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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第八章:武王が居た国
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1219話・急接近のゼノ(2)

「さて、私は答えた。次は貴女の番だよ…」



そうゼノに言われ、タトリクスは態とらしく首を傾げた。

「何だったけ…?」



この返しに普通なら苛立つだろう。

しかしゼノからは特に気配の変化は感じられない。

「……もう一度言うよ。武國の政権を取った後、どうするのかな?」



内心で少し感心することタトリクス。

『ほぅ…冷静ね。只の武人なら癇癪(かんしゃく)を起こしそうな物なのに』


タトリクスの経験からすると、武人の多くは粗野で性急(せっかち)な傾向にある。

なので武人に対して変に惚けたり揶揄すると、怒らせ兼ねない。

飽く迄もタトリクス個人の主観…ある意味で偏見甚だしいかも知れないが。


それらを踏まえると、ゼノが武人らしからぬ為人に思えた。

『まぁ良いか…重要なのは"そこ"じゃないし』

「あぁ〜〜そうでしたね。え〜と、私は武國の政権云々には拘らないわ。私より適材な者が居れば、その人に任せるし」



「……ふむ。つまり場合に因っては、武王の地位を放棄すると? それでは協調者が黙っていないだろう?」

ゼノの疑問は尤もなものだ。


だがゼノは知らない…タトリクスが聖女王(プリームス)である事を。

そしてプリームスが"超"が付く程の面倒臭さがり屋なのも知らない。



「……」

どう答えるかタトリクスは逡巡する。

正直、国を治める責務を負うに比べれば、協調者を強引に黙らせる方を選びたい。

それでも自分が退いて問題無い場合に限定されるが。


『取り敢えず本音半分、建前半分で答えるか』

「仮に私へ反発する者が居るなら、それは利権に固執する輩よ。そんな奴は排斥すればいい」



それが然も当然なように言い切るタトリクスに、ゼノは「ふむ…」と小さく呟いた。



「何? 今の私の返答では不服?」



「公の場では無いからね、貴女の言葉に何の保証も無い」



まさかの言い様にカチンと来たタトリクス。

「そっちが押し掛けて訊いて来たのにっ…」

直後、力んだ所為か体に激痛が走ってしまう。

「痛だだたっ!」



これにアグノスが慌てる。

「タ、タトリクス様! 安静にしていないと!」



「初めは武神との対戦で疲労したかと思ったが…やはり、持病があるようだね」



ゼノに指摘されたタトリクスは何食わぬ顔だが、アグノスは顔色を変えてしまった。

『あぅっ! ジズオ大人にタトリクス様の不調が漏れちゃう!!』


いつもなら、こんな失敗をしないアグノス。

されど敬愛する伴侶の弱点となると、冷静では居られなくなるのだった。



するとゼノは失笑気味に告げた。

「フフッ…心配しなくとも、ここでの話は他言しない」

先の言葉を鑑みると、信用出来ない故に他言する価値が無いとも取れる。



流石のタトリクスも苛立ちを覚え始めた。

『こいつ…一体何がしたいの? それに何か腹が立つわね』

何らかの意図が有って接触して来たのは間違い無い。

只、のらりくらりしていて掴み所が無く、微妙に矛盾している事を言う。


これが互いに探り合う立ち位置なら分からないでも無い。

しかし腹を割って話すと前置きした以上、ゼノの振る舞いは信義に欠ける。

「ゼノさん…まともに会話する気が無いなら、出て行ってくれる? 何なら力尽くで追い出すけど」



「意外に短気なのだね」



「あぁ〜んっ??」と柄が悪く声を上げそうになるタトリクス。

そこを(すんで)で堪えた。

『あぶぶっ! 逆に癇癪を誘発される所だった…』


既知の仲で無い場合の煽る行為は、相手の気質や為人を探る時に使う。

これに直情的な者は直ぐ反応し、その逆ならば飄々と躱す。

そうして御し易いか否かを確認したりするのだ。


そしてタトリクスの見立てでは、ゼノは非常に御し難い。

突き放せば此方の粗を突いて来るし、かと言って歩み寄れば飄々と(はぐ)らかす。

『面倒臭い……』

「はぁ……もう疲れちゃった。決勝が控えてるので、お引き取り願います?」



「……さっきチラッと耳にしたのだけど、闘技場の舞台は完全に撤去するようだよ。1時間は掛かりそうだし、そう慌てなくても大丈夫」



ゼノの言い様に、タトリクスはズッコケてベッドから落ちそうになる。

『くぅ〜〜居座るつもりか?! 面倒臭過ぎる!!』



「貴女は武王の本質を知らないだろう?」

突如、ゼノが話を変えた。



場の空気も変わった気がしたタトリクス。

『漸く本題か?』

「本質…?」



「武王の存在は、大災厄に対する蓋のような物なんだよ。だから蓋が小さ過ぎても大き過ぎても駄目…丁度良くないとね」



それがどうした…とタトリクスは言いそうになるが、何らかの助言である可能性も捨てきれない。

なら鎌を掛けるのが妥当だろう。

「武王の存在が大厄災を封じているのは知っているわ。でも変ね…確か関係者でも呪術念書の誓約で、おいそれと言及出来ない筈なんだけど」



「そうだね。でもそれは呪物念書の所為だけでは無いんだよ。もっと根幹的な…そう本当の呪いと言うべきかも知れない」



「……」

ゼノの口振りに、タトリクスは怪訝そうな視線で返す。

『何か秘密を知っているのか? それとも只のハッタリか?』

別に交渉事をしている訳でも無いのだから、いまいちゼノの振る舞いは理解し難い。



「フフッ…まぁ漠然な表現で分かり難いだろうね。でも、これこそが大厄災の核心なんたよ。例えば超常的な存在が因果へ干渉したとする…そして本来の姿を語れないように細工すれば?」



思わせ振りなゼノの問いへ、それにタトリクスは続ける風に答えた。

「核心を知っていても語れない。だから大厄災と訳した……それが本当なら超常的存在からの呪いね」



頷くゼノ。

「うん…そうだね」



「ふむ……」

ここでタトリクスは疑問を抱く。

武王が大厄災を封じる存在なら、代替わりする時に"その呪い"が大きな障害になるだろう。

そうなると核心を知らず謎の大厄災に対処するなど、到底無理に思えた。

「変ね…あやふやな状態で代替わりが出来るものなの?」



これにゼノは少し惚けた仕草で答える。

「現に今まで武王が継承されてるんだから、大丈夫だったに違い無いでしょ」



『こ、こいつツ!!』

この一言でタトリクスの苛立ちが頂点に達してしまうのであった。



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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