1277話・人を知った先に在るもの
『くそ…無理に解析魔法を使うんじゃなかった』
プリームスは今更ながら後悔していた。
しかしながら、あの時は仕方が無かったとも言える。
魔神王へ直に触れなければ、ギンレイと魔神王の状況を詳しく解析出来なかったのだ。
そして得られた情報は驚愕と絶望そのものだった。
何と魔神王の核と思われし物から、ギンレイの存在力…言わば魂を感じたからだ。
これは詰まる所、魔神王にギンレイの魂が吸収された事を意味していた。
もう何もかもが手遅れ…そう思えた時、ふと魔神王の言葉が脳裏に過った。
"元より何も変わっていない。いや…元に戻ったと言うべきだろう"
『どう言う意味だ? 仮に言葉通りだったなら…』
全てを確かめなければ為らない。
そうでなければ諦める事も、また後悔もし切れない。
「魔神王…ギンレイの自我はどうなった?」
「アニムスだ」
不機嫌そうに魔神王は返した。
『くっ! ギンレイの姿で偉そうに!』
だが機嫌を損ねては得られる物も得られない…仕方無くプリームスは折れた。
「アニムス…教えてくれ」
「フッ…初めから素直になれば良かったのだ。余はプリームスさえ居れば満足なのだからな」
「……」
そんな事を言われても、プリームスとしては反応に困るばかりだ。
そうして気不味くなって周囲を見渡すと、無機質なベッド?に寝かされているのに気付く。
『ここは…まさか古代遺跡の内部?』
見覚えがある屋内の材質、漂う空気や雰囲気が、以前に来た事のある武王宮の地下に酷似していた。
「ギンレイの自我は余と共にある。そもそも余を倒し封印する為の血統は、余の存在力から分けた物なのだからな」
「なっ!??」
アニムスの答えに、プリームスは目を見張った。
「余は実体の無い存在として生まれ、故に依代を必要としたのだ。ならば出来る事は…いや、すべき事など決まっておろう?」
暗に告げられプリームスは全てを察した。
『武國自体がアニムスの作った物?!』
そう、いちいち依代を探すなど非効率過ぎる…それが寿命の有る人間なら尚更。
だからこそアニムスは依代となる者を、継続的に手に入れられる機構を作ったのだろう。
「つまりギンレイの体が余の依代となるのも、またギンレイの自我が余に融合するのも全て予定調和なのだ。今更になって何を憂う?」
然も当然と言わんばかりのアニムス。
「……」
プリームスは愕然とする。
『そんな……今まで私は…魔神王の一部と接していたと言うのか?!』
「…何故そんな悲壮な顔をする?」
プリームスの傍に座ると、アニムスは不思議そうに小首を傾げた。
「ギンレイは…私の大切な存在だった。なのに…もう触れ合う事も出来ないなんて…酷過ぎる」
余りにもの真実にプリームスは冷静さを失い、感情の赴くままに言葉が口を突く。
ギンレイに執着している事を、魔神王に悟られてしまう…分かっているのに抑制が利かない。
それは恰も因果の負属性が、破壊や殺戮の衝動から、ギンレイへの妄執に変わったかのようだった。
「ギンレイを返して…」
制御出来ない感情が素直な言葉を、そして感情を露わにさせた。
ポロポロと涙を流して告げるプリームスを目の当たりにし、アニムスは困惑する。
「プリームス……」
武王の体に封印され続けた1000年間、アニムスが人を知るには十分過ぎる時間があった。
どうして人が人を想い、また愛し合うのか?
何故、寄り添わなければ生きられないのに、人同士は争うのか?
『知った気で居たが…実際に経験するのでは全く違う』
そう、武王の体に封印されていた時は経験では無く、ただ俯瞰で見ているだけだったのだろう。
故に求められているのがギンレイと知り、アニムスは落胆する己に気付いた。
『そうか…これが希望を満たされなかった人の感情なのか』
手に入れたい存在、また大切に慈しみたい対象…それがアニムスにとってプリームスなのだ。
そんな相手が悲嘆に暮れる様子など、正直見たい訳がなかった。
「余はプリームスを愛している。これがギンレイの影響なのは否定出来ないが、それでも余の切実なる想いでもある。お前が悲しむ事はしたくない…」
そう告げたアニムスは、ソッとプリームスの額に口付けをする。
それから指で優しくプリームスの涙を拭って言ったのだ。
「タトリクス様…いえ、今はプリームス様とお呼びするべきでしょうか」
「え……ギンレイ…なの?」
もう聞く事が叶わないと思われた声を、確かにプリームスは聞いた。
「はい…アニムスの支配下に在りますが、今こうして話しているのは紛れもない"私"です」
「うぅ…ギンレイ…」
プリームスは抱きしめたい思いで一杯になる。
だが体の自由が利かず涙ばかりが溢れた。
「あらあら…折角の綺麗なお顔が台無しですよ」
そんなプリームスをギンレイは優しく抱きしめた。
「本当にギンレイなの?」
腕の中で怖々と尋ねるプリームス。
魔神王に体を乗っ取られ、自我まで融合されてしまったと思っていたからだ。
仮に自分を籠絡する為、手段を選ばずにした"振り"なら、もはや抗う事は出来ないだろう。
「はい、本当に私です。ですがアニムスの意思に反する事は出来ないのです…申し訳ありません」
「……」
プリームスは不思議で為らなかった。
これは只の慰めなのか?…と。
愚図り悲嘆する自分を見兼ねて、アニムスの一時的な配慮…否、只の処置なのでは?
怪訝さが触れ合った部分から伝わったのか、ギンレイは優しく諭すように告げる。
「アニムスは私と同程度にプリームス様を慕っているようです。きっと貴女を"完全"に手に入れる為、手段を選ばないかも知れません。だからこそ私の自我は生かされているのでしょう」
それは詰まる所、ギンレイを人質にしているに同義だった。
それでも大切な存在が帰って来たのは間違い無い。
例えアニムスの掌の上で踊っているのだとしても、プリームスにとって余りにも甘美な現実だった。
「ギンレイ…私を離さないで」
「はい…プリームス様。貴女の御意向のままに…」
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




