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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第八章:武王が居た国
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1246話・堕ちた怜刃とギンレイ

怜刃は切っ先をギンレイに向けて言い放った。

「以前の私は恐らく貴女と互角だったけど、今は人外の域に在る。そんな私を只の人である貴女が倒せるかしら?」



「さぁ? やってみれば分かるわ」

これにギンレイは不敵な笑みを浮かべて返した。

だが実際は然程に余裕は無い。

何故なら処理すべき敵が怜刃だけとは限らないからだ。


そもそも魔力が無尽蔵と言える魔神王…それが下級魔神を召喚し続けている筈。

ひょっとすれば中級や上級の魔神も召喚されているかも知れない。

それらの邪魔が入れば不利になるのは明白だった。

『即座に怜刃を倒して先に進まないと!』



すると、それを見透かしたように怜刃が告げる。

「フフッ…正義感や使命で私を相手取るのは、止めた方が良かったのでは? 貴女は魔神王を倒したいのでしょう? それに時間が経てば経つ程、人間側は不利になる…分かっている筈よね」



「……」

即座に衝突する事を躊躇っているようにギンレイは感じた。

『今更になって盤外戦…?』


考えるに此方の実力を計り兼ねているのだろう。

それは詰まる所、敗退し屠られる事を恐れているに他ならない。

『魔神王に魂を売って死を恐れるなんて…』


人の心を失っているように見えて、実際は人間の如く何かへ怯えている。

滑稽に思えて為らなかった。

「何? 死ぬのが怖いの?」



揶揄するような返しに、怜刃は僅かに眉をひそめた。

「……」



『…? 何か隠しているのか?』

隠したい思惑…そう、ここで死ねない理由があるのか?

何にしろ武國を…人類を裏切った存在に配慮する必要は無い。

ギンレイは意を決して烈風を放った。



「チッ!」

怜刃も合わせるように剣を振るう。



『私の烈風を迎撃したのは、同じく烈風の筈。なら…』

間髪入れずに間合いを詰め、至近距離から烈風をお見舞いすれば良い。



「…!!」

怜刃は目を見張った。



烈風同士が衝突し合い、その衝撃波が周囲に拡散した時、何時の間にかギンレイが目の前に接近していたのだ。

「終わりよ!」



超至近から放たれる烈風が怜刃を襲った。



再び凄まじい衝撃波が不可視の刃となって発生し、重く乾いた爆音が周囲に響き渡る。



「え……」

ギンレイは唖然とした。

目の前に謎の装甲?の様な物が視界を塞いていた為だ。

それだけでは無い…恐らく烈風も”これ”に因って防がれてしまった。



「フフ…フフフ……今のは生身で受けたら危なかったわね」

装甲を隔てて怜刃の声が聞こえた。



無理な追撃を試みず、直ぐさまギンレイは飛び退る。

何か嫌な予感がした…あのまま怜刃の至近に居れば危険だと、経験から来る漠然とした勘が警笛を鳴らしたのだ。



「良い判断ね…」

そう呟いた怜刃に、突如出現した装甲が吸い込まれるように消失した。



『違う…吸い込まれたんじゃない。あれは…』

一瞬だったが確かに目にしたギンレイ。

あの長くて美しい髪が恰も流動する水の様に大きく変化し、そして装甲を模したのである。



「多分だけど、私は上級の魔神を超える力が有るわ」

そう告げた怜刃は、今度は髪の毛を数本の刃の形に模し続けた。

「本当に便利よね…この力が有れば、並み居る超絶者達と対等に戦えるわよね」



「並み居る? 超絶者なんて、この大陸に数える程しか居ないわよ」



ギンレイの揶揄に、怜刃は嬉しそうに返した。

「そう? じゃぁ貴女が私と渡り合えたら、貴女も超絶者の仲間入りね」



ギンレイは刀の柄を握る手に、汗が滲んでいる事を自覚した。

体が危機的状況を潜在的に察知し、得物を握る手が滑らぬよう発汗を促した訳だ。

それに汗だけでは無い…無意識に身体が強張り、外部からの刺激に耐えようとしている。


『不味い…落ち着いて弛緩しないと!』

力みは速度を落とし、更には柔軟な動きまで損なってしまう。

只の魔物や達人程度の武人なら、そんな状態でも問題無い…しかし超絶者級の相手には無理だ。


なにより怜刃は得体の知れない能力を見せた。

ここは冷静になって分析し柔軟に対応せねば、死ぬのは自分になるだろう。


また奥の手の1つと言える連携を防がれてしまった。

『まさか魔神王と戦う前に、全力を出す羽目になるなんて…』

タトリクスから贈られた刀の能力、そして魔剣の解放(ジェファン)…これらの出し惜しみは出来ない。



「出来れば貴女を殺したくは無かったけど…仕方ないわね」

などと怜刃は言い、もはや人を模っているだけで、人外の挙動を見せる。

数本の剣を模した髪が、一斉にギンレイを襲ったのだ。



「くっ!!」

ギンレイは咄嗟に後方へ回避する。

『速い! しかもこれでは…』

複数人を相手取るのと何ら変わりない。



そうしてギンレイが元居た床に剣を模した髪が突き刺さった。

その数6本……否、それが床から引き抜かれた時、更に分裂して10本を超える。



「なっ?!」



「六大大人である私の剣技が、私が操る"これ"全てへ適用されれば相当に危険よね。果たして貴女に捌き切れるかしら?」



「……」

ギンレイは背筋がゾッとした。

烈風を防ぎ切る防御力に、こちらの10倍以上の手数…まともに太刀打ち出来る気がしない。


『兎に角、距離を取って烈風を!』

それで如何様にも変化する髪へダメージを蓄積させ、能力を維持出来ないようにするしかない。

要するに我慢比べだ。



剣に模した髪を引き戻し、怜刃は微笑みながら告げた。

「何を考えているか肌感で伝わってくるわよ。いえ…これは…不安や恐怖心かしら? 中々に便利ね…負の感情から相手の思考を察知出来るなんて」



「そう…だから何だって言うの?」

ギンレイは白を切った。

嘘か真か…どちらにしろ不利なのは間違いない。



「正面から打ち合えば絶対に私が有利よ。だから距離を取って烈風よね? でも、それでは駄目ね」



盤外戦を呈すが、ギンレイは一切乗らない。

何食わぬ顔でジワジワと距離を離した。



「忠告は聞いた方が良いわよ。ここは魔神王の領域なの…つまり私は、その恩恵を受けて力が殆ど無尽蔵な訳。ギンレイさん…消耗戦なら貴女の負けになるわ」



『無尽蔵…!?』

ギンレイの驚きが心臓を跳ね上げ鼓動を速くした。



「動揺したわね…フフフッ」

そう見透かしたように嘲笑った怜刃は、軽く一歩だけ踏み込んだ。

直後、刃を模した怜刃の髪が、凄まじい速度でギンレイを襲った。



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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