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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第八章:武王が居た国
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1281話・煩悩ここに極まり

アポラウシウスの鎖に繋がれ、ゆっくりと縦穴を降下するソキウスは、その縦穴の余りの長さに息を飲んだ。

毎秒2m程度の速度で下降しているのだが、何と5分以上経った今でも底に到達していないからだった。



「これは…1000m以上は有りそうですね」

飽きて来たような声音でアポラウシウスが呟いた。



「そうですね…ところで大丈夫なのですか?」



不安そうに尋ねるソキウスを見て、何が不安なのか分からず首を傾げるアポラウシウス。

「はて…何がですか?」



「いえ…あたしを先程から鎖で吊ってくれているでしょう? 魔法だったら随分と魔力を消費してしまうのではと…」

本音で言えば急に鎖が消失して、落下するのが怖いだけではあるが…。



するとアポラウシウスは小さく笑って答えた。

「フフッ…ご心配には及びません。これは分類で言えば魔法ですが、魔力を多く使う従来の魔法とは異なります。まぁ端的に言えば、燃費が良い固有魔法と言った所でしょうか」



「なるほど…」

一安心するソキウス。

しかし他にも心配事が有った…それは先行したグラキエースだ。


彼女はプリームスが魔王だった頃の四天王で、その実力はプリームスに肉薄する。

肉体の強度云々を鑑みるなら、今なら総合力でグラキエースに軍配が上がるかも知れない。

それ程の傑物でも冷静さを欠き、独断専行で突き進んでいる風に見えた。


『グラキエースさん、大丈夫かしら…』

プリームスの事も心配だが、その敬愛する主君の強さをソキウス(イリタビリス)は十二分に知っている。

きっと魔神王を倒すに違い無い…だからこそグラキエースの行動が怪訝で為らなかった。


ふと自分は主君に薄情で、楽観視し過ぎなのかと心配になる。

『こんな事をアポラウシウスに相談出来ないし…』



そんな思いが雰囲気で伝わったのか、アポラウシウスは心配そうに尋ねた。

「何か他に心配事でも?」



「え? う〜ん…まぁ、そうですね…」



「魔神王ですか? それともグラキエースさんの事ですか? いや……愚問でしたね」

訊くまでも無かったとはかりに、勝手に自己完結するアポラウシウス。



『ちょっ!? 揶揄ってるの?!』

ソキウスは突っ込みそうになるが、そんな雰囲気でもないので取り敢えず我慢する。

その代わり問い返してやる事にした。

「アポラウシウスさんは不安にならないのですか?」



「私ですか? ふむ…」

そう言って少し思考した後、アポラウシウスは告げた。

「最悪の事態…つまり魔神王を倒せそうに無いなら、全てを見捨てて逃げるでしょうね。ですから本来であれば、私の中で不安と言う定義は存在しません」



「それって…凄い自己中ですよね」

余りにも薄情、或いは信義に欠けると言うべきか…ソキウスは呆れ過ぎて素直な思いが口を突く。



「フフフッ…仰る通りです。それでも今回ばかりは話が違いますよ」



「…? どう言う意味ですか?」

表現し難い嫌な予感がするソキウス。



「先ず共に組織を運用する相方…ソキウスさんが居ます。貴女を放って逃げたりはしません」



「じゃあ"先ず"と言ったからには、他にも逃げ出せない理由が有るのですよね? まさか魔神から人類を守る為だなんて、嘘臭い事は言わないで下さいよ」



「ハハハッ…私が人類の為に? 有り得ませんね。人類が滅びても私だけは生き残って見せましょう」

アポラウシウスは戯けた口調で言った。



明らかに冗談ではあるが、有り得なくも無いとも思う。

そして裏に隠された真意が何かソキウスは気になり、駄目元で尋ねてみた。

「フフッ…それでどうなんです?」



「我々はフォボス武國支部の運営をする事になりましたが、そのフォボスの総帥がタトリクス様だったのです…こんな偶然が有るでしょうか?」



少し興奮気味に告げるアポラウシウスだが、問いに答えておらず困惑するソキウス。

また何か狂気じみた物を感じ背筋に悪寒が走った。

『え…何?! 怖いんだけど・・・』



「あぁ~~ソキウスさんはご存知なかったかな? 私は以前からタトリクス様が気に掛かって仕方無くてですね、直に想いを伝えたばかりなのですよ」



「えぇぇ?!」

アポラウシウスの突拍子も無い行動もだが、この意気揚々な言い様にソキウスは嫌な予感しかしない。

『ま、まさかプリームス様…死神相手に思わせ振りな事をしたんじゃ……』



するとアポラウシウスは嬉しそうに続けるのだ。

「実は食事に誘ったところ、落ち着いてからなら構わないと御返事を頂いたのですよ!」



空中でズッコケるソキウス。

「そ、そうですか…良かったですね」

『はぁ~~ビックリした。只の食事か……』


しかしながら最凶最悪と言われた死神アポラウシウスが、こんな紳士的で初心うぶな一面が有るとは意外な事この上ない。

『人は見掛けには因らないものね…と言うか、それでも気持ち悪いけど』

見直しはしたが、根本的な不快さは変わらない…何とも不憫な男である。



「要するにですね、タトリクス様との食事を実現するには、速やかに魔神王を処理せねば為らない訳です」



「確かに人間を害する魔神の王を放置しては、落ち着いてなんか居られませんからね。でも…食事の為に命を懸けるだなんて、」

正気の沙汰では無い。

『他に何か企みでも有るのでは?』

故にソキウスは勘繰られずには居られなかった。



「目的も手段も全ては我が矜持を貫く為…ですから矜持に命を懸ける事を厭いません」



『……理解に苦しむわね』

「え~と…要するに美しい女性と食事をする事が、アポラウシウスさんも矜持? それって只の生き様では…」



「フッ…そうとも言いますね。兎に角、私は強くて美しい女性が大好きなのです。因って食事は通過点に過ぎず、私の人生をより豊かにし、より私を高みへ押し上げる為にタトリクス様は必要なのですよ」



『んんん?? それって…』

小難しい言い回しで饒舌に語るアポラウシウスだが、とどの詰まり”高尚に言っている”だけである。

「ただ単に…タトリクス様とイチャイチャしたいだけなのでは?」



「その通りです! うはははっ!」



その刹那、縦穴の底に着き、今度は完全にズッコケてしまうソキウスであった。

『この人…馬鹿だわ。このまま一緒に進んで大丈夫なのかしら…』


楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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