1228話・決勝戦‐ギンレイ 対 タトリクス(2)
開幕、2人は3mの距離まで接近し突如動かなくなった。
この瞬間、虚と実に因る攻防が1度だけ行われた…が、それを観客が理解出来る訳も無い。
それでもズィーナミやクラージュ、それにジズオなどの超絶者級は即座に理解して驚愕する。
それが余りに高度過ぎる一合だったからだ。
そして、もう一人…闘技場中央を間近に臨める、搬入口に居た存在も驚きを隠せないでいた。
そう、今大会きっての番狂わせな存在──ゼノだ。
丁度、クラージュ達が居る場所の反対側へ密かに来ていたのである。
「ハハッ…面白いな。本当に武王が相応しそう2人だね…」
観客が騒めいた。
止まっていた2人が動き出したのだ。
否…厳密にはタトリクスが右手のレイピアを軽く掲げ、それに対してギンレイが一歩後退しただけ…。
緊張感のある空気…或いは決勝戦だからか?
些細な行動が、その一挙一動を皆は注目せざるを得ない。
しかし実際は些細では無かった。
ギンレイが一歩引いたのは警戒をしたからである。
極端な話、タトリクスは無挙動、無気配で奥義級の技を放つ事が可能な筈。
レイピアを軽く掲げた行動自体、それは実を伴う…逆を返せば態と見せて、それを”虚”とした可能性も有るのだ。
要するに反応して”実”に因る迎撃に出てしまえば、隙を晒して奥義に因る反撃を食らいかねない。
また、その奥義が”烈風”ならば、下手をすれば即死は免れないだろう。
ギンレイの背筋に悪寒が走った。
もし誘いに乗っていたら…そう思うと怖くて仕方が無い。
するとタトリクスが言った。
「フフフッ……慎重で我慢強くて良い判断ね。でも互いに動かないままでは面白くないでしょう?」
「何が言いたいのですか?」
「殺しはしないよ。それに可能な限り怪我もさせないから、心配しなくても良い。だから小手先の技なんかじゃ無くて、ちゃんと打ち合わない?」
まさかのタトリクスからの提案に、ギンレイは驚き逡巡する。
「え…?!」
『気配を消して、虚と実の駆け引きが小手先の技だと言うの?!!』
そんなギンレイを察して、タトリクスは補足するように言った。
「確かに虚と実を使い分ける事は奥義とも言える。でも一方的に相手を無力化する技でもあるの。力の差を歴然にし戦闘意欲を削ぐ…或いは察知されずに暗殺する為にね。そんな事、私達の間に必要かしら?」
「…!」
ハッとするギンレイ。
自分は武王に成る使命…否、宿命がある。
それを示す為に障害となる師を倒さなければ為らない。
『そうか…タトリクス様が望む物で示さないと意味が無いのか』
きっとタトリクスが本気を出せば、自分など足元にも及ばないのは明白。
なのに態々相手をしてくれているのは、確固たる意志を試しているからだろう。
「そうですね…タトリクス様の仰る通りです」
そう答えたギンレイは、剣を正眼に構えて続けた。
「では、タトリクス様の胸をお借りします」
「フフッ…それで良い。なら気兼ね無く打ち込めるわね」
タトリクスはレイピアを僅かに掲げたまま踏み込んだ。
その速度は遅い…しかし何が繰り出されるか分からない為、ギンレイは構えたまま不用意に動けない。
『これは…柔軟な即応が試されるわね』
それでも此方の構えは正眼…切先が相手を牽制し、相対する者もまた柔軟な攻撃が試される。
だが、それが意味を成すのは互角以下の相手。
タトリクスには通用しないかも知れない。
レイピアの切先が徐にギンレイの切先へ触れた。
「うっ!!?」
正に衝撃でしかなかった。
互いの切先が触れただけなのに、ギンレイの体勢が前方へ崩れたのだ。
『不味い!! 力んだり抵抗しては駄目だ!!』
ギンレイは崩れさせる謎の慣性に逆らわず、それに対して膝を曲げて対応する。
そうする事で前に倒れるのを、直下への"膝崩れ"に変えたのである。
これによりギンレイは体勢を崩す事無く、只その場へ軽く屈伸しただけになった。
「おおっ!!」
思わず声が漏れるタトリクス。
『普通なら剣を手放すか、一層のこと前へ飛び込みそうなものだけど…』
ギンレイが最適解を選んだので驚いてしまった。
元より優れた素質が有ったのだろうが、傭兵として暮らす中、更に危険予測や対応へ鋭敏になったのかも知れない。
こうなるとタトリクスは嬉しくなってしまう。
「ハハッ! 打てば響くとは、この事を言うのね。ここまで良く成長したわ」
笑顔で返すギンレイ。
「フフッ…有難う御座います」
されど内心では焦るのを必死に抑えていた。
理由は想像以上に上手く動けて、自分でも驚いていたからだ。
これが培った経験で対処出来たのか?、それとも今になって急に覚醒したのか?
どちらにしろ分からないので、再現性が低い可能性がある。
「さぁ〜どんどん行くわよ!」
タトリクスは意気揚々と踏み込む。
『くっ! と、兎に角、落ち着け!』
そうギンレイは自分へ言い聞かせる。
緊張の所為か心臓の鼓動が速くなり、それをタトリクスに悟られそうで心配で為らない。
すると余計に緊張してしまう悪循環へ陥る。
再びタトリクスがレイピアを振るった。
やはり先程と同じく速くは無い…が、切先に触れれば崩されるのは確かだ。
『なら避けるか?』
取り敢えず避けて反撃に転じれば、一番安全には違いない。
しかし回避する直前、ギンレイは違和感を感じた。
何故に緩慢な速度なのか?
また何故に崩しなのか?
そうして袈裟斬りを下がって回避し、ギンレイは目を見張る。
然も平然そうな表情をしながらも、タトリクスの額には珠の様な汗が浮いていたのだった。
「た、タトリクス様…」
つい心配になって呼びかけてしまう。
「ん? 何?」
何事も無いように首を傾げるタトリクス。
されど良く見れば額だけで無く、首筋や胸元にも汗の筋が光って見えるのであった。
楽しんで頂けたでしょうか?
もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。
続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。
また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。
なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。
〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




