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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第八章:武王が居た国
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1221話・超常的な改変力

ゼノが控え室から姿を消して直ぐ、バ〜ンッと扉を開け放った者が居た。



「ちょっ! 淑女の部屋をノックも無しに開けるなんて! 無礼にも程がありますよ!!」

アグノスは来訪者へ怒号を浴びせた。



そして浴びせられた相手は、タトリクスと準決勝を戦ったクシフォスである。

「あ〜〜すまんすまん。心配になって来たんだが…勢いが余ったようだ」



「普通、心配するなら相手を気遣って静かに来るものです! これだから脳筋は…」



結構な言われようだが、クシフォスは然して気にした風も無い。

「がははっ! よく(テユーミア)にも怒られる。これからは女性相手に留意するとしよう」


そして徐に、簡易ベットへ横になるタトリクスに近付く。

「で…本当に大丈夫なのか?」



これにタトリクスは自嘲気味に答えた。

「うん…ジッとしていれば問題無いの。只、次の決勝は覚悟が要るかもね…」



「覚悟? 相手を倒す事か? それとも身体への負担の事か?」



「どっちもかな。それでクシフォス殿に頼みが有るのだけど…」



改まったタトリクスの雰囲気に、クシフォスは自然と居住いが正された。

「うむ…タトリクス殿には返し切れない恩がある。何でも言ってくれ」



「私の推測だと武國は…いえ、武國を含む周辺諸国は未曾有の危機を前にしてるわ。多分、これを完全に防ぐ方法は無いの。だから私の身内を守って欲しい…」



「……」

クシフォスは"らしく無い…"と思った。


目の前の絶世の美女は、武と魔に於いて比肩する者が居ない。

それだけでは無い…その叡智と洞察力までもが、他の追随を許さないのだ。


そんな存在が他者に助けを求める…生半可な事態で無いのは確かだろう。

だが、たかが南方最強程度の自分が、果たして助けとなるのか?

「俺の力で事足りるのか心配だが…」



「何を言ってるの…私が知る限りでは、クシフォス殿は最強の"人間"だよ。それに私が言ってるのは、直接的な武力が無いアグノスやフィートだから」



「よせやい……で、本当にその2人だけで良いのか?」



「最悪の事態を想定するなら、これ以上の贅沢は言えないよ。クシフォス殿も自分を大事にして欲しいし…」



ここまでタトリクスに言わせる事態…それが一体何なのか?

その疑問がクシフォスの中で爆発的に大きくなった。

「何が起こっているのか……いや、この場合は何が起こるのか教えてくれるか?」



「うん…実はね…」

タトリクスは先ほど訪ねて来たゼノとの会話を、クシフォスに掻い摘んで説明した。


   ※

   ※

   ※


「成程な…。つまり大厄災が絶対に起きるから、仲間を守れと言う訳か。しかしなぁ~~大厄災と言われても漠然としてるしな」

説明を聞いたクシフォスは困った様子で頭を掻いた。



『因果を操作する程の呪い…本当なのか試してみるか』

タトリクスは率直に口に出してみた。

「武國で起こる大厄災は……」



「……」



「ん? 大厄災は…何だ?」

素の表情で不思議そうにするクシフォス。



「…!」

直ぐにタトリクスは傍に居たアグノスを見る。



するとアグノスも「どうしたのか?」と言いたそうな顔をしていた。

「…?」



『これは…』

タトリクスは確かに言葉として"それ"を告げた。

だが何事も無かったように…否、何も言っていないかの如く時間だけが過ぎたのだ。


『フフッ…凄いわね。こんな強力な改変力は初めて体験したわ』

以前の世界でも無かったかも知れない超常的な力。

正に人外…もとい神の域と言えた。


それでも抜け道が無い訳では無い。

ゼノが言った…「武國の大厄災に関連しての事だから、それ以外での言及なら口に出せるかもね」と。



「今ね大厄災が何なのか率直に言ったの。でも言葉として他人に認識されないどころか、発言した事自体が無かった事になったみたい」



「なぬ?!」

タトリクスの説明に、半ば信じられない表情でクシフォスは声を上げる。



これにアグノスが気付いた様子で言った。

「それって…タトリクス様の言葉が核心を突いたって事ですよね」



「その通り! だから大厄災に対しての呪い?…と言うか改変力に触れないよう遠回しに言うわね」



固唾を飲み頷くクシフォスとアグノス。

「うむ!」

「はい!」



「リヒトゲーニウス王国に在るエスプランドルの迷宮…この存在の意味と言えば伝わるかな?」



直ぐに察しが付くクシフォス。

「…! まさか…この武國にも………………」



「武國にも? 何んですか?」



アグノスに問われ、「しまった!」と目を見開くクシフォス。

そして恥ずかしそうに言った。

「うむむ…タトリクス殿が試して分かっているのに、俺もやっちまった…」


そう”大厄災”の核心を告げる事は勿論、その核心と”武國”を関連付けて言及する事も禁句…もとい超常的な改変力に因って無かった事にされるのだ。



ここでクシフォスを鼻で笑い、自慢げに言及するアグノス。

「フフンッ! 私は完璧に理解しましたよ! つまり大厄災は………………」



「アグノスさんよ~~今、何て言ったのかな~~?」

とクシフォスはニヤニヤした顔で揶揄う。



「くぅぅ…!!」

クシフォスと同じ失敗をして、アグノスは恥ずかしそうに顔を両手で覆った。



「二人とも何やってるの……兎に角、大厄災は起きるから、心しておいて欲しいの」

そう告げるタトリクスは何故か儚げに見えた。



それを敏感に感じ取ったアグノス。

「タトリクス様…御自身はどう為されるのですか?」

本当は訊くまでも無かった。

この敬愛する伴侶は、自身を犠牲にしてでも事を収めようとするに違いないのだから。



病的にまで白く美しい手が、ソッとアグノスの手を握った。

「大丈夫……私は私が出来る範囲で、やれる事をするだけだよ」


楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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