1251話・魔神王対策
魔神王の対策を尋ねると、
「それが一番の難題だ」
「ですね…例え倒せたとしても、魔神核を全て破壊し切れるか断言出来ませんし」
などとインシオンとグラキエースに返されてしまう。
これにズッコケそうになるテユーミア。
「ちょっ!? つまり対策は無いって事ですか?!」
「苦戦するやもしれんが、本来ならば魔神王を倒して終わりだ…もちろん再生せぬように魔神核を全て破壊する。しかし肉体を乗っ取れる性質の魔神王が、魔神核を"分かり易い位置"に持っているだろうか?」
質問を質問で返されテユーミアは困惑する。
「え? その…普通なら自分の弱点は隠すかと」
頷くグラキエース。
「その通りです。魔神は強靭な外骨格で守られていて、魔神王ともなると生半可な力では傷も付きません。そこに加えて弱点も隠されては、本当に死滅させる事は難しいでしょうね」
「な、成程…」
尤もな言い様だが…では策や指示とは如何に?
テユーミアが不安がっていると、インシオンが察した様子で微笑みながら告げる。
「大丈夫だ…その為に私はプリームス陛下から策を授けられ、ここに来たのだよ」
そして懐から取り出し見せた物は、4cm大の鉱石だった。
それは半透明で少し青み掛かっており、磨けば綺麗な宝石に成りそうだ。
「これは…氷石……精霊魔石ですか?」
これが何か、魔力に敏感なテユーミアは直ぐに知れる。
しかし何を用途とする物かまでは察し得なかった。
「うむ…これにはプリームス陛下の極大魔法が宿っている。壊れれば魔法が発動し、瞬時に周囲へ影響を及ぼす。私で無ければ危険過ぎて託されなかった品物だ」
そう答えるインシオンの表情は、僅かではあるが畏怖が含まれていた。
『極大魔法って……』
テユーミアは記憶と思考を巡らせる。
この世で本来なら極大系の魔法は存在せず、自分の知る限りでは主君しか扱えない。
更に氷の精霊魔石と言う事は、炎などの温度を活性化させる物では無く、逆に抑制し停滞させる魔法…。
「まさか永久氷棺…?!」
インシオンは頷いた。
「そうだ…これを魔神王へ使用する。無論、抵抗出来ないまで魔神王を弱体化させねばならん」
「た、確かに…永久氷棺なら魔神核諸共に…」
そこまで納得がいったテユーミアではあるが、盲点に気付く。
「あッ…! でも結局は封印と変わらないですよね? それに永久氷棺とは言いますけど、未来永劫に効果が続かないのでは?」
以前、月の国の礎となったクピ・ドゥスを救う為、永久氷棺で仮死状態にした事があった。
その時、原因は不確かだが次第に効果が弱まり、クピ・ドゥスの周囲を覆う氷が溶けだしたのである。
『確かに時間や因果まで固定してしまう人知を超えた魔法だけど…』
魔神王相手に果たして効果が有るのだろうか?
主君を信用しない訳では無いが、どうしても万が一の危惧がテユーミアの胸中を覆った。
するとグラキエースが言った。
「永久氷棺は飽く迄も一時しのぎなのでしょう? 本命は消滅で送還…そんな所でしょうか」
「フフッ…流石は魔神王との戦いを経験しただけの事は有る。グラキエース殿…貴女の言う通りだ」
そう答えたインシオンは、今度は真っ黒な4cm大の鉱石を懐から出し続けた。
「これに消滅が封じてある。魔神王用にプリームス陛下が誂えた特別製ゆえ、永久氷棺と同じく機会は一度切りだがな」
消滅──元は支配階級の魔神が使っていた魔法だ。
これをエテルノが魔神を模倣し研究する事で、エテルノだけが使えるようになった”ある意味”固有魔法である。
しかしながら同じ考えを持つ者が居た……それは以前の世界の魔王であり、魔神王との戦いを制したプリームスだ。
因って今では使い手が2人となった魔法でもあった。
またこの魔法は対象を消滅させる魔法と思われていたが、プリームスの言及に因り魔神が居た世界へ転送させる効果が有ると判明したのだった。
「か……完璧じゃないですか!! 流石はプリームス様ですね!」
先程までの不安は何処へやら…急に表情を明るくさせるテユーミア。
「そ、そうだな…この手筈を確実にこなす為には、魔神王を逃がしては為らんのだ」
と少し引き気味に告げたインシオンは、大事そうに2つの精霊魔石を懐に仕舞った。
『成程…それで先ずは王都の安全を確保してから、改めて武王宮を包囲し孤立させる訳か』
ここでグラキエースはインシオンの方針…もとい主君の思惑を凡そ察する。
只、少しばかり気掛かりが有った。
「プリームス様は如何に動かれるのでしょうか?」
「……」
グラキエースの問いに、何故かインシオンは逡巡するように口を閉ざす。
「…? 何か言い難い事でも?」
「……この策は万が一の際に、プリームス陛下が指示されたものだ。故に我々が一番槍で魔神王へ対する事は無い」
それはプリームスが手ずから処理する事を意味していた。
テユーミアは血相を変え、グラキエースは怒りを露にした。
「なっ?!」
「馬鹿な…我らはプリームス様の為に存在します。その我らが盾となり矛と為らずしてどうするのですか?!」
苦渋の表情を浮かべるインシオン。
「そんな事は分かっている! だが我らの意思よりも、全てはプリームス陛下の意思が最優先されるのだ」
珍しく声を荒げる実父に、テユーミアは唖然とする。
「お父様……」
そう、出来うるならインシオン自身も主君の傍に駆けつけたいのだ。
されど総司令と言う立場から、それが許される筈も無かった。
グラキエースは踵を返した。
「それは貴方達の都合でしょう。二度も主君を失うのは御免です」
「え? ちょっ?! グラキエースさん何処へ行くのですか?!」
仲間割れとは言わないにしろ、これでは完全に仲違いである。
そんな状態で2人を離したくはないテユーミア。
「プリームス様をお助けに向かいます。何が本当に重要なのか分からないなら、いつまでも此処へ居れば良いのです」
このグラキエースの言い様は、正に捨て台詞と言わんばかりの勢いだ。
「お父様! 止めないと!!」
「……」
テーブルの地図を見据えたまま微動だにしないインシオンに、テユーミアは焦れてしまう。
「もうっ! 2人とも分からず屋なんだから!!」
兎に角、このままで良い筈も無い。
テユーミアは慌ててグラキエースの後を追った。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




