1261話・魔神王アニムス
魔神王の物だと思われる結界を突破し、プリームスは神域の更に奥へと進む。
神域を進む間、その厳かな内装や様式美に少しばかり興味が惹かれた。
そもそもリヒトゲーニウス王国の王宮とは違い、華美さが見当たらない武王宮。
特に神域は、寺院かと思うくらいに地味である。
その代わり簡素な建材の美しさや、要所に掘られた高度な彫刻が目を引いた。
だが残念な事に下級魔神が暴れた所為か、至る所が破損し見る無惨な状態だ。
なのに人も魔神も居ない…やはり魔神王の糧にされたのだろうか?
そうなると相当に力を取り戻している可能性がある。
『私は良いけどギンレイが心配だわ…』
封印から復活したてならまだしも、現状で戦いになればギンレイが不利になるのは疑いようが無い。
「……!!」
少し進むと異様に破壊された神域が広がり、同時に禍々しい魔力と存在をプリームスは感じ取った。
『魔神王か!?』
そして警戒しながら視界を遮る半壊した壁を越えると、1人…何者かが佇んで居た。
「……ギンレイ……?」
それは見紛う訳も無いギンレイの姿。
しかし何かが違った…存在感と言うべきか、内包される中身が…。
「ほう……結界を越えてここまで来たのか?」
そのギンレイだった存在は不思議そうにプリームスへ尋ねた。
結界を越える間際からプリームスは完全に気配を消していた、故に気取られなかったのだろう。
一方プリームスは愕然とし、その場に崩れ落ちそうになる。
『そんな……』
ギンレイの事が心配だったが、魔神王と相対する為に力を温存しなけれな為らなかった。
されど、それこそが失敗だったのだ。
形振り構わず駆け付けていれば、誰よりも先に魔神王と相対出来ていたかも知れず、こうしてギンレイが奪われる事も無かった筈。
「答えぬのか? ならば貴様は何者だ?」
再度の問い掛けに、プリームスは頭を抱えながら不機嫌そうに返した。
「ギンレイの声で図々しく喋るな」
「ほほう…貴様はギンレイと縁が深い者か」
そうギンレイだった存在は告げ、少し思考する素振りを見せる。
「んん……変だな。確かに記憶には貴様に似た者が居る。しかし随分と様相が違うな」
「……」
プリームスは自身の中で湧き上がる怒りを必死に堪えた。
そうしなければギンレイ諸共に全てを壊してしまいそうだったからだ。
「ふむ……先に名乗るべきだったか。余は貴様ら人間が魔神王と呼ぶ存在…名はアニムスと言う」
魔神王アニムスの名乗りなど歯牙にも掛けず、プリームスは密かに魔法を発動させる。
それは解析魔法アナライズだ。
これに因り魔神王が、どの程度ギンレイの肉体を浸食しているか確認するのだ。
推測するにアニムスは元が精神体で、その魔神核も物質では無い。
『なら物質的に浸食はされていない筈』
つまりギンレイの肉体から、魔神王の精神体を分離すれば良いだけだ。
しかしながら言うは易し…精神体だけを見極めて分離するなど、プリームス自身も初めての試みで至難の業だろう。
また仮に魔神核が物質化していたなら、生半可な方法では分離出来ない。
どちらにしろギンレイの体を行動不能にしなければ、何も始められない状況だ。
「……!!」
そうしてアナライズの解析でプリームスは目を見張った。
なんと魔神核らしき物も、精神体らしい物も見当たらなかったのである。
『どう言う事だ…そんな筈は…?!』
「ん〜〜何をしている?」
アニムスは右手の刀の切先をプリームスへ向けた。
『不味い…兎に角は先に無力化しなければ』
解析を止めたプリームスは臨戦体勢を取った。
好き勝手に動かれては後手に回るだけ…そうなればギンレイから魔神王を分離するのが益々難しくなる。
何としても早期に決着をつけねば為らない。
『ギンレイの体を傷付けずに無力化する方法は…』
やはり時間を止めるか、或いは存在力を固定するしか無い。
だが、このどちらも極大級魔法で、魔神王の攻撃を躱しながら仕掛けるのは無理があった。
『くそッ! 私が先に来ていれば!!』
後悔ばかりがプリームスに湧き上がる。
アニムスが前進した。
「貴様…本当に何者だ? 記憶から該当する存在はタトリクス・カーンのようだが…やはり変だ」
「チッ…!」
確実な対処が決まない所為か、プリームスには珍しく体が後退してしまう。
「まぁ良い…貴様を殺して直接脳から情報を吸い出してやる」
鷹揚に前進するアニムス。
その姿はギンレイのままだが、禍々しい魔気を纏った所為で全くの別人に思える。
『仕方ない…』
プリームスは意を決した。
手足を折ってでも無力化するしかない…そして魔神王諸共にギンレイを氷漬けにし、そこで落ち着いて方法を考えるが得策だ。
「ん…? ほほう…余と戦うつもりか? 逃げぬとはいい度胸だ」
アニムスは意外そうに足を止めた。
目の前の絶世の美女が後退を止め、その手に何処から取り出したのか棒切れを持ったからだ。
無形の構えで佇むプリームス。
得物に刃物を選ばなかったのは、出来うる限りギンレイを傷付けない為。
しかし今の身体で何処まで動けるか不安でもあった。
勿論、魔法の使用も控える必要がある。
先ほど使用した解析魔法は殆ど魔力を消費しないが、そんな魔法でも身体に激痛が走ったのだ。
そうなると得意な魔力を併用しての武技は、事実上の使用不可となる。
そこに何も憚る事無く攻撃が可能な魔神王。
こちらが不利なのは明白だった。
『フッ……ギンレイの心配をして、今度は同じ心配を自分にするとは…』
全くもって自虐的で皮肉な状況である。
「人間にしては相当な傑物のようだが…余を相手取って生きて帰れると思っているのか?」
不思議そうに尋ねるアニムスに、プリームスは煽るように返す。
「私が怖いのか? 良く喋る魔神だ」
『怖い…?』
アニムスは怒りを見せる事無く、更に不思議そうにした。
「面白い事を言う。そもそも何故、余と相対する? 貴様ほどの人間なら逃げて生き残る事も可能だろうに」
「何だと…?」
「余は敵対する存在を滅殺する。しかし逃げるなら追わぬ…面倒だからな」
『この魔神王……』
根本的に通常の魔神と違う…そうプリームスは感じた。
否…そもそも魔神の王なのだから只の魔神と異なるのは当然だが、そう言う意味では無く根本的に何かが違う。
『魔神は人間を淘汰する為に生み出された筈…なのにこれでは……』
まるで人間の様だ。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




