1223話・剣匠とセルウスレーグヌム
「あのぅ…どうしてズィーナミ様はデン陛下に忠誠を誓ったのですか? 以前はセルウスレーグヌムに滞在して武術指南もされていたでしょう?」
そうクラージュに尋ねられ、ズィーナミは何故だか気まずそうに声を漏らした。
「う…!」
『これは…何か後ろめたい事が有りそうね』
更にクラージュは追求を掛ける。
それも明からさまでは無く、無意識や不可抗力を装う。
「我がセルウスレーグヌム王国には、ズィーナミ様の御子息…イリーク卿が居ます。実子を残して何故に国を出られたのですか?」
「そ、それは…」
答えに窮するズィーナミ。
そこにクシフォスが割って入った。
「確か…20年くらい前だよな、セルウスレーグヌムを出たのは。その時は俺と組んで冒険の旅に出て、中々に楽しかったよなぁ」
「う、うむ…。まぁ5年ほど旅をして儂はセルウスレーグヌムに戻ったがね」
「何言ってる…南方戦争が終わってから、また知らぬ間に出て行ったろ?」
「え、あ…う〜む…」
クシフォスに突っ込まれて、しどろもどろになるズィーナミ。
「まさかクシフォス様と冒険へ出る為にセルウスレーグヌム王国を捨てて、また出戻ったと?! しかもまた出て行った?!」
半ば怒り気味のクラージュの問いに、思わぬ巻き込みに合うクシフォス。
「えぇ?! それじゃぁ丸で俺の所為みたいじゃないか?!」
戦友…もとい友人を巻き込んでしまいズィーナミは慌てる。
「ち、違う! クシフォス殿と冒険に出たのは、たまたま彼が居合わせたからだ。儂が1人だったとしてもセルウスレーグヌムを出ていた」
「つまり1人でもセルウスレーグヌム王国と御子息をを捨てていたのですね」
辛辣なクラージュの突っ込みに、ズィーナミは更に慌てた。
「違う!違う! 捨てたのでは無い!」
「では何故です? 半ば出奔したように行方不明になったと聞きましたが?」
終わらぬクラージュの追求…これに居た堪れなくてなったのか、クシフォスが庇うように言った。
「待て待て…ズィーナミの爺さんがセルウスレーグヌムを出たのは、2つの約束を守ったからだ」
我関せずを決め込んでいたタトリクスも、これには少し興味が湧いた。
『ほほぅ…約束か…』
武人は荒くれが多いが基本的に信義に厚い。
そしてズィーナミ程の者となると尚更それを重要視するだろう。
なのに仕えていた?セルウスレーグヌムを出たのは、それ相応の理由がある筈なのだ。
「約束…? 釈明する気が有るなら話してくれますよね?」
理由を知れるなら誰が話そうが構わない…そんな風にクラージュは2人を見やった。
するとズィーナミは怖々と話し始めた。
「儂はセルウスレーグヌム王国の建国に立ち会った…まぁ少しばかり手伝っただけだがな。それで初代戦女神と約束したのだ…世代が変わった時、国が安寧であるように手助けして欲しいと、」
クラージュは驚きで目を見張った。
「……」
セルウスレーグヌムが建国され、その守護の象徴として初代レギーナイムペラートムが据えられたのは100年前。
その伝説とも言える傑物と約束が交わせる仲…それがズィーナミ・リニスなのだ。
正に剣聖と比肩する程の生きた伝説と言えた。
「それで儂は修行の旅を再開し、60年後にセルウスレーグヌム王国へ戻った。皇后は亡くなられた直後で儂は愕然としたよ…」
もっと早くに訪れていれば…そんな後悔の念が、未だにズィーナミの心を苦しめていた。
それを感じ取ったクラージュは敢えて尋ねる。
「その後悔は初代レギーナイムペラートムに向けての物ですか? それとも60年もセルウスレーグヌムをお座なりにした事ですか?」
先程にも増して辛辣な言い様に、気の毒に思ったクシフォスが口を挟んだ。
「クラージュ姫、その問いは余りに配慮が足らんだろ。ズィーナミの爺さんも、それなりに事情が有ったんだよ」
「分かってますよ…そんな事。だから今こうして訊いてるんでしょう」
「う……そ、そうか」
あっさり引き下がるクシフォス。
大の大人が12歳の少女に威圧され、情け無い事この上ない。
一方、詰められて情けない姿を晒すズィーナミは、諦めた様子でクラージュの問いに答えた。
「その両方に後悔している。だから王家や貴族等からの誘いを断るのが忍びなくてな…折衷案として武術指南役を受ける事で落ち着いたのだ」
首を傾げるクラージュ。
「ん? それって変ですよね…今の指南役は御子息のイリーク卿ですよ。まさか御役が嫌で息子に押し付けたんですか?」
『うはっ! クラージュって、こんなに弁が立ったっけ?!』
辛辣さが止まらないクラージュを見て、タトリクスは笑いを堪えるので必死になってしまう。
まだ成人も迎えていない少女が、200年を生きた英傑を口で圧倒するのは中々に小気味良い。
「ち、違う! いや…違わない! いや…その…」
オロオロするズィーナミ。
真実は分からないが、事実としては息子に押し付けた自覚がある…そうクラージュは判断した。
「事情が有るなら全てゲロして下さい」
「ゲロって…取り調べじゃ有るまいし」
「そこの脳筋は黙ってて!!」
やんわりと突っ込んだクシフォスへ、透かさずクラージュは強めの釘を刺す。
「は、はいっ!」
段々と楽しくなって来るタトリクス。
もはやズィーナミ云々など、どうでも良くなっていた。
『フフッ…流石の武神と剣匠も、孫みたいな子にはタジタジみたいね』
言い難そうにズィーナミは説明を続けた。
「その…儂はセルウスレーグヌムとの関係以前に、武國…いや、デン陛下との繋がりが強くてな。故に何れはセルウスレーグヌムを離れなければ為らなかった」
「まさか…剣匠の後継を?!」
凡その察しが付いてしまったクラージュ。
「うむ、貴族から妙齢の女性を宛てがわれてな…」
これ以上の言及は下世話になるので、先をズィーナミは言い淀んだ。
クラージュは頭を抱える。
結局はセルウスレーグヌム王国が剣匠を束縛したのだ。
詰まるところズィーナミを追求すれば、回り回って王家の人間である自分へ、その責が問われる事になる。
『うぅぅ…粗を探すどころか、身内の粗が浮き彫りになるなんて…』
ここで黙っていたタトリクスが口を開いた。
「御子息のイリーク卿が父の代わりを果たした…これが1つ目の約束よね? なら2つ目は?」
「それは…」
『うぬぬ…一生ネタにされそうだな…』
興味津々のタトリクスを見て、ズィーナミは酒の肴にされると確信したのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




