1208話・酷い決着
体が横に回転したソキウスは、ほんの僅かだが相手から視界が外れる。
『や、やばっ!!』
「うはは! 隙有り!!」
計算なのか、或いは偶然なのか、この結果に歓喜の声を上げてクシフォスは右手を振るった。
それは下から捲り上げるような平手打ち。
直後、バチーン!!と派手な音が響き渡る。
何とクシフォスの平手打ちは、ソキウスの尻に直撃していたのだった。
「☆$○×!!!」
余りの痛さに悶絶し、声にならない声を漏らすソキウス。
更には平手打ちの勢いが凄じ過ぎて、打たれた姿勢のまま場外へ吹っ飛んでしまう。
会場が沈黙に包まれた。
何が起こったのか認識が付いて来ていないのだ。
一方ズィーナミやクラージュ、それにジズオは転末に絶句する。
そう、絵面が余りにも醜かったからである。
こうして逸早く状況を認識した審判の1人が、舞台へ駆け上がり宣言した。
「勝者、クシフォス・レクスデクシア!!」
ここで漸く決着を理解し歓声が湧き上がる。
「ふぅ〜〜やれやれだな…」
クシフォスは腕を摩りながら呟いた。
片やソキウスはお尻を抱えて起き上がれない様子…相当に痛かったようだ。
結局、起き上がれなかったソキウスは担架で運ばれるに至る。
「……大丈夫なんでしょうか?」
気の毒そうにズィーナミへ尋ねるクラージュ。
「ん〜〜敢えて平手で尻だからな…十分な手加減はしているだろう」
と気にする風も無く返してズィーナミは席をたった。
何よりソキウスは武神と素手で互角に戦った…これ程の傑物は中々居ない。
あの程度の一撃で重体には成り得ないと判断したのだ。
それよりも次の準決勝戦が問題である。
両陣営とも自陣で潰し合いになる組み合わせで、それに出るタトリクスの体調が気掛かりでならなかった。
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ズィーナミとクラージュが控え室に来ると、タトリクスは弱々しくソファーに座っており、それをアグノスが世話をしている場面に出くわす。
「タトリクス殿の具合は如何ですかな、アグノス王妃」
ズィーナミに訊かれ、アグノスは手を止めて答えた。
「今、タトリクス様にスープを召し上がって頂いている所です。少量を小まめに分けて食べないと、直ぐに貧血を起こしてしまうので…」
「左様ですか……」
『そんなに2人は近しい仲なのか?』
ズィーナミの胸中を怪訝さが覆う。
これを察したクラージュが透かさず話題を変える。
「敗者復活戦はクシフォス様が勝利しました。つまり…」
「あ〜〜タトリクス様とクシフォス様の対戦になってしまいましたね」
そう返したアグノスは、特に気にした様子も無くタトリクスの世話を続けた。
「えぇぇ?! 心配にならないんですか? あのクシフォス様と当たってしまうんですよ」
状況が飲み込めていないように思い、クラージュは念を押すように問う。
未だにタトリクスの体調が回復していないのは、火を見るより明らかだ。
そんな状態で武神と呼ばれるクシフォスと立ち合えば、些細な失敗が大怪我に繋がり兼ねない。
「そんなに心配なら、クシフォス様が棄権すれば良いのです」
それが然も当然の如く言い放つアグノス。
「いや、まぁそうなんですけど…」
言い淀むクラージュに、アグノスは首を傾げた。
「…? 何か気掛かりな事でも?」
「実は…先程ほどクシフォス様に会って来たのですが、準決勝戦をヤル気満々で……」
嫌そうな、また苛立った様な、何とも言えない表情をアグノスは浮かべる。
「……」
するとズィーナミが代わって説明を始めた。
互いに補助し合って、妙に息の合った2人である。
「タトリクス殿と真面に立ち合えるのは今回ぐらいしか無い…そう言っておりました。あれは戦闘狂ゆえ、まぁ仕方ないでしょうな…」
室内の空気が突然凍ったかに思えた。
否…実際に冷気が漂い、部屋の至る所が凍り付いていた。
それはアグノスが無意識に発していた冷却魔法で、恐らくは納得の行かない憤りが原因かも知れない。
それを直ぐに察したズィーナミは慌ててアグノスを諫める。
「アグノス王妃、落ち着いて下さい! 部屋が凍り付いてはタトリクス殿の体調が悪化しかねませんぞ」
案の定、タトリクスはソファーでブルブル震える有様で、これを目にして漸くアグノスは我に返った。
「あぁぁぁ……も、申し訳ありません、タトリクス様!」
そして一国の王妃が、最近まで浪人だった人間に平伏する始末。
「うぅぅ……だ、大丈夫…」
と答えるタトリクスだが、ズビビッと鼻をすすり如何にも体調が悪そうだ。
こうして最悪の事態は回避?され、今後に於いての打ち合わせや確認が行われる。
「タトリクス殿…本当に大丈夫かね?」
非常に体調が悪そうなタトリクスへ、正直訊く迄も無いがズィーナミが尋ねた。
敢えて尋ねたのは、もう引けない状況にあるからだ。
「うん……クシフォス殿の意図はあんまり分からないけど、勝って決勝に進みますよ」
相変わらず寒そうな様子でタトリクスは返した。
「儂が言っているのは決勝の話だ。あちらの武王候補を倒せるのかね?」
「……さぁ、どうでしょうね」
まさかの返答にズィーナミの血相が変わる。
「ジズオ派に政権を渡す訳にはいかん!! それを分かっていての返答か?!」
今にも斬り掛かりそうな剣幕の相手に、タトリクスは特に慌てる風も無く静かに答える。
「私も武國の未来を憂いているわ。でもそれは政権云々じゃない…武國で暮らす人達全員の未来よ」
「……」
絶句するズィーナミ。
民の安寧の為には政権の有り様など問わない…そう暗に告げているに等しいからであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




