魔法であり、自分以外に発動が可能なのは、限られた者に贈った魔導具でしか成し得ない。


「あぁぁあぁぁ……ギンレイ……」

プリームスは自身の中で何かが壊れるのを自覚した。






 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※






アポラウシウスは本当の絶望とは何か…それを身をもって知った。

行く手を阻む闇の壁は、命を懸ける程の一撃を受けても物ともしなかった為である。

しかも自分だけでは無い…超絶者級の二人を加え、3人での一斉攻撃を以ってだ。



「ぐぅ…」

力無く両膝を付くソキウス。

そしてグラキエースは何もかもを使い果たし、昏倒するように前のめりに倒れた。



『これまでなのか…?』

呆然と闇の壁を見つめ、アポラウシウスは自問する。


だが、それは自問するまでも無かった。

次の一撃どころか、この場から逃げ去る力さえ無いのだから。


「フフッ…ハハハッ……まさか私が、こんな終わりを迎えるとはね」

好き勝手に生きて来た報いか?

或いは武國を訪れた時から、己の運命は決まっていたのかも知れない。


出来れば巻き込んでしまったソキウスだけでも、ここから逃がしてやりたかった。

「申し訳有りません、ソキウスさん…」



「……何を謝ってるんですか? 貴方らしくも無い」

ソキウスは揶揄する風に返すが、両膝をつき俯いたまま、もう顔を上げる事さえ出来ない。



その時、二人の体を蝕んでいた魔力の漏洩が止んだ気がした。

「…!?」

「え…?!」



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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