1250話・馬が合わない2人と魔神核
「ですが、我々が同じ真似をする必要は有りません。総司令…そう思いませんか?」
聞き覚えのある声が部屋の入り口からした。
「そろそろ来る頃だと思っていた…久方ぶりだなグラキエース殿」
これに微笑みながら返すインシオン。
「グラキエースさん…何処に行ってたんですか? イリタビリスも行方が分からないし、心配したのですよ」
テユーミアは文句を言いながらも、胸中では胸を撫で下ろしていた。
永劫の王国の中核では新参のグラキエース。
しかしながら以前の世界ではプリームスの腹心の1人で、実力もプリームスに迫るのは間違い無いだろう。
故に心配する事など本来は有り得ない。
だがテユーミアにとって未だに腹の底が見えぬ相手で、裏切らない確証を得られていないのだった。
『良かった…ちゃんと戻って来た』
「心配して下さったのですか? 何だか少し嬉しいですね」
などと笑みを浮かべて言った後、グラキエースは然も大した事が無い風に続けた。
「イリタビリスさんは大丈夫だと思いますよ。迷宮最下層の地下世界では、魔神の脅威が身近に有ったと聞きますし」
そんな事は言われなくとも分かっている…と突っ込みそうになるが堪えたテユーミア。
それよりもグラキエースが登場した際の、意味深な言い回しが気になる所だ。
「"同じ真似"とは、どう言う意味ですか?」
「魔神王を封じるのでは無く、倒すのですよ」
グラキエースは端的に答えた。
「……やっぱり立ち聞きしていたのですね」
「フフッ…聞こえてしまったのは仕方ありません。で、総司令のご意見は如何ですか?」
「無論、封印などせず魔神王は滅殺する。だが問題が幾つか有るのだ…それを先に解決せねば為らない」
インシオンが言う問題とは、魔神王が死ねば傍に居た者の肉体を乗っ取る事だ。
「そう言われますが、既に対策を立てて居られるのでは?」
少しだけ揶揄うようにグラキエースは問う。
「何故そう思う?」
「本来なら逸早くプリームス様に合流した筈です。なのにここに居るのは、何らかの策…或いは指示をプリームス様から受けたのでしょう」
「フッ…流石はグラキエース殿だ。伊達にプリームス陛下の腹心ではなかった様だな」
『えっ…何っ?! 妙に緊張感が有るのだけど…』
2人の間に表現し難い空気をテユーミアは感じた。
互いに柔らかい口調なのだが、まるで剣気で突き合っているかの如くだ。
「そうですね…何せプリームス様とは魔界統一を果たした間柄です、ご一緒した時間も長うございますから」
グラキエースの言い様に、ギョッとするテユーミア。
『ちょっ!? さり気なく自慢?!』
するとインシオンは、恰も売り言葉に買い言葉で返した。
「フフッ…その割には余りプリームス陛下から相手をされていないようだが?」
『ふぁ?! お、お父様!?』
どうしてか張り合うインシオンを見て、テユーミアは困惑する。
スキエンティア宰相には、この様な態度をインシオンは一切取らない。
なのにグラキエースへの対応は些か辛辣に思える。
以前、魔王だったプリームスの同じ腹心と言うのに、これでは随分と扱いが違い過ぎる。
「いえ…がっつき過ぎると御迷惑を掛けるので、程々にしているだけですよ」
そう微笑みながら返すグラキエースなのだが、流石は氷武帝と称されていただけの事は有る…抑えきれない魔力が漏れだし、室内を真冬のように変えた。
『もうっ!! 何で永劫の騎士は皆して我が強いの?!』
テユーミアはブルブルと震えながら2人の間に割って入った。
「と、取り敢えずプリームス様からの指示?策?でしたっけ…それは何なのですか?」
「ん? あぁ…そうだったな…」
「そうでしたね…」
二人とも熱くなったのを自覚したのか、急にシュン…と静かになった。
『やれやれ…普通はグラキエースさんより、メディ-ロギオスの方が信用し難いと思うのだけど…』
などとテユーミアが首を傾げていると、インシオンが説明を始めた。
「どの段階かは私に知る由も無いが、プリームス陛下は大厄災が魔神王の復活を指すと気付かれた。また何故に魔神王を封印しなければ為らなかったのか…ほぼ正確に洞察されていたようだ」
これにグラキエースが続いた。
「以前の世界で我々は魔神王との戦いを経験しました。その時ですが、人の体を乗っ取る魔神が居たのです…まぁ支配階級の魔神でしたが、」
「うへぇ…よくそんなのを倒せましたね?」
テユーミアはゾッする。
グラキエースの言い様からは、魔神の生死云々関係なしに乗っ取って来そうだからだ。
「苦戦はしましたよ。でも魔神の生命、意思、魔力などの根幹が"核"に有る事を突き止め、それを消滅させれば乗っ取られないと判明したのです」
魔神核…人間で例えれば脳や心臓になり、言わば急所である。
この核を潰して魔神を確実に処理するのは、勿論テユーミアも把握していた。
「え〜と…魔神を倒すなら核の破壊は当然ですよね?」
「そうなんですが…支配階級の魔神になると核が数個有るのですよ」
「ええぇ?! じゃあウッカリ見落としたら…」
「はい、大変な事になります。下級から上級の魔神は核の大きさは違えど1つでしたから、支配階級の核が2個以上ある事に気付くまで、随分と被害が出てしまいました」
と静かに告げるグラキエースだが、その語調には隠し切れない後悔が滲み出ていた。
正に先人あっての今…そうテユーミアは思わずには居られない。
「成程…この事はお父様も知ってらしたのですか?」
「うむ。魔神王こそ通れぬが、支配階級から下級までの魔神は次元の切れ目から侵攻して来たからな」
などと軽く答えるインシオン。
しかし実際は100年間、たった1人で次元の切れ目から侵攻する魔神を倒し続けたのである。
これは仙術の奥義を駆使するインシオンだからこそ可能で、常人には決して理解出来ない領域と言えた。
『正に超絶者故よね…』
インシオンにグラキエース…2人の歩んだ人生が如何に壮絶か、今更ながらに驚かされるばかりだ。
「って…魔神核が2個以上有ると分かっても、肝心な魔神王の対策はどうするのですか?」
支配階級の魔神までなら、単独での処理が可能だとテユーミアは考えていた。
だが魔神王は別である。
「そうだな…それが一番の難題だ」
「ですね…例え倒せたとしても、魔神核を全て破壊し切れるか断言出来ませんし」
などと2人で同調するインシオンとグラキエース。
『おいおい…』
対策が無い?上に、仲が良いのか悪いのか…テユーミアは呆れてしまうのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




