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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第八章:武王が居た国
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1208話・酷い決着

体が横に回転したソキウスは、ほんの僅かだが相手から視界が外れる。

『や、やばっ!!』



「うはは! 隙有り!!」

計算なのか、或いは偶然なのか、この結果に歓喜の声を上げてクシフォスは右手を振るった。

それは下から捲り上げるような平手打ち。



直後、バチーン!!と派手な音が響き渡る。

何とクシフォスの平手打ちは、ソキウスの尻に直撃していたのだった。



「☆$○×!!!」

余りの痛さに悶絶し、声にならない声を漏らすソキウス。

更には平手打ちの勢いが凄じ過ぎて、打たれた姿勢のまま場外へ吹っ飛んでしまう。



会場が沈黙に包まれた。

何が起こったのか認識が付いて来ていないのだ。

一方ズィーナミやクラージュ、それにジズオは転末に絶句する。

そう、絵面が余りにも醜かったからである。



こうして逸早く状況を認識した審判の1人が、舞台へ駆け上がり宣言した。

「勝者、クシフォス・レクスデクシア!!」



ここで漸く決着を理解し歓声が湧き上がる。



「ふぅ〜〜やれやれだな…」

クシフォスは腕を摩りながら呟いた。



片やソキウスはお尻を抱えて起き上がれない様子…相当に痛かったようだ。

結局、起き上がれなかったソキウスは担架で運ばれるに至る。




「……大丈夫なんでしょうか?」

気の毒そうにズィーナミへ尋ねるクラージュ。



「ん〜〜敢えて平手で尻だからな…十分な手加減はしているだろう」

と気にする風も無く返してズィーナミは席をたった。


何よりソキウスは武神と素手で互角に戦った…これ程の傑物は中々居ない。

あの程度の一撃で重体には成り得ないと判断したのだ。


それよりも次の準決勝戦が問題である。

両陣営とも自陣で潰し合いになる組み合わせで、それに出るタトリクスの体調が気掛かりでならなかった。






 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※






ズィーナミとクラージュが控え室に来ると、タトリクスは弱々しくソファーに座っており、それをアグノスが世話をしている場面に出くわす。



「タトリクス殿の具合は如何ですかな、アグノス王妃」



ズィーナミに訊かれ、アグノスは手を止めて答えた。

「今、タトリクス様にスープを召し上がって頂いている所です。少量を小まめに分けて食べないと、直ぐに貧血を起こしてしまうので…」



「左様ですか……」

『そんなに2人は近しい仲なのか?』

ズィーナミの胸中を怪訝さが覆う。



これを察したクラージュが透かさず話題を変える。

「敗者復活戦はクシフォス様が勝利しました。つまり…」



「あ〜〜タトリクス様とクシフォス様の対戦になってしまいましたね」

そう返したアグノスは、特に気にした様子も無くタトリクスの世話を続けた。



「えぇぇ?! 心配にならないんですか? あのクシフォス様と当たってしまうんですよ」

状況が飲み込めていないように思い、クラージュは念を押すように問う。


未だにタトリクスの体調が回復していないのは、火を見るより明らかだ。

そんな状態で武神と呼ばれるクシフォスと立ち合えば、些細な失敗が大怪我に繋がり兼ねない。



「そんなに心配なら、クシフォス様が棄権すれば良いのです」

それが然も当然の如く言い放つアグノス。



「いや、まぁそうなんですけど…」



言い淀むクラージュに、アグノスは首を傾げた。

「…? 何か気掛かりな事でも?」



「実は…先程ほどクシフォス様に会って来たのですが、準決勝戦をヤル気満々で……」



嫌そうな、また苛立った様な、何とも言えない表情をアグノスは浮かべる。

「……」



するとズィーナミが代わって説明を始めた。

互いに補助し合って、妙に息の合った2人である。

「タトリクス殿と真面に立ち合えるのは今回ぐらいしか無い…そう言っておりました。あれは戦闘狂ゆえ、まぁ仕方ないでしょうな…」



室内の空気が突然凍ったかに思えた。

否…実際に冷気が漂い、部屋の至る所が凍り付いていた。

それはアグノスが無意識に発していた冷却魔法で、恐らくは納得の行かない憤りが原因かも知れない。


それを直ぐに察したズィーナミは慌ててアグノスを諫める。

「アグノス王妃、落ち着いて下さい! 部屋が凍り付いてはタトリクス殿の体調が悪化しかねませんぞ」



案の定、タトリクスはソファーでブルブル震える有様で、これを目にして漸くアグノスは我に返った。

「あぁぁぁ……も、申し訳ありません、タトリクス様!」

そして一国の王妃が、最近まで浪人だった人間に平伏する始末。



「うぅぅ……だ、大丈夫…」

と答えるタトリクスだが、ズビビッと鼻をすすり如何にも体調が悪そうだ。



こうして最悪の事態は回避?され、今後に於いての打ち合わせや確認が行われる。



「タトリクス殿…本当に大丈夫かね?」

非常に体調が悪そうなタトリクスへ、正直訊く迄も無いがズィーナミが尋ねた。

敢えて尋ねたのは、もう引けない状況にあるからだ。



「うん……クシフォス殿の意図はあんまり分からないけど、勝って決勝に進みますよ」

相変わらず寒そうな様子でタトリクスは返した。



「儂が言っているのは決勝の話だ。あちらの武王候補を倒せるのかね?」



「……さぁ、どうでしょうね」



まさかの返答にズィーナミの血相が変わる。

「ジズオ派に政権を渡す訳にはいかん!! それを分かっていての返答か?!」



今にも斬り掛かりそうな剣幕の相手に、タトリクスは特に慌てる風も無く静かに答える。

「私も武國の未来を憂いているわ。でもそれは政権云々じゃない…武國で暮らす人達全員の未来よ」



「……」

絶句するズィーナミ。

民の安寧の為には政権の有り様など問わない…そう暗に告げているに等しいからであった。



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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