1278話・蜜月の世界
プリームスは古代遺跡の一画らしき場所で過ごし、ある事に気付く。
時間の流れが"地上"とは違うように思えたのだ。
それはハッキリとした確証は無いが、精霊界に似た違和感から来る確信に違い推測だった。
『恐らくは魔神王が作り出した結界か、或いは空間呪法の影響なんだわ…』
そうなると現実でもあり、また非現実とも言える。
そしてここに居るのは自分とギンレイ…正確にはアニムスと二人きり。
このまま過ごし続け、一体どうなってしまうのか?
加えて隔日でアニムスが血と魔力を吸う所為で、プリームスは体の自由が殆ど利かない。
歩く事も儘ならず、全ての世話はアニムス頼りな状況だ。
『私をアニムに依存させるのが狙いか…』
頭の中では冷静に考えられるプリームスだが、ひとたびアニムスからギンレイへ人格が変わると抗えない。
この情動は理性で何とか出来る類の物では無かった。
ベッドに横たわるプリームスの元へ、アニムスがやって来た。
丁度、今日は血と魔力を吸われる日だ。
「いつまで続けるつもり?」
ぶっきら棒にプリームスから訊かれ、アニムスは微笑みながらベッドへ腰掛けた。
「プリームスを手に入れるまでだ」
「私は体の自由を奪われ、尚且つアニムス無しでは生きられない状況よ。今更何を…」
「余はプリームスの心を手に入れたいのだ」
プリームスは唖然とする。
「……」
それは屈服を意味しており、受け入れられる訳も無いのだから。
なのに執拗な繰り返しの"行為"は、これと言った苦痛も無い。
逆に細心の注意を払い、命に関わらないよう調整しているのが目に取れた。
『おいおい…これでは不器用な人間と大差無いぞ』
そう…例えるなら初恋に落ち、強引に成就させようとする少年に似ている。
1000年以上生きる人外に付き纏われるとは、正直な話、350年の生涯で初めての展開だ。
殆ど身動きの取れないプリームスへ、アニムスが身を寄せて来た。
「さて、今日も甘美な血と魔力を頂こうか」
「血と魔力は幾らでも吸わせてやる。その代わりにギンレイを解放しろ」
囚われの身でありながらも、プリームスは強気の言い様である。
これにアニムスは苦笑した。
「フフッ…頑固にも程があるぞ」
「貴様は言った筈だ。私が身を差し出せば言う事を聞くと」
「そう言えばプリームスは信義を重んじるのだったな。なら尚更応じられない」
「…?」
プリームスは話が噛み合わない気がした。
魔神王の使徒は別として、そもそも魔神と会話出来る事自体が奇跡なのだ。
すると今度は苦笑いを浮かべるアニムス。
「勘違いしているようだが…余が求めるのは心身共にプリームスの全てだ。故に取り交わしは果たされていない」
「ぐっ…」
全くその通りで、プリームスは言い返せずに口籠る羽目に。
『くそっ…流石は1000年も地上に居ただけはあるな、』
ここまで来ると、もう魔神では無く人と遜色無い。
否…魔神や人と言った区切りを付ける事が、元より間違いだったと思えてしまう。
また同時に素朴な疑問が湧いた。
「仮に私が全てを差し出したら、今後アニムスは如何するつもりだ?」
「……お前と共に生き、この世界を謳歌する」
『謳歌って…そればっかりだな』
プリームスは少し呆れるが、その気持ちが分からなくも無かった。
生き延びる為とは言え、1000年間も歴代の武王の中で封印され続けたのだ。
そうして溜まりに溜まった精神的負荷の解放、募り続けたであろう自由への渇望を満たす…これらの目的は芽生えて当然の物だろう。
『ある意味で憐れ…だが同情出来ても同調は出来ない』
結局、人間の命を簡単に奪ってしまう魔神とは、根本的に相容れないのだ。
プリームスが黙り込んでいると、アニムスが僅かに焦れた様子で言った。
「余と共に生きれば得られる物が大きいぞ」
「得られる物?」
「プリームス…お前は世界に充満する因果の闇を、吸収し易い体質なのだろう? それを余が浄化してやる事が出来る…こうしてな」
そう答えたアニムスは、プリームスの首筋に優しく噛り付いた。
「うぅぅ……どうして…それを」
血と魔力を吸われ、身体が僅かに波打つプリームス。
「気付かなかったのか? それとも気付かないように惚けていたのか? 余に吸われて、不純物が取り除かれる妙な快感を覚えただろう?」
アニムスに言われた通り、プリームスは血と魔力を吸われる事に快感を覚えていた。
しかし、これを認めてしまえば溺れてしまう…だから必死に堪え考えないように努めていたのだった。
『まさか…因果の負属性を吸収出来るのか?!』
ありえない…と思うが、ふと盲点に気付く。
因果の負属性は人の恨みや後悔…言わば妄執が折り重なったも物を根源とする。
人間を淘汰しようとする魔神が、それを糧としても何ら可笑しくは無い。
「余の存在や行動は、それだけで因果の闇を生み出す。だが世界に満ちた因果の闇を取り込む事が出来ないのだ。それをプリームスが集めてしまう体質ならば何と都合の良い事か」
『私を介して因果の負属性を取り込む……そうか、初めから私の”体質”が目当てだったのか』
「笑わせる……私を愛しているなど、口先だけの嘘だった訳だな」
冷ややかにプリームスが呟くと、アニムスは慌てた様子で身体を離して言った。
「違う! お前が言っているのは飽く迄も結果論だ。余の中で打算など1つも無い」
慌てる魔神の王に、プリームスは人間味を感じ笑みが漏れそうになる。
だが日和っている場合では無い。
生半可に身を呈してもアニムスを御し得ず、そのアニムスが因果の負属性を生むのだから。
『結局は相容れぬか…』
もう最終手段しか残っていないかも知れない。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




