1264話・魔神王アニムス 対 プリームス(3)
「余に仕えよとは言わぬ。余の同朋となれ…さすれば世界の半分を貴様に与えよう」
などと突然アニムスは告げた。
当然プリームスは絶句させられてしまう。
「……!!?」
『な、何を言っているんだ?!』
呆気に取られるプリームスを余所に、尚もアニムスは続ける。
「余は1000年間、この人間の住まう世界に存在し続け1つの真理に至った。ここは人間や魔神、またその他の種族に何の違いも格差も無い。有るのは共存するか否か…只それだけだ」
「……つまり私に共存を求めると言いたいのか?」
プリームスの問いに頷くアニムス。
「左様……共存出来ぬと言うなら争うしかない。そうして敗北すれば飲まれ滅亡する事となろう」
再び呆気に取られるプリームス。
『どう言う事だ?! 魔神は人類を淘汰するか、或いは滅殺する存在の筈。譲歩や妥協など有る訳が……』
ふと以前の世界での出来事が脳裏を過った。
魔族と人間の戦争…その魔族側でプリームスは魔王として全軍を率いた。
当時、幾度と激戦を繰り広げた相手…勇者一行。
その勇者へプリームスは妥協案を提示した事があった。
それは仕えるのでは無く"同朋"となれ…だ。
そうすれば世界の半分を勇者へ譲渡し、共に戦の無い世が作れると思ったのである。
これは飽く迄も駄目元の妥協案であり、プリームス自身も本気半分で冗談も半分だった。
結果的には現実的では無く、勇者に跳ね除けられてしまったが…。
『まるで、あの時の私の様だな…』
仮に自分と同じ心理状態で、且つ同じ思考を魔神王が抱いていたなら、それはもはや好戦的な魔神とは一線を画す。
恰も何か理想を抱く人間のようだ。
『やはり違う…私の知る魔神や魔神王とは…』
魔神王アニムスの存在自体に疑問や訝しみばかりが募る。
それでもプリームスの中では明確な答えが決まっていた。
「人間は人間相手だからこそ意思疎通が出来、話し合いや交渉が可能だ。だが魔神は違う…信用に値する担保が無い」
人を滅ぼそうとする魔神相手に、そもそも対話が成立する訳が無いのだ。
「面白い事を言う…こうして余と貴様の間で会話が出来ていると言うのに」
しれっと皮肉を口にするアニムス。
その表情は丸で人間のような笑みを浮かべていた。
『こいつ…』
やはり魔神として捉えては危険…そうプリームスは思わずには居られない。
魔神のように直線的で破壊的では無く、狡猾な"人"の思考を持ち合わせているのは明らかだ。
それは1000年もの間、人間の体に封印され五感を共有していた結果か?
どちらにしろ従来の魔神よりも危険な気がした。
「兎に角、その申し出には応えられない。どうしても私は魔神を滅ぼさねば為らないからな」
何か胸騒ぎがするが、プリームスは躊躇わず跳ね除けた。
「そうか…残念だ。なら四肢を砕けば少しは素直になるかも知れんな」
そう告げたアニムスは魔気を一層強め、プリームスに向けて一歩を踏み出す。
『この期に及んで、まだ私を引き入れたいのか?』
魔神王の妙な執着に、何か裏が有るとプリームスは思えて来た。
ならば間に受けて調子を崩す方が悪手である。
また例え人間に近い性質を得ていたとしても、それはもう関係無い…倒さねば為らない相手なのは変わり無いのだから。
「フッ…やれるものなら、やってみるがいい。逆に四肢を圧し折ってやる」
プリームスは杖を無形に構えたまま持ち、不敵に返した。
互いの距離が5mを切る。
刹那、超音速の斬撃が2つ放たれ、直後に衝突する。
すると凄まじい衝撃波が2人の間で爆ぜて、床を抉り瓦礫が舞い上がった。
「…!」
アニムスが2撃目を放とうとした直前、舞い上がった瓦礫や砂埃を引き裂き何かが飛来する。
それはプリームスが放ったと思われる2つ目の烈風。
しかも、ほんの僅かに2撃目が遅れて迫っており、完全にアニムスの隙を突いていた。
『クククッ…真に見事だ』
最大の危機と言っても良い状況で、アニムスは心底愉悦を感じる。
何故なら今まで、これ程までに命の危機を実感した事が無かった為だ。
歴代武王の継承時も、理想の肉体で無い故に敗退した振りをした。
そしてこの世界に初めて降り立った時も同じだ。
あの時は依代にしていた肉体が脆弱で、態と人間に倒され封印させるしかなかった。
何もかもが諦めを前提にした段取り…そこには落胆こそ有れど、愉悦など感じられる訳も無い。
だからこそ理想の体を得た今、愉悦を感じざるを得ないのだ。
『これこそが生きている実感! 全ての感覚が余には等しく喜びに変わる!』
突如、何かがアニムスから膨らんだ様に思えた。
「…?!」
プリームスでも直ぐに何かは分からなかった。
しかし必殺の連環閃が飲み込まれた様に消え、それで何とか察する。
『…体動衝撃か!』
体動衝撃──それは体内の気や魔力を圧縮し、瞬間的に体外へ放つ技だ。
その威力は使用者の技量や、魔力硬度、気の練度に左右される。
そして極地に至った者ならば、発した体動衝撃が音速を超え凄まじい破壊力を生む。
『だがこれは……』
並みの威力では無い。
烈風と同等の威力を持つ連環閃を相殺し、更に威力を保ったままなのだから。
そうしてプリームスは宙を舞う羽目になる。
半分は自ら後方に飛び退り、後の半分はアニムスの体動衝撃の余波を受けてしまったからだ。
「フハハハハッ!! 実に愉快!」
アニムスは両手を高らかに広げ天に向かって叫んだ。
片や20mも吹き飛ばされたプリームス。
体動衝撃の被害は零とは言えないが、上手く受け身を取り地面へ着地した。
「クククッ……流石に危なかったぞ。今の技は何だ?」
今の体動衝撃で、すっかり周囲は更地へ変わっていた。
その中を鷹揚に歩み進めながらアニムスは尋ねる。
『それは此方が訊きたい…なんで魔神が体動衝撃を使えるのよ!?』
「フッ…杖や槍なら可能な技だ」
「ほほう……それ故に剣では無く杖を使ったのか。フフッ…興味深い。もっと詳しく話すが良い」
「そんな簡単に話す訳…」
全て言い切る前にプリームスは思い止まった。
先程の一合で既に身体は悲鳴を上げ、少しでも回復の時間を稼ぎたかったのだ。
『うむむ……仕方ない。技を剥かれていく気がしてならないけど…』
「さっきの技は…」
背に腹は代えられない…こうしてプリームスは連環閃について講釈を始めるのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




