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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第八章:武王が居た国
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1264話・魔神王アニムス 対 プリームス(3)

「余に仕えよとは言わぬ。余の同朋となれ…さすれば世界の半分を貴様に与えよう」

などと突然アニムスは告げた。



当然プリームスは絶句させられてしまう。

「……!!?」

『な、何を言っているんだ?!』



呆気に取られるプリームスを余所に、尚もアニムスは続ける。

「余は1000年間、この人間の住まう世界に存在し続け1つの真理に至った。ここは人間や魔神、またその他の種族に何の違いも格差も無い。有るのは共存するか否か…只それだけだ」



「……つまり私に共存を求めると言いたいのか?」



プリームスの問いに頷くアニムス。

「左様……共存出来ぬと言うなら争うしかない。そうして敗北すれば飲まれ滅亡する事となろう」



再び呆気に取られるプリームス。

『どう言う事だ?! 魔神は人類を淘汰するか、或いは滅殺する存在の筈。譲歩や妥協など有る訳が……』


ふと以前の世界での出来事が脳裏を過った。

魔族と人間の戦争…その魔族側でプリームスは魔王として全軍を率いた。

当時、幾度と激戦を繰り広げた相手…勇者一行。


その勇者へプリームスは妥協案を提示した事があった。

それは仕えるのでは無く"同朋"となれ…だ。

そうすれば世界の半分を勇者へ譲渡し、共に戦の無い世が作れると思ったのである。


これは飽く迄も駄目元の妥協案であり、プリームス自身も本気半分で冗談も半分だった。

結果的には現実的では無く、勇者に跳ね除けられてしまったが…。


『まるで、あの時の私の様だな…』

仮に自分と同じ心理状態で、且つ同じ思考を魔神王が抱いていたなら、それはもはや好戦的な魔神とは一線を画す。

恰も何か理想を抱く人間のようだ。


『やはり違う…私の知る魔神や魔神王とは…』

魔神王アニムスの存在自体に疑問や訝しみばかりが募る。


それでもプリームスの中では明確な答えが決まっていた。

「人間は人間相手だからこそ意思疎通が出来、話し合いや交渉が可能だ。だが魔神は違う…信用に値する担保が無い」

人を滅ぼそうとする魔神相手に、そもそも対話が成立する訳が無いのだ。



「面白い事を言う…こうして余と貴様の間で会話が出来ていると言うのに」

しれっと皮肉を口にするアニムス。

その表情は丸で人間のような笑みを浮かべていた。



『こいつ…』

やはり魔神として捉えては危険…そうプリームスは思わずには居られない。


魔神のように直線的で破壊的では無く、狡猾な"人"の思考を持ち合わせているのは明らかだ。

それは1000年もの間、人間の体に封印され五感を共有していた結果か?

どちらにしろ従来の魔神よりも危険な気がした。


「兎に角、その申し出には応えられない。どうしても私は魔神を滅ぼさねば為らないからな」

何か胸騒ぎがするが、プリームスは躊躇わず跳ね除けた。



「そうか…残念だ。なら四肢を砕けば少しは素直になるかも知れんな」

そう告げたアニムスは魔気を一層強め、プリームスに向けて一歩を踏み出す。



『この期に及んで、まだ私を引き入れたいのか?』

魔神王の妙な執着に、何か裏が有るとプリームスは思えて来た。

ならば間に受けて調子を崩す方が悪手である。


また例え人間に近い性質を得ていたとしても、それはもう関係無い…倒さねば為らない相手なのは変わり無いのだから。


「フッ…やれるものなら、やってみるがいい。逆に四肢を圧し折ってやる」

プリームスは杖を無形に構えたまま持ち、不敵に返した。



互いの距離が5mを切る。

刹那、超音速の斬撃が2つ放たれ、直後に衝突する。

すると凄まじい衝撃波が2人の間で爆ぜて、床を抉り瓦礫が舞い上がった。



「…!」

アニムスが2撃目を放とうとした直前、舞い上がった瓦礫や砂埃を引き裂き何かが飛来する。


それはプリームスが放ったと思われる2つ目の烈風。

しかも、ほんの僅かに2撃目が遅れて迫っており、完全にアニムスの隙を突いていた。


『クククッ…真に見事だ』

最大の危機と言っても良い状況で、アニムスは心底愉悦を感じる。

何故なら今まで、これ程までに命の危機を実感した事が無かった為だ。


歴代武王の継承時も、理想の肉体で無い故に敗退した振りをした。

そしてこの世界に初めて降り立った時も同じだ。

あの時は依代にしていた肉体が脆弱で、態と人間に倒され封印させるしかなかった。


何もかもが諦めを前提にした段取り…そこには落胆こそ有れど、愉悦など感じられる訳も無い。

だからこそ理想の体を得た今、愉悦を感じざるを得ないのだ。

『これこそが生きている実感! 全ての感覚が余には等しく喜びに変わる!』



突如、何かがアニムスから膨らんだ様に思えた。



「…?!」

プリームスでも直ぐに何かは分からなかった。

しかし必殺の連環閃が飲み込まれた様に消え、それで何とか察する。

『…体動衝撃か!』


体動衝撃──それは体内の気や魔力を圧縮し、瞬間的に体外へ放つ技だ。

その威力は使用者の技量や、魔力硬度、気の練度に左右される。

そして極地に至った者ならば、発した体動衝撃が音速を超え凄まじい破壊力を生む。


『だがこれは……』

並みの威力では無い。

烈風と同等の威力を持つ連環閃を相殺し、更に威力を保ったままなのだから。


そうしてプリームスは宙を舞う羽目になる。

半分は自ら後方に飛び退り、後の半分はアニムスの体動衝撃の余波を受けてしまったからだ。



「フハハハハッ!! 実に愉快!」

アニムスは両手を高らかに広げ天に向かって叫んだ。



片や20mも吹き飛ばされたプリームス。

体動衝撃の被害は零とは言えないが、上手く受け身を取り地面へ着地した。



「クククッ……流石に危なかったぞ。今の技は何だ?」

今の体動衝撃で、すっかり周囲は更地へ変わっていた。

その中を鷹揚に歩み進めながらアニムスは尋ねる。



『それは此方が訊きたい…なんで魔神が体動衝撃を使えるのよ!?』

「フッ…杖や槍なら可能な技だ」



「ほほう……それ故に剣では無く杖を使ったのか。フフッ…興味深い。もっと詳しく話すが良い」



「そんな簡単に話す訳…」

全て言い切る前にプリームスは思い止まった。

先程の一合で既に身体は悲鳴を上げ、少しでも回復の時間を稼ぎたかったのだ。

『うむむ……仕方ない。技を剥かれていく気がしてならないけど…』


「さっきの技は…」

背に腹は代えられない…こうしてプリームスは連環閃について講釈を始めるのであった。


楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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