1221話・超常的な改変力
ゼノが控え室から姿を消して直ぐ、バ〜ンッと扉を開け放った者が居た。
「ちょっ! 淑女の部屋をノックも無しに開けるなんて! 無礼にも程がありますよ!!」
アグノスは来訪者へ怒号を浴びせた。
そして浴びせられた相手は、タトリクスと準決勝を戦ったクシフォスである。
「あ〜〜すまんすまん。心配になって来たんだが…勢いが余ったようだ」
「普通、心配するなら相手を気遣って静かに来るものです! これだから脳筋は…」
結構な言われようだが、クシフォスは然して気にした風も無い。
「がははっ! よく妻にも怒られる。これからは女性相手に留意するとしよう」
そして徐に、簡易ベットへ横になるタトリクスに近付く。
「で…本当に大丈夫なのか?」
これにタトリクスは自嘲気味に答えた。
「うん…ジッとしていれば問題無いの。只、次の決勝は覚悟が要るかもね…」
「覚悟? 相手を倒す事か? それとも身体への負担の事か?」
「どっちもかな。それでクシフォス殿に頼みが有るのだけど…」
改まったタトリクスの雰囲気に、クシフォスは自然と居住いが正された。
「うむ…タトリクス殿には返し切れない恩がある。何でも言ってくれ」
「私の推測だと武國は…いえ、武國を含む周辺諸国は未曾有の危機を前にしてるわ。多分、これを完全に防ぐ方法は無いの。だから私の身内を守って欲しい…」
「……」
クシフォスは"らしく無い…"と思った。
目の前の絶世の美女は、武と魔に於いて比肩する者が居ない。
それだけでは無い…その叡智と洞察力までもが、他の追随を許さないのだ。
そんな存在が他者に助けを求める…生半可な事態で無いのは確かだろう。
だが、たかが南方最強程度の自分が、果たして助けとなるのか?
「俺の力で事足りるのか心配だが…」
「何を言ってるの…私が知る限りでは、クシフォス殿は最強の"人間"だよ。それに私が言ってるのは、直接的な武力が無いアグノスやフィートだから」
「よせやい……で、本当にその2人だけで良いのか?」
「最悪の事態を想定するなら、これ以上の贅沢は言えないよ。クシフォス殿も自分を大事にして欲しいし…」
ここまでタトリクスに言わせる事態…それが一体何なのか?
その疑問がクシフォスの中で爆発的に大きくなった。
「何が起こっているのか……いや、この場合は何が起こるのか教えてくれるか?」
「うん…実はね…」
タトリクスは先ほど訪ねて来たゼノとの会話を、クシフォスに掻い摘んで説明した。
※
※
※
「成程な…。つまり大厄災が絶対に起きるから、仲間を守れと言う訳か。しかしなぁ~~大厄災と言われても漠然としてるしな」
説明を聞いたクシフォスは困った様子で頭を掻いた。
『因果を操作する程の呪い…本当なのか試してみるか』
タトリクスは率直に口に出してみた。
「武國で起こる大厄災は……」
「……」
「ん? 大厄災は…何だ?」
素の表情で不思議そうにするクシフォス。
「…!」
直ぐにタトリクスは傍に居たアグノスを見る。
するとアグノスも「どうしたのか?」と言いたそうな顔をしていた。
「…?」
『これは…』
タトリクスは確かに言葉として"それ"を告げた。
だが何事も無かったように…否、何も言っていないかの如く時間だけが過ぎたのだ。
『フフッ…凄いわね。こんな強力な改変力は初めて体験したわ』
以前の世界でも無かったかも知れない超常的な力。
正に人外…もとい神の域と言えた。
それでも抜け道が無い訳では無い。
ゼノが言った…「武國の大厄災に関連しての事だから、それ以外での言及なら口に出せるかもね」と。
「今ね大厄災が何なのか率直に言ったの。でも言葉として他人に認識されないどころか、発言した事自体が無かった事になったみたい」
「なぬ?!」
タトリクスの説明に、半ば信じられない表情でクシフォスは声を上げる。
これにアグノスが気付いた様子で言った。
「それって…タトリクス様の言葉が核心を突いたって事ですよね」
「その通り! だから大厄災に対しての呪い?…と言うか改変力に触れないよう遠回しに言うわね」
固唾を飲み頷くクシフォスとアグノス。
「うむ!」
「はい!」
「リヒトゲーニウス王国に在るエスプランドルの迷宮…この存在の意味と言えば伝わるかな?」
直ぐに察しが付くクシフォス。
「…! まさか…この武國にも………………」
「武國にも? 何んですか?」
アグノスに問われ、「しまった!」と目を見開くクシフォス。
そして恥ずかしそうに言った。
「うむむ…タトリクス殿が試して分かっているのに、俺もやっちまった…」
そう”大厄災”の核心を告げる事は勿論、その核心と”武國”を関連付けて言及する事も禁句…もとい超常的な改変力に因って無かった事にされるのだ。
ここでクシフォスを鼻で笑い、自慢げに言及するアグノス。
「フフンッ! 私は完璧に理解しましたよ! つまり大厄災は………………」
「アグノスさんよ~~今、何て言ったのかな~~?」
とクシフォスはニヤニヤした顔で揶揄う。
「くぅぅ…!!」
クシフォスと同じ失敗をして、アグノスは恥ずかしそうに顔を両手で覆った。
「二人とも何やってるの……兎に角、大厄災は起きるから、心しておいて欲しいの」
そう告げるタトリクスは何故か儚げに見えた。
それを敏感に感じ取ったアグノス。
「タトリクス様…御自身はどう為されるのですか?」
本当は訊くまでも無かった。
この敬愛する伴侶は、自身を犠牲にしてでも事を収めようとするに違いないのだから。
病的にまで白く美しい手が、ソッとアグノスの手を握った。
「大丈夫……私は私が出来る範囲で、やれる事をするだけだよ」
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




