1246話・堕ちた怜刃とギンレイ
怜刃は切っ先をギンレイに向けて言い放った。
「以前の私は恐らく貴女と互角だったけど、今は人外の域に在る。そんな私を只の人である貴女が倒せるかしら?」
「さぁ? やってみれば分かるわ」
これにギンレイは不敵な笑みを浮かべて返した。
だが実際は然程に余裕は無い。
何故なら処理すべき敵が怜刃だけとは限らないからだ。
そもそも魔力が無尽蔵と言える魔神王…それが下級魔神を召喚し続けている筈。
ひょっとすれば中級や上級の魔神も召喚されているかも知れない。
それらの邪魔が入れば不利になるのは明白だった。
『即座に怜刃を倒して先に進まないと!』
すると、それを見透かしたように怜刃が告げる。
「フフッ…正義感や使命で私を相手取るのは、止めた方が良かったのでは? 貴女は魔神王を倒したいのでしょう? それに時間が経てば経つ程、人間側は不利になる…分かっている筈よね」
「……」
即座に衝突する事を躊躇っているようにギンレイは感じた。
『今更になって盤外戦…?』
考えるに此方の実力を計り兼ねているのだろう。
それは詰まる所、敗退し屠られる事を恐れているに他ならない。
『魔神王に魂を売って死を恐れるなんて…』
人の心を失っているように見えて、実際は人間の如く何かへ怯えている。
滑稽に思えて為らなかった。
「何? 死ぬのが怖いの?」
揶揄するような返しに、怜刃は僅かに眉をひそめた。
「……」
『…? 何か隠しているのか?』
隠したい思惑…そう、ここで死ねない理由があるのか?
何にしろ武國を…人類を裏切った存在に配慮する必要は無い。
ギンレイは意を決して烈風を放った。
「チッ!」
怜刃も合わせるように剣を振るう。
『私の烈風を迎撃したのは、同じく烈風の筈。なら…』
間髪入れずに間合いを詰め、至近距離から烈風をお見舞いすれば良い。
「…!!」
怜刃は目を見張った。
烈風同士が衝突し合い、その衝撃波が周囲に拡散した時、何時の間にかギンレイが目の前に接近していたのだ。
「終わりよ!」
超至近から放たれる烈風が怜刃を襲った。
再び凄まじい衝撃波が不可視の刃となって発生し、重く乾いた爆音が周囲に響き渡る。
「え……」
ギンレイは唖然とした。
目の前に謎の装甲?の様な物が視界を塞いていた為だ。
それだけでは無い…恐らく烈風も”これ”に因って防がれてしまった。
「フフ…フフフ……今のは生身で受けたら危なかったわね」
装甲を隔てて怜刃の声が聞こえた。
無理な追撃を試みず、直ぐさまギンレイは飛び退る。
何か嫌な予感がした…あのまま怜刃の至近に居れば危険だと、経験から来る漠然とした勘が警笛を鳴らしたのだ。
「良い判断ね…」
そう呟いた怜刃に、突如出現した装甲が吸い込まれるように消失した。
『違う…吸い込まれたんじゃない。あれは…』
一瞬だったが確かに目にしたギンレイ。
あの長くて美しい髪が恰も流動する水の様に大きく変化し、そして装甲を模したのである。
「多分だけど、私は上級の魔神を超える力が有るわ」
そう告げた怜刃は、今度は髪の毛を数本の刃の形に模し続けた。
「本当に便利よね…この力が有れば、並み居る超絶者達と対等に戦えるわよね」
「並み居る? 超絶者なんて、この大陸に数える程しか居ないわよ」
ギンレイの揶揄に、怜刃は嬉しそうに返した。
「そう? じゃぁ貴女が私と渡り合えたら、貴女も超絶者の仲間入りね」
ギンレイは刀の柄を握る手に、汗が滲んでいる事を自覚した。
体が危機的状況を潜在的に察知し、得物を握る手が滑らぬよう発汗を促した訳だ。
それに汗だけでは無い…無意識に身体が強張り、外部からの刺激に耐えようとしている。
『不味い…落ち着いて弛緩しないと!』
力みは速度を落とし、更には柔軟な動きまで損なってしまう。
只の魔物や達人程度の武人なら、そんな状態でも問題無い…しかし超絶者級の相手には無理だ。
なにより怜刃は得体の知れない能力を見せた。
ここは冷静になって分析し柔軟に対応せねば、死ぬのは自分になるだろう。
また奥の手の1つと言える連携を防がれてしまった。
『まさか魔神王と戦う前に、全力を出す羽目になるなんて…』
タトリクスから贈られた刀の能力、そして魔剣の解放…これらの出し惜しみは出来ない。
「出来れば貴女を殺したくは無かったけど…仕方ないわね」
などと怜刃は言い、もはや人を模っているだけで、人外の挙動を見せる。
数本の剣を模した髪が、一斉にギンレイを襲ったのだ。
「くっ!!」
ギンレイは咄嗟に後方へ回避する。
『速い! しかもこれでは…』
複数人を相手取るのと何ら変わりない。
そうしてギンレイが元居た床に剣を模した髪が突き刺さった。
その数6本……否、それが床から引き抜かれた時、更に分裂して10本を超える。
「なっ?!」
「六大大人である私の剣技が、私が操る"これ"全てへ適用されれば相当に危険よね。果たして貴女に捌き切れるかしら?」
「……」
ギンレイは背筋がゾッとした。
烈風を防ぎ切る防御力に、こちらの10倍以上の手数…まともに太刀打ち出来る気がしない。
『兎に角、距離を取って烈風を!』
それで如何様にも変化する髪へダメージを蓄積させ、能力を維持出来ないようにするしかない。
要するに我慢比べだ。
剣に模した髪を引き戻し、怜刃は微笑みながら告げた。
「何を考えているか肌感で伝わってくるわよ。いえ…これは…不安や恐怖心かしら? 中々に便利ね…負の感情から相手の思考を察知出来るなんて」
「そう…だから何だって言うの?」
ギンレイは白を切った。
嘘か真か…どちらにしろ不利なのは間違いない。
「正面から打ち合えば絶対に私が有利よ。だから距離を取って烈風よね? でも、それでは駄目ね」
盤外戦を呈すが、ギンレイは一切乗らない。
何食わぬ顔でジワジワと距離を離した。
「忠告は聞いた方が良いわよ。ここは魔神王の領域なの…つまり私は、その恩恵を受けて力が殆ど無尽蔵な訳。ギンレイさん…消耗戦なら貴女の負けになるわ」
『無尽蔵…!?』
ギンレイの驚きが心臓を跳ね上げ鼓動を速くした。
「動揺したわね…フフフッ」
そう見透かしたように嘲笑った怜刃は、軽く一歩だけ踏み込んだ。
直後、刃を模した怜刃の髪が、凄まじい速度でギンレイを襲った。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




