1233話・武林、魔神侵攻
武術大会の会場に異様な黒球が出現し、それは前触れも無く突如破裂する。
そして球体の跡から、巨大な人形の"何か"が姿を見せた。
その数は球体と等しく100体は超えていた。
「……」
ジズオは惨状を呆然と見つめる。
この状況自体が彼女の予想を遥かに超え、余りにも非現実的だったからだ。
だが1つ確実に分かる事がある。
これは下級魔神召喚であり、この規模で実行可能なのは魔神王だけと言う事。
詰まる所、魔神王を封印していたデンが死んだ事を意味したのだった。
『デン陛下……あぁぁ…どうしてこんな事に…』
愕然とするジズオの傍に、身の丈3mはある漆黒の魔神が歩み寄る。
その巨躯は雄々しく隆々とした筋肉に包まれており、
恰も頑丈な外装甲のようだ。
また頭は人形でありながら全くの異形…見るだけで恐怖を抱く禍々しさを湛えていた。
呆然とするジズオを前に、魔神は丸太の如き屈強な腕を振り上げた。
既に周囲の観客は、状況の異様さと魔神の出現で我先と逃げ出す。
加えて警備兵達は観客を外に逃す為に、ジズオを守るどころでは無い。
そもそも下級の魔神でも、地上で最強種と言われる竜に匹敵し、仮に警備兵が傍に居たところで対処は出来なかっただろう。
しかしジズオが撲殺される事は無かった。
振り上げた下級魔神の腕が、突如根本から吹き飛んだのである。
それだけでは無い…下級魔神は四肢と頭まで吹き飛ばされ、肉塊となり床へ倒れ込んだ。
「ジズオ大人…君らしくも無いね」
魔神だった肉塊の後ろから聞こえた声は、漆黒の超絶者のものだった。
「……ゼノ…」
半ば呆然としたままのジズオに近付き、ゼノは静かに告げた。
「君の目的…いや、使命は何だい? ただ座して魔神に殺される事なのかい?」
「私の使命……」
『そうだ…私は武國を守らねばならない』
自暴自棄になって、そして死んで何になるのか。
歴代の武王、更には敬愛するデンと約束をした事をジズオは思い出す。
「どうやら正気に戻ったみたいだね。なら何をすべきか分かる筈だ」
「はい…大厄災を…いえ、魔神王を止めねばなりません」
「うん…そうだね。でも、その前に"人"を守るのが先だよ。魔神王はその後だ」
「……」
ジズオは逡巡した。
魔神王が完全に覚醒すれば、今の比では無い魔神の軍勢が召喚される筈だ。
『なら完全では無い現状で、先に魔神王を倒すべきではないのか?』
すると見透かした風にゼノが言った。
「君達だけなら先に魔神王を倒す方が良いかもね。でも沢山の強者が武林に集まっているだろう? 皆が協調出来れば何時でも倒せるんじゃないかな〜〜」
他人事の様に言うゼノに、ジズオは唖然とする。
「……」
しかし一理あるとも思えた。
『こうなっては敵対派閥などと言ってられない。だが剣匠が協力してくれる確証が無い…』
「やれやれ…やっぱり君は視野が狭いね。まぁ良い…危惧する所は私が"交渉"で上手くやっておくから、気兼ねなく動くといいよ」
と呆れた口調でゼノは言うと、踵を返して離れてしまった。
「え……あ…」
呼び止める間も無くゼノに立ち去られ、再び唖然とするジズオ。
そこへ貧民王ジウジが巨大な召喚獣を連れてやって来た。
「お〜〜無事だったか」
「ジウジ殿…」
「何だい…覇気が無いな。元魔教主が聞いて呆れるぞ」
揶揄口調で言われ、ジズオは苦笑した。
「フフッ…それは言わない約束でしょうに。で、魔神に因る被害は?」
「皆、協力して魔神を抑え込んでるよ。その間に観客等を警備兵が外へ誘導している。恐らく被害は最小限に出来ると思うよ」
「そうですか…」
ホッと胸を撫で下ろすジズオだが、根本的な解決方法を見出してはいない。
推測するに魔神召喚がされたのは、この闘技場だけでは無い筈なのだ。
つまり外に逃げた所で根本的な解決にはならない。
『規模が分からないなら、民を遺跡へ避難させるへきか…だが…』
その為には人手が必要になる。
「ジウジ殿、緊急事態宣言を発令し軍を動員したい…」
ジズオが全て言い切る前に、ジウジが被せ気味に言った。
「足の速い伝令が必要なのだろ? 飛行型の召喚獣を武王宮に飛ばしてやろう」
「お願いします。只…この分では武王宮も同じ状況かも知れません」
「でも何もしないで後悔するよりはマシだよ。兎に角、伝令と状況把握に私は力を割く…異論は無いね?」
ジウジは暗に言っているのだ…複数の召喚獣を操る為、自分が無防備になると。
察した様子で頷くジズオ。
「はい、その間は私が貴女を守るのでご安心を」
「フフッ…こう言う時こそ互いに協調しないとね」
そう笑顔で返したジウジは、巨大な召喚獣を送還して続けた。
「それにしても…あの3人は何処に行ったのかねぇ。肝心な時に傍に居ないんだから…」
あの3人とは、アポラウシウス、ソキウス、グラキエースの事だ。
それぞれ超絶者級の武人で、一癖…否、二癖三癖ある腹の底が知れない者達でもある。
『まぁ武術大会も御破算で政権争いしてる場合じゃ無いし…どさくさに紛れるつもりかね』
今は行方不明の3人より、現状を打開するのが先だ。
などと自分に言い聞かせたジズオは、諦めた様子で小型の召喚獣を10体ほど呼び出したのだった。
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ギンレイは傍に出現した魔神を、烈風に因り一瞬で処理する。
そして剣を鞘に収めるとタトリクスに背を向けた。
「ギンレイ…?」
心配になり声を掛けるタトリクス。
素っ気ない…そんな水準では無い。
自分を歯牙にも掛けない、恰も興味が失せたと言わんばかりの態度をされて不安になったのだ。
するとギンレイは冷めた声音で返す。
「茶番は終わり……私は、私のすべき事をしに向かいます」
「駄目よ! 1人で行ってはいけない!」
小さく首を横に振るギンレイ。
「貴女は本来なら部外者…口出しは無用です。それよりも貴女が大切に思う人達を守ってあげて下さい」
「ギンレイ……」
確固たる強い意志の中に、明確な拒絶が含まれていた。
故にタトリクスは、これ以上何も言えなかった。
『私にとってはギンレイも大切な人なのに……』
言葉に出来なかった思いが脳裏を巡った時、既にギンレイの姿は忽然と消え失せていたのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




