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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第八章:武王が居た国
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1223話・剣匠とセルウスレーグヌム

「あのぅ…どうしてズィーナミ様はデン陛下に忠誠を誓ったのですか? 以前はセルウスレーグヌムに滞在して武術指南もされていたでしょう?」



そうクラージュに尋ねられ、ズィーナミは何故だか気まずそうに声を漏らした。

「う…!」



『これは…何か後ろめたい事が有りそうね』

更にクラージュは追求を掛ける。

それも明からさまでは無く、無意識や不可抗力を装う。

「我がセルウスレーグヌム王国には、ズィーナミ様の御子息…イリーク卿が居ます。実子を残して何故に国を出られたのですか?」



「そ、それは…」

答えに窮するズィーナミ。



そこにクシフォスが割って入った。

「確か…20年くらい前だよな、セルウスレーグヌムを出たのは。その時は俺と組んで冒険の旅に出て、中々に楽しかったよなぁ」



「う、うむ…。まぁ5年ほど旅をして儂はセルウスレーグヌムに戻ったがね」



「何言ってる…南方戦争が終わってから、また知らぬ間に出て行ったろ?」



「え、あ…う〜む…」

クシフォスに突っ込まれて、しどろもどろになるズィーナミ。



「まさかクシフォス様と冒険へ出る為にセルウスレーグヌム王国を捨てて、また出戻ったと?! しかもまた出て行った?!」



半ば怒り気味のクラージュの問いに、思わぬ巻き込みに合うクシフォス。

「えぇ?! それじゃぁ丸で俺の所為みたいじゃないか?!」



戦友…もとい友人を巻き込んでしまいズィーナミは慌てる。

「ち、違う! クシフォス殿と冒険に出たのは、たまたま彼が居合わせたからだ。儂が1人だったとしてもセルウスレーグヌムを出ていた」



「つまり1人でもセルウスレーグヌム王国と御子息をを捨てていたのですね」



辛辣なクラージュの突っ込みに、ズィーナミは更に慌てた。

「違う!違う! 捨てたのでは無い!」



「では何故です? 半ば出奔したように行方不明になったと聞きましたが?」



終わらぬクラージュの追求…これに居た堪れなくてなったのか、クシフォスが庇うように言った。

「待て待て…ズィーナミの爺さんがセルウスレーグヌムを出たのは、2つの約束を守ったからだ」



我関せずを決め込んでいたタトリクスも、これには少し興味が湧いた。

『ほほぅ…約束か…』


武人は荒くれが多いが基本的に信義に厚い。

そしてズィーナミ程の者となると尚更それを重要視するだろう。

なのに仕えていた?セルウスレーグヌムを出たのは、それ相応の理由がある筈なのだ。



「約束…? 釈明する気が有るなら話してくれますよね?」

理由を知れるなら誰が話そうが構わない…そんな風にクラージュは2人を見やった。



するとズィーナミは怖々(おずおず)と話し始めた。

「儂はセルウスレーグヌム王国の建国に立ち会った…まぁ少しばかり手伝っただけだがな。それで初代戦女神(レギーナイムペラートム)と約束したのだ…世代が変わった時、国が安寧であるように手助けして欲しいと、」



クラージュは驚きで目を見張った。

「……」


セルウスレーグヌムが建国され、その守護の象徴として初代レギーナイムペラートムが据えられたのは100年前。

その伝説とも言える傑物と約束が交わせる仲…それがズィーナミ・リニスなのだ。

正に剣聖と比肩する程の生きた伝説と言えた。



「それで儂は修行の旅を再開し、60年後にセルウスレーグヌム王国へ戻った。皇后は亡くなられた直後で儂は愕然としたよ…」

もっと早くに訪れていれば…そんな後悔の念が、未だにズィーナミの心を苦しめていた。



それを感じ取ったクラージュは敢えて尋ねる。

「その後悔は初代レギーナイムペラートムに向けての物ですか? それとも60年もセルウスレーグヌムをお座なりにした事ですか?」



先程にも増して辛辣な言い様に、気の毒に思ったクシフォスが口を挟んだ。

「クラージュ姫、その問いは余りに配慮が足らんだろ。ズィーナミの爺さんも、それなりに事情が有ったんだよ」



「分かってますよ…そんな事。だから今こうして訊いてるんでしょう」



「う……そ、そうか」

あっさり引き下がるクシフォス。

大の大人が12歳の少女に威圧され、情け無い事この上ない。



一方、詰められて情けない姿を晒すズィーナミは、諦めた様子でクラージュの問いに答えた。

「その両方に後悔している。だから王家や貴族等からの誘いを断るのが忍びなくてな…折衷案として武術指南役を受ける事で落ち着いたのだ」



首を傾げるクラージュ。

「ん? それって変ですよね…今の指南役は御子息のイリーク卿ですよ。まさか御役が嫌で息子に押し付けたんですか?」



『うはっ! クラージュって、こんなに弁が立ったっけ?!』

辛辣さが止まらないクラージュを見て、タトリクスは笑いを堪えるので必死になってしまう。

まだ成人も迎えていない少女が、200年を生きた英傑を口で圧倒するのは中々に小気味良い。



「ち、違う! いや…違わない! いや…その…」

オロオロするズィーナミ。



真実は分からないが、事実としては息子に押し付けた自覚がある…そうクラージュは判断した。

「事情が有るなら全てゲロして下さい」



「ゲロって…取り調べじゃ有るまいし」



「そこの脳筋は黙ってて!!」

やんわりと突っ込んだクシフォスへ、透かさずクラージュは強めの釘を刺す。



「は、はいっ!」



段々と楽しくなって来るタトリクス。

もはやズィーナミ云々など、どうでも良くなっていた。

『フフッ…流石の武神と剣匠も、孫みたいな子にはタジタジみたいね』



言い難そうにズィーナミは説明を続けた。

「その…儂はセルウスレーグヌムとの関係以前に、武國…いや、デン陛下との繋がりが強くてな。故に何れはセルウスレーグヌムを離れなければ為らなかった」



「まさか…剣匠の後継を?!」

凡その察しが付いてしまったクラージュ。



「うむ、貴族から妙齢の女性を宛てがわれてな…」

これ以上の言及は下世話になるので、先をズィーナミは言い淀んだ。



クラージュは頭を抱える。

結局はセルウスレーグヌム王国が剣匠を束縛したのだ。

詰まるところズィーナミを追求すれば、回り回って王家の人間である自分へ、その責が問われる事になる。

『うぅぅ…粗を探すどころか、身内の粗が浮き彫りになるなんて…』



ここで黙っていたタトリクスが口を開いた。

「御子息のイリーク卿が父の代わりを果たした…これが1つ目の約束よね? なら2つ目は?」



「それは…」

『うぬぬ…一生ネタにされそうだな…』

興味津々のタトリクスを見て、ズィーナミは酒の肴にされると確信したのであった。



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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