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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第八章:武王が居た国
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1278話・蜜月の世界

プリームスは古代遺跡の一画らしき場所で過ごし、ある事に気付く。

時間の流れが"地上"とは違うように思えたのだ。

それはハッキリとした確証は無いが、精霊界(アストラルサイド)に似た違和感から来る確信に違い推測だった。


『恐らくは魔神王(アニムス)が作り出した結界か、或いは空間呪法の影響なんだわ…』

そうなると現実でもあり、また非現実とも言える。


そしてここに居るのは自分とギンレイ…正確にはアニムスと二人きり。

このまま過ごし続け、一体どうなってしまうのか?


加えて隔日でアニムスが血と魔力を吸う所為で、プリームスは体の自由が殆ど利かない。

歩く事も儘ならず、全ての世話はアニムス頼りな状況だ。


『私をアニムに依存させるのが狙いか…』

頭の中では冷静に考えられるプリームスだが、ひとたびアニムスからギンレイへ人格が変わると抗えない。

この情動は理性で何とか出来る類の物では無かった。



ベッドに横たわるプリームスの元へ、アニムスがやって来た。

丁度、今日は血と魔力を吸われる日だ。



「いつまで続けるつもり?」



ぶっきら棒にプリームスから訊かれ、アニムスは微笑みながらベッドへ腰掛けた。

「プリームスを手に入れるまでだ」



「私は体の自由を奪われ、尚且つアニムス無しでは生きられない状況よ。今更何を…」



「余はプリームスの心を手に入れたいのだ」



プリームスは唖然とする。

「……」

それは屈服を意味しており、受け入れられる訳も無いのだから。


なのに執拗な繰り返しの"行為"は、これと言った苦痛も無い。

逆に細心の注意を払い、命に関わらないよう調整しているのが目に取れた。


『おいおい…これでは不器用な人間と大差無いぞ』

そう…例えるなら初恋に落ち、強引に成就させようとする少年に似ている。

1000年以上生きる人外に付き纏われるとは、正直な話、350年の生涯で初めての展開だ。



殆ど身動きの取れないプリームスへ、アニムスが身を寄せて来た。

「さて、今日も甘美な血と魔力を頂こうか」



「血と魔力は幾らでも吸わせてやる。その代わりにギンレイを解放しろ」

囚われの身でありながらも、プリームスは強気の言い様である。



これにアニムスは苦笑した。

「フフッ…頑固にも程があるぞ」



「貴様は言った筈だ。私が身を差し出せば言う事を聞くと」



「そう言えばプリームスは信義を重んじるのだったな。なら尚更応じられない」



「…?」

プリームスは話が噛み合わない気がした。

魔神王の使徒は別として、そもそも魔神と会話出来る事自体が奇跡なのだ。



すると今度は苦笑いを浮かべるアニムス。

「勘違いしているようだが…余が求めるのは心身共にプリームスの全てだ。故に取り交わしは果たされていない」



「ぐっ…」

全くその通りで、プリームスは言い返せずに口籠る羽目に。

『くそっ…流石は1000年も地上に居ただけはあるな、』


ここまで来ると、もう魔神では無く人と遜色無い。

否…魔神や人と言った区切りを付ける事が、元より間違いだったと思えてしまう。

また同時に素朴な疑問が湧いた。

「仮に私が全てを差し出したら、今後アニムスは如何するつもりだ?」



「……お前と共に生き、この世界を謳歌する」



『謳歌って…そればっかりだな』

プリームスは少し呆れるが、その気持ちが分からなくも無かった。


生き延びる為とは言え、1000年間も歴代の武王の中で封印され続けたのだ。

そうして溜まりに溜まった精神的負荷の解放、募り続けたであろう自由への渇望を満たす…これらの目的は芽生えて当然の物だろう。


『ある意味で憐れ…だが同情出来ても同調は出来ない』

結局、人間の命を簡単に奪ってしまう魔神とは、根本的に相容れないのだ。



プリームスが黙り込んでいると、アニムスが僅かに焦れた様子で言った。

「余と共に生きれば得られる物が大きいぞ」



「得られる物?」



「プリームス…お前は世界に充満する因果の闇を、吸収し易い体質なのだろう? それを余が浄化してやる事が出来る…こうしてな」

そう答えたアニムスは、プリームスの首筋に優しく噛り付いた。



「うぅぅ……どうして…それを」

血と魔力を吸われ、身体が僅かに波打つプリームス。



「気付かなかったのか? それとも気付かないように惚けていたのか? 余に吸われて、不純物が取り除かれる妙な快感を覚えただろう?」



アニムスに言われた通り、プリームスは血と魔力を吸われる事に快感を覚えていた。

しかし、これを認めてしまえば溺れてしまう…だから必死に堪え考えないように努めていたのだった。

『まさか…因果の負属性を吸収出来るのか?!』


ありえない…と思うが、ふと盲点に気付く。

因果の負属性は人の恨みや後悔…言わば妄執が折り重なったも物を根源とする。

人間を淘汰しようとする魔神が、それを糧としても何ら可笑しくは無い。



「余の存在や行動は、それだけで因果の闇を生み出す。だが世界に満ちた因果の闇を取り込む事が出来ないのだ。それをプリームスが集めてしまう体質ならば何と都合の良い事か」



『私を介して因果の負属性を取り込む……そうか、初めから私の”体質”が目当てだったのか』

「笑わせる……私を愛しているなど、口先だけの嘘だった訳だな」



冷ややかにプリームスが呟くと、アニムスは慌てた様子で身体を離して言った。

「違う! お前が言っているのは飽く迄も結果論だ。余の中で打算など1つも無い」



慌てる魔神の王に、プリームスは人間味を感じ笑みが漏れそうになる。

だが日和っている場合では無い。

生半可に身を呈してもアニムスを御し得ず、そのアニムスが因果の負属性を生むのだから。

『結局は相容れぬか…』


もう最終手段しか残っていないかも知れない。


楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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