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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第八章:武王が居た国
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1253話・メディ-ロギオスとクラージュ

武國へ単身でやって来たと言うクラージュ。

一国の姫であり、次期戦女神レギーナ・イムペラートムの立場なのにだ。


これを聞いたイースヒースは血の気が引いた。

「おいおいおいおい! 本国で大騒ぎになってるんじゃないか?!」



「え? あ〜〜かも知れませんね。でもちゃんと置き手紙はしましたし、きっと学びの一環として受け止めてくれますよ」



楽観的なクラージュの返答に、イースヒースは頭を抱える。

『これはお転婆が過ぎるぞ…』

「兎に角、何か有っては列国間問題になり兼ん。永劫の王国(アイオーン・ヴァスリオ)で保護するから、俺から離れんでくれよ」



「ハハハ…そんな大袈裟な。でも分かりました、イースヒースさんに守って貰います」

屈託の無い笑顔で返すクラージュ。



その可愛らしい仕草にイースヒースはグッと来た。

「う、うむ…」

『何と言うか…女の子は幼くもあり、大人っぽい所も有るものだな』


武芸一辺倒の人生だっただけに、子供どころか女っ気さえ縁が無かった。

そんな自分が他人の娘にグッと来る位なのだ、実際に結婚して子供が生まれたらどうなる事やら。


『まぁ仮定は仮定…詮無い事だな』

「取り敢えずプリームス陛下に合流しよう。まだ闘技場内に居るだろうし、急ごう」



「は〜い!」

踵を返したイースヒースの後を、まるでクラージュは親の後を付いて行くように駆け出したのだった。






 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※






イースヒースとクラージュが最初に向かったのは、闘技場の中央広場だ。

ここは舞台などを設営し対戦が行われ、それ以外なら演劇なども催される。

しかし今は下級魔神の襲撃で一部が瓦礫と化し、更に倒された魔神の亡骸が散乱して異様な光景だ。



そんな中、広場の中心に屈み込む人影と、白衣の人物が目に留まる。



「プリームス様!」

クラージュは急ぎ駆け寄った。



だが白衣の人物が振り向き告げる。

「お嬢さん…今は迂闊に触れては為りませんよ」



静かな言い様だが威圧感のある声…しかも聞き覚えがあった。

「……トゥレラ-ロギオス!?」

かつてプリームスと死闘を繰り広げた存在…狂気の魔法医師(ルナメディクス)を目の当たりにし、クラージュは固まってしまう。



「…? あぁ〜〜私はトゥレラ-ロギオスではありませんよ。正しくは複製体で今はメディ-ロギオスと名乗っております。それに聖女陛下の忠実な臣下ですから、そんなに警戒なさらないで下さい」



「え…あ…はい…」

クラージュは半ば呆然と返事を返した。


皆がメディ-ロギオスの結界と話していたので、相当な魔術の使い手で、且つ狂気の魔法医師(ルナメディクス)と同じ姓だと勝手に思い込んでいたのだ。

だが実際は狂気の魔法医師(ルナメディクス)の複製体だった。


『こ、こんなの…本人と何が違うっていうの?!』

最早クラージュは戸惑いの極みである。



そんな少女を見兼ねてか、イースヒースが落ち着かせるように説明を口にした。

「彼は本当に複製体でな、その上プリームス陛下へ忠誠を誓い、色々と永劫の王国(アイオーン・ヴァスリオ)に貢献してくれている…だから信用して問題ない」



「複製体…」

トゥレラ-ロギオスが複製体を利用し、事実上の不死である事をクラージュは知っていた。

だからこそ何百年もの間、列国に脅威認定された存在なのだ。


『ならトゥレラ-ロギオスの意志を受け継いでいないって事?』

もう、それくらいしか考えられない。



見透かしたようにメディ-ロギオスは告げた。

「お嬢さんの推測通りですよ。私はトゥレラ-ロギオスの記憶や意志を受け継いでいません。まぁ端的に言えば、他人の空似と思って頂ければ問題ありません」



『そんな訳あるか!!』

傍に居たイースヒースが内心で突っ込むが、口に出した言葉は真逆である。

「そう言う訳で、他人の空似で何の問題も無い。今やプリームス陛下に次ぎ頼れる叡智の持ち主だ」



「な、成程…そう言う事なら信用します。私はクラージュ・ファマトゥウスです…宜しくお願いしますね」

流石は次期戦女神(レギーナ・イムペラートム)と言うべきか、気持ちや思考の切り替えが早い。



「こちらこそ宜しくお願いします…綺麗なお嬢さん」

『ほほぅ…この娘が原体が精霊魔石を移植した被検者ですか』

何かをするつもりは無いが、実にメディ-ロギオスの興味を惹いた。



「で、プリームス陛下は如何されたのだ?」

この場の只ならぬ空気を察し、イースヒースはメディ-ロギオスへ率直に尋ねる。



「ん? あぁ…この症状に見覚えが有りませんか?」

恰も教鞭を取る教師のように、回りくどい言い回しをする優男…もといメディ-ロギオス。



「んぁ?」

相変わらず飄々とする医師にイースヒースは苛立ちを見せるが、クラージュは違った。


「これって…闇堕ちの症状では?!」

以前、自分が切っ掛けで発症したプリームスの闇堕ち。

それが因果の負属性に因るものなのは、当然に知り得ていた。



「御名答です…流石はクラージュ姫様ですね。今は症状が落ち着くのを待っている所です」



「なっ?! 闇堕ち!?」

イースヒースは驚きの声を上げた。


オリクトの街と西方に繋がる唯一の道が、この闇堕ちが原因で吹き飛んだのである。

それは抑え切れない怒りと破壊衝動を湧き上がらせ、プリームスに超極大破壊魔法を使わせた事に因るものだった。

また破壊の規模に対して死者が皆無だったのは、正に奇跡的な幸運と言えるだろう。



「だ、大丈夫なのか?!」



巨躯のイースヒースに詰め寄られ、メディ-ロギオスは暑苦しそうに答えた。

「……大丈夫かどうかは私には判断し兼ねます。闇堕ちなんて経験した事が有りませんから」



「……ちっ!」

つい舌打ちしてしまうイースヒース。

『クソッ…この男は、こんな奴だった』


メディ-ロギオスにとって、他人は所詮他人なのである。

これは辛辣に思えるが、だからこそ的確で冷静な判断が可能とも言えた。



イースヒースとクラージュが心配する中、屈み込んでいたプリームスが小さく告げた。

「大丈夫…皆んなは万が一に備えていて」



「プリームス様…」

「プリームス陛下…」

見た目はタトリクスのままだが、今更になってだれも偽名で呼ばない。

それだけ憚る事を気にして居られない状況だった。



しかし遅れて現れた者が、間の抜けた調子で呼んだ。

「タトリクス様〜〜!」

「お〜ここに居たのか、タトリクス殿…」

事情や状況を察し得ないアグノスとクシフォスだった。


因みに一緒に現れたフィートは、

「……」

何を考えているか分からない、いつも通りの無言であった。



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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