1253話・メディ-ロギオスとクラージュ
武國へ単身でやって来たと言うクラージュ。
一国の姫であり、次期戦女神の立場なのにだ。
これを聞いたイースヒースは血の気が引いた。
「おいおいおいおい! 本国で大騒ぎになってるんじゃないか?!」
「え? あ〜〜かも知れませんね。でもちゃんと置き手紙はしましたし、きっと学びの一環として受け止めてくれますよ」
楽観的なクラージュの返答に、イースヒースは頭を抱える。
『これはお転婆が過ぎるぞ…』
「兎に角、何か有っては列国間問題になり兼ん。永劫の王国で保護するから、俺から離れんでくれよ」
「ハハハ…そんな大袈裟な。でも分かりました、イースヒースさんに守って貰います」
屈託の無い笑顔で返すクラージュ。
その可愛らしい仕草にイースヒースはグッと来た。
「う、うむ…」
『何と言うか…女の子は幼くもあり、大人っぽい所も有るものだな』
武芸一辺倒の人生だっただけに、子供どころか女っ気さえ縁が無かった。
そんな自分が他人の娘にグッと来る位なのだ、実際に結婚して子供が生まれたらどうなる事やら。
『まぁ仮定は仮定…詮無い事だな』
「取り敢えずプリームス陛下に合流しよう。まだ闘技場内に居るだろうし、急ごう」
「は〜い!」
踵を返したイースヒースの後を、まるでクラージュは親の後を付いて行くように駆け出したのだった。
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イースヒースとクラージュが最初に向かったのは、闘技場の中央広場だ。
ここは舞台などを設営し対戦が行われ、それ以外なら演劇なども催される。
しかし今は下級魔神の襲撃で一部が瓦礫と化し、更に倒された魔神の亡骸が散乱して異様な光景だ。
そんな中、広場の中心に屈み込む人影と、白衣の人物が目に留まる。
「プリームス様!」
クラージュは急ぎ駆け寄った。
だが白衣の人物が振り向き告げる。
「お嬢さん…今は迂闊に触れては為りませんよ」
静かな言い様だが威圧感のある声…しかも聞き覚えがあった。
「……トゥレラ-ロギオス!?」
かつてプリームスと死闘を繰り広げた存在…狂気の魔法医師を目の当たりにし、クラージュは固まってしまう。
「…? あぁ〜〜私はトゥレラ-ロギオスではありませんよ。正しくは複製体で今はメディ-ロギオスと名乗っております。それに聖女陛下の忠実な臣下ですから、そんなに警戒なさらないで下さい」
「え…あ…はい…」
クラージュは半ば呆然と返事を返した。
皆がメディ-ロギオスの結界と話していたので、相当な魔術の使い手で、且つ狂気の魔法医師と同じ姓だと勝手に思い込んでいたのだ。
だが実際は狂気の魔法医師の複製体だった。
『こ、こんなの…本人と何が違うっていうの?!』
最早クラージュは戸惑いの極みである。
そんな少女を見兼ねてか、イースヒースが落ち着かせるように説明を口にした。
「彼は本当に複製体でな、その上プリームス陛下へ忠誠を誓い、色々と永劫の王国に貢献してくれている…だから信用して問題ない」
「複製体…」
トゥレラ-ロギオスが複製体を利用し、事実上の不死である事をクラージュは知っていた。
だからこそ何百年もの間、列国に脅威認定された存在なのだ。
『ならトゥレラ-ロギオスの意志を受け継いでいないって事?』
もう、それくらいしか考えられない。
見透かしたようにメディ-ロギオスは告げた。
「お嬢さんの推測通りですよ。私はトゥレラ-ロギオスの記憶や意志を受け継いでいません。まぁ端的に言えば、他人の空似と思って頂ければ問題ありません」
『そんな訳あるか!!』
傍に居たイースヒースが内心で突っ込むが、口に出した言葉は真逆である。
「そう言う訳で、他人の空似で何の問題も無い。今やプリームス陛下に次ぎ頼れる叡智の持ち主だ」
「な、成程…そう言う事なら信用します。私はクラージュ・ファマトゥウスです…宜しくお願いしますね」
流石は次期戦女神と言うべきか、気持ちや思考の切り替えが早い。
「こちらこそ宜しくお願いします…綺麗なお嬢さん」
『ほほぅ…この娘が原体が精霊魔石を移植した被検者ですか』
何かをするつもりは無いが、実にメディ-ロギオスの興味を惹いた。
「で、プリームス陛下は如何されたのだ?」
この場の只ならぬ空気を察し、イースヒースはメディ-ロギオスへ率直に尋ねる。
「ん? あぁ…この症状に見覚えが有りませんか?」
恰も教鞭を取る教師のように、回りくどい言い回しをする優男…もといメディ-ロギオス。
「んぁ?」
相変わらず飄々とする医師にイースヒースは苛立ちを見せるが、クラージュは違った。
「これって…闇堕ちの症状では?!」
以前、自分が切っ掛けで発症したプリームスの闇堕ち。
それが因果の負属性に因るものなのは、当然に知り得ていた。
「御名答です…流石はクラージュ姫様ですね。今は症状が落ち着くのを待っている所です」
「なっ?! 闇堕ち!?」
イースヒースは驚きの声を上げた。
オリクトの街と西方に繋がる唯一の道が、この闇堕ちが原因で吹き飛んだのである。
それは抑え切れない怒りと破壊衝動を湧き上がらせ、プリームスに超極大破壊魔法を使わせた事に因るものだった。
また破壊の規模に対して死者が皆無だったのは、正に奇跡的な幸運と言えるだろう。
「だ、大丈夫なのか?!」
巨躯のイースヒースに詰め寄られ、メディ-ロギオスは暑苦しそうに答えた。
「……大丈夫かどうかは私には判断し兼ねます。闇堕ちなんて経験した事が有りませんから」
「……ちっ!」
つい舌打ちしてしまうイースヒース。
『クソッ…この男は、こんな奴だった』
メディ-ロギオスにとって、他人は所詮他人なのである。
これは辛辣に思えるが、だからこそ的確で冷静な判断が可能とも言えた。
イースヒースとクラージュが心配する中、屈み込んでいたプリームスが小さく告げた。
「大丈夫…皆んなは万が一に備えていて」
「プリームス様…」
「プリームス陛下…」
見た目はタトリクスのままだが、今更になってだれも偽名で呼ばない。
それだけ憚る事を気にして居られない状況だった。
しかし遅れて現れた者が、間の抜けた調子で呼んだ。
「タトリクス様〜〜!」
「お〜ここに居たのか、タトリクス殿…」
事情や状況を察し得ないアグノスとクシフォスだった。
因みに一緒に現れたフィートは、
「……」
何を考えているか分からない、いつも通りの無言であった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




