1222話・尻拭いと粗探し
控え室の扉を遠慮気味にノックする音が聞こえた。
「は~い…」
タトリクスが答えると、聞き慣れた少女の声がした。
「あの…クラージュです。お加減は如何ですか?」
先程、不躾に入って来たクシフォスとは大違い…などと思いながらタトリクスは返事を返した。
「う~ん、大丈夫だよ~~遠慮せずに入って来て」
すると扉を開けて怖々とクラージュが入室し、その後ろに心配そうな表情を浮かべたズィーナミが続く。
「ん? クシフォス殿…来ていたのか」
「え…吹っ飛ばされたのに、私達より先に来ていたなんて…」
呆れた様子で2人に言われ、クシフォスは嬉しそうに返す。
「うははっ! 俺ほどに頑丈な奴は他に居ないだろうな! 少し尻が痛いが全然平気だぞ」
「いや…別に褒めた訳じゃないのに嬉しそうにしないで下さい」
と更に呆れるクラージュ。
そんな2人を他所に、ズィーナミはタトリクスの傍に屈み込んだ。
「タトリクス殿……いえ、タトリクス様。忠誠を誓うと言いながらも、貴女に頼り切りで申し訳ありませんでした」
これにクシフォスが目を丸くする。
「おいおい、ズィーナミの爺さん…どうしたんだ急に」
「儂は武國を救って貰う代償に、タトリクス様へ忠誠を誓ったのだ。いや違う……デン陛下以外に忠誠を捧げられるのは、タトリクス様しか居ないと儂は確信した」
ズィーナミの返答は、クシフォスには余り良く受け取られなかったようだ。
「ほぅ…武王の生い先が短いから鞍替えってか? 随分と薄情な奴だな」
控え室が一触即発の空気に覆われる。
ここに居合わせたクラージュは居た堪れなくて仕方がない。
『うぅ…大事な決勝戦を控えてるなに、仲間内で揉めるなんて』
一方タトリクスは特に気にした風も無く只々無言だ。
まるで勝手にやってろと言わんばかりだ。
「勿論、デン陛下への忠誠は変わらぬ。だが…必ず崩御される時が来る。その時、ただ忠誠だけを唄って手をこまねくのは、真の忠誠とは言えぬ」
ズィーナミの言葉には強い意志が込められていた。
それを察したクシフォスは自身を落ち着かせるように溜息をついた後、傍に有ったソファーへドカリと腰を下ろす。
「つまり今の…いや、これからの行動は全て武王の為って訳か?」
「正しくは武國の為だ。それをデン陛下は望んでいる」
武王デンが生涯を懸けて守った物…それは武國なのだ。
これをデンが亡き後も守る事が出来れば、これに勝る忠義は無い…そうズィーナミは考えていた。
「う~む…」
ズィーナミの言う事には一応の筋が通っており、クシフォスは納得せざるを得ない。
しかし1つ懸念が有った…それはタトリクスの本当の姿が聖女王である事だ。
正直、武王として武國に留まり続ける事は、タトリクスには不可能な筈。
そうなると最終的には偽装を打ち明けねば為らず、ズィーナミとの間で一悶着が起こるのは明白だろう。
『おいおい…大丈夫なのか?!』
クシフォスに不安気な視線を向けられ、タトリクスの目が泳いだ。
『これは……ひょっとして行き当たりばったり?!』
唖然とするクシフォス。
自分も人の事は言えないが、今回ばかりはタトリクスの不手際が甚だしと言わざるを得ない。
このままでは不味いと思い、アグノスへ助け船を求める風に視線を向ける。
だが何故だか察しが悪く、不思議そうに首を傾げられるだけだった。
『うへ……どうすりゃ良いんだ?!』
仕方なく残ったクラージュへ、頼みの綱とばかりに見やった。
一瞬、怪訝そうにするクラージュだが、直ぐにクシフォスの無言の訴えを察する。
『あ…ひょっとしてタトリクス様の偽装を心配してるのかしら?』
かく言う自分もタトリクスが聖女王と知って、結構…いや、相当に驚いたものである。
『でも…その程度の事態は想定済みなのでは……』
そう思いクラージュはクシフォスへ視線を投げ返す。
そうするとクシフォスは小さく首を振って”違う”と暗に答えたのだった。
「ええぇっ!?」
つい声を上げてしまうクラージュ。
「ん? 何じゃ?!」
当然ズィーナミが怪しむ。
「い、いえ! 何でも有りません…」
『ど、どうしよう…』
クラージュは途方に暮れる。
他国の姫が、他国の事情に首を突っ込んで心配するなど、中々に可笑しな話だ。
しかしながら敬愛する思いは国境を越える。
つまり敬愛する相手に損失が出るような事は、何であろうと心配になってしまうのである。
また武國の政権争いに首を突っ込んだのも、タトリクスが関与しているからなのだ。
『何とかしてズィーナミ様の弱点を探して、タトリクス様の偽装が露見した時の対策に使わないと…』
そこで思い付いたのは、武國の六武大将に至ったズィーナミの経緯だ。
長きにわたり修行の旅をして来た筈の彼が、如何にして武國に腰を据えたのか?
何故に武王へ忠誠を誓ったのか?
この辺りに何か”ネタ”になる物が有るようにクラージュは思えた。
「あのぅ…どうしてズィーナミ様はデン陛下に忠誠を誓ったのですか? 以前はセルウスレーグヌムに滞在して武術指南もされていたでしょう?」
「う…!」
と何故か気まずそうな声を漏らすズィーナミ。
『お…これは…』
少し手ごたえを感じ、内心でクラージュは北叟笑むのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




