1272話・無力で役立たずでも…
闘技場の展望食堂に仮本営を構えたズィーナミとジズオ。
そこにクラージュとクシフォス、それに永劫の王国のアグノスとイースヒース、フィートが同席した。
「どうやら武林館の敷地内は、安全が確保できたようだな…」
ズィーナミはテーブルに広げた地図を見つめ呟いた。
同じく地図を見つめていたジズオが頷く。
「はい…これも永劫の王国の皆様や、クラージュ殿下、クシフォス閣下のお陰ですね」
そう安堵した様子で言うが、その表情からは隠しきれない影が窺い知れた。
魔神王の復活は、そのまま武王の死を意味する。
畏敬し忠誠を誓った存在を失えば当然の事だろう。
「で…これから如何する?」
ウロウロするクシフォスが、手持ち無沙汰な様子で誰ともなく尋ねた。
「街の安全が確保されれば、武林館の手勢と国軍を集めて武王宮を包囲する予定だ。ジズオ長官も異論は無かろう?」
ズィーナミに同意を求められ、ジズオは頷くも1つ意見をつける。
「そうですね…ただインシオン様と魔法騎士団の方々は、我々に代わり街の救援へ向かってくれました。任せ切りには出来ませんから、街にも軍を割きましょう」
「うむ…ならば軍の編成を急がそう」
3人の遣り取りを他所にイースヒースは少し気を揉んでいた。
自分が仕える王妃が、一人ソファーに座ったまま俯いていたからだ。
そしてソッとしておくべきだと分かりながらも、我慢が出来なくなり声を掛けてしまう。
「アグノス殿下…大丈夫ですか?」
明らかに大丈夫では無い…なのに上手く気遣えなくて、自分自身に落胆するばかりだ。
そんな臣下を察したのか、やつれた顔で微笑み返すアグノス。
「大丈夫です……でも、こんな時に何も出来ない自分が嫌で…」
今も敬愛するプリームスは、単身で魔神王と戦っているに違い無い。
そんな時に役に立てなくて、何が伴侶だと思わずには居られなかった。
何よりプリームスは因果の負属性の影響と、聖剣の呪いに苦しんでいる状態なのだ。
『せめて痛みだけでも私が代われたら良いのに…』
イースヒース自身も遣る瀬無さを感じていた。
だが、それを口には出来ない…自分よりも王妃であるアグノスの方が辛い筈なのだから。
『参ったな…こんな時の俺では何の役にも立たん』
そうして助け舟を求め、向かいのソファーに座るクラージュとフィートを見つめた。
「…!」
「……」
直ぐに気付くクラージュとフィート。
『俺ではどうにもならん。何とかしてくれ!』
と目で訴えるイースヒース。
これにクラージュは何故かシュン…と俯いてしまった。
術が無いと諦めたのだろうか?
一方フィートは急に立ち上がり、アグノスの傍へ立った。
「え…? な、何?」
当然アグノスは戸惑う羽目に。
「アグノス殿下…為さりたい事をすれば良いのです。我々はプリームス様の為に存在しますが、その伴侶であるアグノス殿下の意にも従う義務…いえ、覚悟があります」
相変わらず感情を表に出さずフィートは淡々と言った。
それは恰も「メディ-ロギオスの言葉など気にするな」と告げているようである。
「フィートさん……」
半ばアグノスは呆気にとられた。
それでも背中を押されたのは確かであり、行動する事への勇気を貰えた気がした。
『フフッ…ほんと、ここぞと言う所でフィートさんには助けられるわね』
「うん…ありがとう。じゃぁイースヒースさんも私に付いて来てくれる?」
急に話を振られたイースヒースは慌てた。
「えっ!? う、うむ…勿論です」
すると手持ち無沙汰だったクシフォスが、ここぞとばかりに名乗りを上げる。
「俺もだ! このクシフォス・レクスデクシアも姪っ子の為に一肌脱ぐぞ!」
余程に暇で仕方なかったのだろう。
「姪っ子…?」
キョトン…としながらアグノスは首を傾げた。
そうすると見兼ねたのか、クラージュが苦笑いを浮かべて突っ込み気味で説明する。
「アグノス様…お母上のエスティーギア陛下と、クシフォス様の奥方であるテユーミアさんは姉妹ですよ。ですから…」
「あ……そうでしたね! 今まで姪扱いなんて殆どされた事が無かったので失念していましたよ…ウフフ」
などとクシフォスへ遠回しに皮肉るアグノス。
しかし全く嫌味な語調は含まれず、逆に今の遣り取りが面白かった様子だ。
「そうだったか? まぁ叔父らしい事は全然してなかったしな当然か…ハハハッ」
『ちょっとは気が紛れたか…』
クシフォスからすれば確かに可愛い姪っ子ではある。
だが、それ以上に大事な友人の伴侶の力になってやりたい…そんな思いが今は強いのだった。
「さて、アグノス殿下…如何しますか?」
飽く迄も事務的で抑揚の無い声だが、フィートには珍しく急かす風な口振りだ。
「………」
暫く考え込んだ後、アグノスは告げた。
「何も出来ないかも知れません、それでも私はプリームス様の傍に居たい。だから武王宮へ…神域に向かいます。付いて来てくれますか?」
一番に答えるイースヒース。
「勿論です。命に変えても俺がお守りしますよ」
クラージュが前のめりに挙手する。
「私もご一緒します」
「クラージュ様…それは些か不味いのでは? 貴女様はセルウスレーグヌム王国の次期戦女神なのですよ。万が一が有っては列国問題に発展します」
と然も重要そうに言うフィートだが、その語調は感情が籠っておらず、全くもって他人事である。
「大丈夫です、そもそもお忍びですから。何か有ったなら、それは自己責任なので御心配無く。それにプリームス様と出会わなければ、恐らく私は生きてここに居なかったでしょう…だから少しでも恩返しがしたいです」
そう告げたクラージュの目は、確固たる揺るがない意志に彩られていた。
ここで場の雰囲気を乱す発言をフィートがする。
「そうなると…私も立場上は同行せねば為りませんが、生き残る自信がありませんね」
文官なので当然だが、ここまで来ると肝が据わっていると言うか、他者の目を気にしない性分としか言い様が無い。
「ガハハッ! そこは任せろ! お前の事はプリームス殿から守るように頼まれてるからな」
意気揚々にクシフォスが答えた。
「…だから心配なのですよ」
シレッと馬鹿にするフィート。
「ひでぇ! お前は何でいつも俺に冷たいんだ?! これでも一国の大公爵だぞ!」
「そう仰られても、私も永劫の王国の内政官です。事実上は内政の大半を管理しているので、他国で言う国務長官や内政大臣に当たります。ですから地位云々で私と討論をしたいのなら、そもそも…」
堪らずクシフォスは両手を挙げて謝る事に。
「あ〜〜分かった分かった、すまんすまん、俺の負け! 兎に角、命に代えても守ってやるから心配するな」
ズィーナミやジズオを含め居合わせた面々から、ドッと笑いが上がったのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




