表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第八章:武王が居た国
1266/1773

1207話・ソキウス 対 クシフォス(5)

クシフォスは両腕を広げて悠然と前進する。

対してソキウスは全く体を揺らさず、ヌル〜ッと不気味に前進した。

対照的な2人の動き…それは一触即発の間合いに至っても同じだった。


右腕を振り上げ膂力の限りで薙ぎ払う攻撃。

そのクシフォスの手は鉤爪のように開かれており、引っ掻く事も"掴む"事も可能に見えた。


しかしソキウスは超至近に至っても何もしない。

自殺行為に思えるが、実力が確かなだけに逆に不気味この上無い。



クシフォスの右手がソキウスの肩口に触れるか否や、その動きが突如停止した。

いつの間にか差し出されていたソキウスの左手が、クシフォスの二の腕の内側を突いていた。

しかも人差し指たった1本で突いただけ…それなのに丸太のような腕を止めたのだ。



『痛え!!』

叫びそうになるクシフォスだが、怯まずに左腕を振るった。

これも同じように止められ、流石に声が出てしまう。

「ぐぇっ! いだだだた!!」



「あたしに無手で…しかも近接戦を挑むなんて馬鹿よ」

不用意なクシフォスへ、見下げる口調で告げるソキウス。

だが次の瞬間、不用意だったのが自分だと認識する羽目になる。



何とクシフォスは経穴を突かれているにも拘らず、腕を強引に押し込んで来たのだ。



「ちょっ!?」

『何て馬鹿力!? 普通、経穴を突かれたら動かせないわよ!!』

ソキウスは驚愕し、引くか押すか逡巡してしまった。



この僅かな間をクシフォスは見逃さない。

そのまま両腕を力任せに押し込み、ソキウスの二の腕両方をガッチリ掴んだのだった。



「しっ、しまっ……」

危機に陥り、ソキウスの思考が高速回転する。


この体格差…膂力では絶対に勝てない。

掴み技に持ち込もうとも、先に掴まれている状態では、兆しを読まれて容易に対処される筈。

ならば如何に脱するか?


ここまで考えて盲点に気付く。

"掴まれて危機に陥った"のでは無い、"掴んだ相手が危機に陥った"のだ。

体に触れているのだから、それを利用して崩せば良いだけである。



それを実行し掛けた時、クシフォスが囁いて来た。

「お前…イリタビリス外交官だろ」

問い掛けでは無い…完全な断言だった。



「なっ!!?」



焦り出すソキウスへ、クシフォスは静かに続ける。

「待て! 擬装してるって事は何か訳が有るんだろ? このまま黙ってやるから、勝ちは俺に譲ってくれないか?」



まさかの申し出に、ソキウスの頭が真っ白になった。

「……」



「別に負けても良いんだが、次の準決勝はタトリクス殿と戦える。こんな機会はまたと無いからな…出来れば本気で立ち合ってみたいんだよ」



切実なクシフォスの言葉に、ソキウスは唖然とした。

「えぇぇ…?!」


しかしクシフォスの気持ちも分からない訳では無かった。

タトリクス…もとい主君(プリームス)永劫の王国(アイオーン・ヴァスリオ)の聖女王なのだ。

そんな存在と他国の大公爵が気軽に手合わせなど出来ない。

そこに"本気"が加われば尚更だろう。



『むむむ…訊きたい事は色々あるけど、』

そもそもは負けるのも吝かでは無かったので、クシフォスの申し出を受け入れる事にするソキウス。

ここで強引に勝っても、結局は準決勝で負けなければ為らない。

良い引き時かも知れなかった。


しかしながら虚仮(こけ)にされ苛立ちが残っており、憂さ晴らしをしたい気持ちもある。

「分かりました…でも、もう少し遊んでからでも良いですか?」



まさかの条件にクシフォスは少し考えてから答えた。

「……ハハッ! お前も中々な戦闘狂だな。構わんが…技は無しでいこうや」

『ちょっと初めに煽り過ぎたか? まぁ俺の自業自得か…』



「それなら互いに怪我もしないでしょうね…了解しました」

そう答えた直後、ソキウスは躊躇う事無く金的を放った。

その理由は単純…両の二の腕をガッチリ掴まれては殴りに行きようが無く、蹴りしか使えなかったからだ。



「うおっ! ちょっ、お前!!!」

慌てて両手を離して蹴りを受け止めるクシフォス。

もう少しで直撃しかけ冷や汗が出る。

『おいおい…容赦無えな』



事なきを得たのも束の間、両手が解放されたソキウスの連拳が飛んでくる。



「どわっ!!」

これまたクシフォスは慌てて対処する。


初撃は右縦拳、続いて連拳の左…金的から殆ど間が無いので、恐らく3連携技と思われた。

しかも左が先程と同じく鞭のように(しな)る打ち付けで、変則過ぎて軌道が読めない。

こうなると手数か、或いは範囲の広い一撃で返すしか術はない。


「ぬ〜ん! 面倒くせぇ!!」

結果、大味で力任せなクシフォスは、範囲の広い一撃で対処するに至る。



「きゃっ!?」

丸太の如き腕が高速で振るわれ、ソキウスの縦拳と鞭打(べんだ)が簡単に弾かれてしまう。


『ちょっ!? こ、これって適当に振ってるだけでしょ!』

勘が良いのか、はたまた腕がデカ過ぎて防御が余裕なのか、雑なのに上手く防がれてソキウスは納得がいかない。



「今度はこっちからだ!」

体勢を崩したソキウスへ、クシフォスが肉薄する。



「うわっ…!」

巨躯が迫って来て、つい声を漏らすソキウス。

また"技無し"では体格で劣る此方が不利…今更ながら若干の後悔が脳裏に過ぎった。



そんなソキウスの思いなど関係無いとばかりに、クシフォスが大雑把に右で殴り付ける。

「おらっ!!」



これをソキウスは咄嗟に受けてから流した。

まともに防御すれば、絶対に痛いと確信があったからだ。

だが甘かった…左の腕で受け流したのだが、その一瞬の接触でも凄まじく痛かったのだ。

「痛いぃぃ!!」



「ハハハッ、休む暇は無いぞ!」

続けざまに左の拳が飛ぶ。



これも綺麗に右腕で受け流すが、やはり凄まじく痛い。

『これで只殴ってるだけなの!? もし直撃したら…』

ソキウスは背筋が凍るのを感じた。



更に痛みで怯んでいる所へ、クシフォスの喧嘩蹴りが真っ直ぐに飛んでくる。



虚や実の駆け引きを伴わない、そこそこ速いだけの直線的な蹴り。

されど当たった時の事を想像して、ソキウスは無意識に体が萎縮してしまう。

そうして僅かに反応が遅れ、蹴りが脇腹を(かす)る羽目に。


「えっ!?」

驚愕するソキウス。

掠っただけなのに体が横に回転したのだ。

『うそ〜ん?!』



体が回転する…つまり相手から視界が外れる事と同義。

虚実の駆け引きが無いだけに、視覚的な情報の欠如は一瞬でも命取りに繋がる。



「うははっ! 隙有り!!」

クシフォスは歓喜の声を上げ、下から捲り上げるような平手を放ったのだった。



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ