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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第八章:武王が居た国
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1283話・海抜マイナス1000mの底(2)

幻影魔法で隠された通路を進むソキウスとアポラウシウス。

通路自体の大きさは何かを搬入出する為か、幅と高さが5mも有る。

また通路の長さは300m歩み進んでも終わりが見えない。



「う〜ん…発光魔石で辛うじて見えるけど、割と暗いので気持ちも…」



ぼやくソキウスの言葉に、アポラウシウスが揶揄うように続く。

「落ち込んでしまいますか?」



「はい…しかも魔力が吸い上げられてるんですよね? 早く片を付けて脱出しないとまずいでしょうし」



「……」

『これは…魔力の消耗で徐々に精神にも影響が出ていそうですね』

状況が切迫しつつある事をアポラウシウスは認識した。


まだ自分は問題無い。

しかし日常的に魔法を使わない人間は、少しの魔力消費で心身共に影響が出易いのだ。

このままソキウスを放置すれば、魔神王と対峙する前に倒れ兼ねない。


『仕方ありませんね…これは自分用でしたが、』

アポラウシウスは懐から小さな薬瓶を2つ取り出し、ソキウスへソッと手渡した。



「え…これは?」

不思議そうに首を傾げるソキウス。



「魔力の消耗を補填出来る経口液薬です。私の手製でして、嫌なら飲まなくて結構ですよ」

本来、アポラウシウスは他者に施しを一切行わない。

理由は勿論、己が一番大事だからである。


そして中途半端な他者への干渉や優しさは、無用な関係の繋がりを生み、互いを不幸にしてしまう事もある。

ならば初めから行わない方が良いのだ。


しかしながら"仲間"となってしまえば話は別。

関係の強さにも因るが、今回は運命共同体と言っても過言では無い。

ここでソキウスに死なれては、今後の計画にも支障が出てしまうだろう。


『いや…違うか…フッ』

何とかして論理的な思考をしている、或いは打算さを重視している風に装っている…そんな自分を自嘲した。


本当は誰よりも煩悩的で情動に流され易い。

その上、自分はソキウスを気に入ってしまった。

切っ掛けは刹那的な物だったかも知れない…だが現に今もソキウスと行動を共にし、自分の身を案じるように彼女が心配になっている。

こんな情動はフィートに対してや、タトリクスを見初めて以来だろう。



「えっと…じゃあ頂きます」

そう返したソキウスは、薬瓶を1本だけ飲む事にした。



「どうですか?」



「……」

アポラウシウスに尋ねられ、微妙な表情を浮かべるソキウス。

味は薄〜い砂糖水のようで、効果自体も体感出来なかったからだ。



「フフッ…即効性が有る便利な物など、魔法以外有りませんよ。その魔法も魔力と言う代価を消費して可能な程ですしね」



「えぇ…!? それじゃあ飲んだ意味が無いのでは?」



「そんな事はありません。暫くしてからジワジワ効果を体感出来ますよ」



「そうですか…」

吐き出したい衝動を何とか抑え、ソキウスは残りの一本を懐に仕舞う。



直後、凄まじい衝撃波?が通路の前方から二人を襲った。

「むっ?!」

「きゃっ??!」


幸い負傷する程では無く大事には至らないが、これが先行したグラキエースに関係しているのは明らかだった。

「急ぎましょう!」


「えっ? あ…はい!」



グラキエースが突き抜けた事を考えれば、恐らく罠の存在は無い筈。

そう考えたアポラウシウスは最小限の警戒と、最大限の速度で疾走を始める。



「ちょっ!? は、速い!」

それを慌ててソキウスは追った。



すると1分もせずに通路が終わり、何処か広い空間に出たアポラウシウスとソキウスは目を見張る。

「「…!!」」



僅かに透き通る闇の壁が、恰もカーテンのように広大な空間を半ばから二分していた。

そして、それを前にグラキエースが片膝を付いていたのだった。



『まさか…また魔神王の結界なのか?』

アポラウシウスは状況から即座に、事態の深刻さを見抜いた。


恐らくグラキエースは、その超絶的な武力と魔術を懸けて、この闇の壁を破壊しようとしたのだろう。

しかしながら闇の壁は一切揺らぐ事なく、自分達3人の前に立ちはだかったままだ。



「グラキエースさん…」

心配になったソキウスは、グラキエースの傍に駆け寄った。


すると、その様子を目の当たりにして驚愕する事になる。

何とグラキエースは身体中に血を滲ませ、表情を蒼白にしていたのだ。



「これは魔神王の結界なのですか?」

アポラウシウスも傍に来ると、静かにグラキエースへ尋ねた。



「恐らくは…だが如何なる方法でも破壊出来なかった」

苦渋に満ちたグラキエースの声が返ってくる。



「……」

アポラウシウスは息を飲んだ。

グラキエース程の存在でも壊せない壁…神域直前に阻まれた最初の結界とは毛色が明らかに違う。

考えるに結界の存在を隠す必要が無く、故に絶対的な強度を誇るのだ。

『我々3人が力を合わせても不可能なのか…?!』


否…やってみなければ分からない。

それでもグラキエースの様子から、試せるのは1度が限界だと悟った。

「ソキウスさん、それにグラキエーンさん…次は3人で一斉に結界の破壊を試みましょう。仮に駄目だった場合は一旦出直しますよ」



これにソキウスは異議を口にする事が出来なかった。

「……」

状況は最悪と言える為だ。


この魔神王の繭の内部に居るだけで魔力を吸われ、長居すれば死は免れない。

加えてグラキエースでも壊せなかった闇の壁…退路は有っても、進路は限りなく皆無に等しい。



片やグラキエースは承諾も否定もせずに、ただ悲壮な声音で告げた。

「この闇の壁から主の魔力を感じた。もう…あの方は…」



「…!」

それを聞いたアポラウシウスの中で、一つの仮説が立った。

魔神王だけの力なら、これ程に強力な結界は張れなかっただろう。

それは詰まりタトリクスが糧とされ、その魔力を利用された可能性が高い事を示していたのであった。



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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