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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第八章:武王が居た国
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1244話・無力と別れ

武國の長官であるズィーナミとジズオは、貧民王ジウジとクラージュ、そして部下のシェイとインチェンを連れて貴賓客専用の展望食堂へ向かう。

ここは闘技場内でも最も強固な作りで、仮の司令本部としては打って付けなのだった。


一方、アグノスはプリームスと合流する為、闘技場内の捜索に向かう事にした。

因みに二人の護衛役は、武神ことクシフォス大公だ。


またテユーミアとインシオンは、すぐさま武林館の敷地を後にする。

これは待機させている魔法騎士団の指揮を取り、武王都の民間人を魔神から守るのが目的だ。




そんな武國の状況を、闘技場の遥か上空から見下ろす人影があった。

真紅の仮面を着け、全身黒ずくめ出立ち…ゼノだ。


彼は然も興味が無さそうに呟やく。

「ふむ…私が直接手を出す必要は無さそうかな、」

それでも見届ける"義理"がゼノには有る。


時として信義を重んじる者には、義理は義務よりも重い物となってしまう。

故にゼノは、それが只の口約束であっても無下には出来ないのだった。


『さて、ならば御手並み拝見といこう…』

一枚岩となった武國が如何に抗うか。

そして介入した永劫の王国(アイオーン・ヴァスリオ)の影響で、呪いとも呼べる1000年の因果が断ち切れるのか…。






 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※






ギンレイは可能な限り呼吸を乱さぬように疾走していた。

目指す先は武王宮の神域…武王デンの寝所だ。



そうして武林館の敷地を抜け武王宮を目前にした時、ギンレイを呼び止める声がした。

「姉御!!」



「…!」

ギンレイは直ぐに足を止めた。

自分を"姉御"と呼ぶのは、限られた仲間だけなのだから。



「姉御……速過ぎますぜ。偶然見かけたは良いが、追いつくのに苦労しましたよ」

息を切らせながら歩み寄る男が言った。

その風体はガッチリしており、頭に結った鉢巻で恰も船大工のように見える。



(ゲン)……」

最も信頼の置ける部下の名をギンレイは口にした。

そう、彼はギンレイが団長を務める傭兵団・銀翼の副団長だった。



「武林の街は無茶苦茶だ。心配になって来てみたら、姉御と危うく行き違いになる所でしたぜ」

苦笑いを浮かべてゲンは言った。



「済まない…緊急事態なんだ。お前達は急いで武國から離れてくれ」



切羽詰まったギンレイの様子に、ゲンは一瞬だけ息を飲み率直に返した。

「……俺達じゃあ足手纏いなんですね」



「本当に済まない…」

ギンレイは頭を下げた。


本来なら次期武王となり足場を固めた後、銀翼団を私兵として傍に置くつもりだった。

無論、それをゲンや他の団員等も承知して、大人しく武王都で待機していたのである。


なのに全ての予定が頓挫…しかも今は団員等を巻き込める程、事態の収束は簡単ではない。

故に仲間の団員等を逃すしか、他に術が無かった。



「そうですか……じゃぁ、せめて俺だけでも連れて行ってくれませんか?」

ゲンは一抹の希望を抱いて懇願した。



「駄目だ…お前は銀翼の仲間を、私の代わりに纏めなきゃ為らない」



「俺でも足手纏い…ですか…」



ギンレイは首を横に振った。

「これは私でないと駄目な役なんだ。例え武神や剣匠であっても、どんな強者でも駄目なんだ…」



愕然と項垂れるゲン。

「なら…仕方ねぇか」


出来れば無理矢理にでも同行したい…しかし、それは出来ないと察してしまった。

ここまでギンレイが譲らないのは、本当に自分達が役に立たないからだ。


『無駄死にして姉御を苦しめるくらいなら…』

素直に言う事を聞き引き下がるしかない。

それでも、どうしても確認した事がゲンの口を衝く。

「姉御……死なないよな? 俺達を残して逝ったりしないよな?」



ギンレイは逡巡するように一瞬だけ目を見張り、直ぐに逸らした。

「……うん」



「まさか…命を懸けないと駄目な事なのか?!」



詰め寄るゲンに、目を逸らしたまま答えるギンレイ。

「私が武王を目指したのは、武王が封じていた存在を引き継ぐか、或いは倒す為。でも…どちらも遣り遂げる可能性は高くない」



遣り遂げるか、死か…どちらかしか無い。

そう暗に告げているとゲンは即座に察した。

「そんなの駄目だ!! 何で姉御が一人で背負う必要がある!?」


そしてギンレイより確実に強い存在を思い出す。

「そ、そうだ! 師匠に迎えたタトリクスの姉御は?! あの人は助けてくれないのですかい?!」



「これは私と武國の問題なの。無関係なタトリクス様を巻き込む訳にはいかないわ」



「ちょっと待ってくれ! じゃあ姉御が失敗したらどうなるんだ?! そうなったら結局は皆んな巻き込まれて死んじまうじゃないのか?」

人にとって非常に不味い事態なのをゲンは肌で感じていた。


街には異形の巨人が闊歩し、破壊や殺戮を行なっている。

とてもでは無いが人では太刀打ち出来ない…そんな事など誰が見ても明らかだろう。


それをギンレイが何とかしようとしている。

だが、きっと上手く行っても只では済まない…失敗すれば尚更武國は酷い有様になるのは間違いないのだ。



「だから…せめて親しい仲間には、結果はどうあれ武國から去って欲しいの」



「そんな……」

逃げるしか術がない自分に落胆し、ゲンは半ば呆然とする。


ここまで長い間、傭兵団の仲間として苦楽を共にし、ギンレイの目的を達成させたいと思うようになっていた。

なのに肝心な場面で足手纏い、何の為に自分は生きて来たのか?…そう思わざるを得ない。



呆然と佇むゲンの背後に突如魔神が姿を現し、奇怪な雄叫びを放って屈強な右腕を振り上げる。

街で見かけた異形の怪物…ゲンは我に返り己の死を覚悟した。



直後、パンッと乾いた音が目の前で鳴り、ドス黒い液体が飛沫となって宙を舞う。



「…!?」

ゲンは何が起きたか直ぐには理解出来なかった。

されど足元に無惨に倒れ伏した怪物の半身を見て気付く…ギンレイが放った音速を超えた居合いが、この怪物を屠ったのだと。



「これは下級魔神…訓練した兵でも20人以上で漸く処理出来る相手よ。私はこの魔神の王を倒す使命があるの。本当はもっと安全を確保して戦う筈だったのだけど…」



ギンレイの言葉を聞き、その場にヘタリ込むゲン。

「魔神の王…」



ギンレイは踵を返した。

「今まで有難う。銀翼団の皆んなの事は絶対に忘れない」



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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