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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第八章:武王が居た国
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1277話・人を知った先に在るもの

『くそ…無理に解析魔法(アナライズ)を使うんじゃなかった』

プリームスは今更ながら後悔していた。


しかしながら、あの時は仕方が無かったとも言える。

魔神王へ直に触れなければ、ギンレイと魔神王の状況を詳しく解析出来なかったのだ。


そして得られた情報は驚愕と絶望そのものだった。

何と魔神王の核と思われし物から、ギンレイの存在力…言わば魂を感じたからだ。

これは詰まる所、魔神王にギンレイの魂が吸収された事を意味していた。


もう何もかもが手遅れ…そう思えた時、ふと魔神王の言葉が脳裏に過った。

"元より何も変わっていない。いや…元に戻ったと言うべきだろう"


『どう言う意味だ? 仮に言葉通りだったなら…』

全てを確かめなければ為らない。

そうでなければ諦める事も、また後悔もし切れない。

「魔神王…ギンレイの自我はどうなった?」



「アニムスだ」

不機嫌そうに魔神王(アニムス)は返した。



『くっ! ギンレイの姿で偉そうに!』

だが機嫌を損ねては得られる物も得られない…仕方無くプリームスは折れた。

「アニムス…教えてくれ」



「フッ…初めから素直になれば良かったのだ。余はプリームスさえ居れば満足なのだからな」



「……」

そんな事を言われても、プリームスとしては反応に困るばかりだ。

そうして気不味くなって周囲を見渡すと、無機質なベッド?に寝かされているのに気付く。


『ここは…まさか古代遺跡の内部?』

見覚えがある屋内の材質、漂う空気や雰囲気が、以前に来た事のある武王宮の地下に酷似していた。



「ギンレイの自我は余と共にある。そもそも余を倒し封印する為の血統は、余の存在力から分けた物なのだからな」



「なっ!??」

アニムスの答えに、プリームスは目を見張った。



「余は実体の無い存在として生まれ、故に依代を必要としたのだ。ならば出来る事は…いや、すべき事など決まっておろう?」



暗に告げられプリームスは全てを察した。

『武國自体がアニムスの作った物?!』


そう、いちいち依代を探すなど非効率過ぎる…それが寿命の有る人間なら尚更。

だからこそアニムスは依代となる者を、継続的に手に入れられる機構を作ったのだろう。



「つまりギンレイの体が余の依代となるのも、またギンレイの自我が余に融合するのも全て予定調和なのだ。今更になって何を憂う?」

然も当然と言わんばかりのアニムス。



「……」

プリームスは愕然とする。

『そんな……今まで私は…魔神王の一部と接していたと言うのか?!』



「…何故そんな悲壮な顔をする?」

プリームスの傍に座ると、アニムスは不思議そうに小首を傾げた。



「ギンレイは…私の大切な存在だった。なのに…もう触れ合う事も出来ないなんて…酷過ぎる」

余りにもの真実にプリームスは冷静さを失い、感情の赴くままに言葉が口を突く。


ギンレイに執着している事を、魔神王(アニムス)に悟られてしまう…分かっているのに抑制が利かない。

それは恰も因果の負属性が、破壊や殺戮の衝動から、ギンレイへの妄執に変わったかのようだった。


「ギンレイを返して…」

制御出来ない感情が素直な言葉を、そして感情を露わにさせた。



ポロポロと涙を流して告げるプリームスを目の当たりにし、アニムスは困惑する。

「プリームス……」


武王の体に封印され続けた1000年間、アニムスが人を知るには十分過ぎる時間があった。

どうして人が人を想い、また愛し合うのか?

何故、寄り添わなければ生きられないのに、人同士は争うのか?

『知った気で居たが…実際に経験するのでは全く違う』


そう、武王の体に封印されていた時は経験では無く、ただ俯瞰(ふかん)で見ているだけだったのだろう。

故に求められているのがギンレイと知り、アニムスは落胆する己に気付いた。

『そうか…これが希望を満たされなかった人の感情なのか』


手に入れたい存在、また大切に慈しみたい対象…それがアニムスにとってプリームスなのだ。

そんな相手が悲嘆に暮れる様子など、正直見たい訳がなかった。


「余はプリームスを愛している。これがギンレイの影響なのは否定出来ないが、それでも余の切実なる想いでもある。お前が悲しむ事はしたくない…」

そう告げたアニムスは、ソッとプリームスの額に口付けをする。


それから指で優しくプリームスの涙を拭って言ったのだ。

「タトリクス様…いえ、今はプリームス様とお呼びするべきでしょうか」



「え……ギンレイ…なの?」

もう聞く事が叶わないと思われた声を、確かにプリームスは聞いた。



「はい…アニムスの支配下に在りますが、今こうして話しているのは紛れもない"私"です」



「うぅ…ギンレイ…」

プリームスは抱きしめたい思いで一杯になる。

だが体の自由が利かず涙ばかりが溢れた。



「あらあら…折角の綺麗なお顔が台無しですよ」

そんなプリームスをギンレイは優しく抱きしめた。



「本当にギンレイなの?」

腕の中で怖々(おずおず)と尋ねるプリームス。


魔神王(アニムス)に体を乗っ取られ、自我まで融合されてしまったと思っていたからだ。

仮に自分を籠絡する為、手段を選ばずにした"振り"なら、もはや抗う事は出来ないだろう。



「はい、本当に私です。ですがアニムスの意思に反する事は出来ないのです…申し訳ありません」



「……」

プリームスは不思議で為らなかった。

これは只の慰めなのか?…と。

愚図り悲嘆する自分を見兼ねて、アニムスの一時的な配慮…否、只の処置なのでは?



怪訝さが触れ合った部分から伝わったのか、ギンレイは優しく諭すように告げる。

「アニムスは私と同程度にプリームス様を慕っているようです。きっと貴女を"完全"に手に入れる為、手段を選ばないかも知れません。だからこそ私の自我は生かされているのでしょう」



それは詰まる所、ギンレイを人質にしているに同義だった。

それでも大切な存在が帰って来たのは間違い無い。

例えアニムスの掌の上で踊っているのだとしても、プリームスにとって余りにも甘美な現実だった。

「ギンレイ…私を離さないで」



「はい…プリームス様。貴女の御意向のままに…」



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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