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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第八章:武王が居た国
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1206話・ソキウス 対 クシフォス(4)

ソキウスが徐に突き出した…否、差し出された縦拳に、200cmの巨躯を誇るクシフォスが吹き飛ばされた。

しかも10mもだ。

これに観客は湧き上がり、一廉の武人は背筋が凍る。



透かさず受け身を取って何事も無く着地するクシフォスだが、胸中は誰よりも驚愕していた。

『おいおいおい…これじゃぁ本気でタトリクス殿に迫るぞ!』


十字に腕を重ねて縦拳を防御したが、未だに腕が痺れたままだ。

また幸い浸透系の技では無く、体に伝わる被害は皆無。

恐らく"敢えて"吹き飛ばしたのだと考えられた。

「ハハッ! 中々に観客思いな奴だな。だが俺には物足りないぞ」



「ほぅ…なら手数を増やして、もう少し趣向を凝らそうか」

そう返したソキウスは、ユラ~っと不気味に前進した。



それに合わせるかの如くクシフォスは両腕を大きく広げる。



「また大鳳翼の真似事か…」

『もう只の真似事なのは分かった。正面から粉砕してやる!』



首を傾げるクシフォス。

「ん? 大鳳翼? 真似事?」



そうしている内に距離は2mを切る。

直後、先程と同じく徐に突き出されるソキウスの縦拳。

だが関係の無さそうな左肩が僅かに、ほんの少しだけマントがはためき、これをクシフォスは見逃さない。

『連拳か?』



連拳——左右の拳で絶え間なく攻撃を繰り出す方法。

この場合は素早い運足を駆使する為、全体的に体の動きが派手になってしまう。

つまり手数で相手を圧倒出来るが、兆しが露見し易い攻撃方法とも言える。


だが不思議な事にソキウスの挙動には、目立つ兆しが殆ど無い。

それだけ凄まじい練度の持ち主と言う事なのだろうか?



『フッ…初段を躱すか受け流して出鼻を挫いてやる』

クシフォスは即座に対応を決めた。


連拳の強みは連続した攻撃であり、それは相手へ防御を強いて反撃させないのが目的だ。

逆に裏を返すと、回避すれば連撃の調子を崩す事も可能なのである。


しかし言うは易し行うは難し…クシフォスであっても、ソキウスの攻撃を容易に躱すのは難しいかも知れない。

兎に角は如何様な攻撃なのか確かめるだけだ。


『先ずは突きを受け流す!』

徐に突き出された縦拳へ、クシフォスは左手の側面を当てる…例えるなら手刀に近い。


正面から打ち払って受け流すのでは無く、僅かな力で縦拳の軌道を変えるのが目的だ。

こうすれば最小限の能力を割くだけで良い為、次の攻撃に対処し易くなるのである。



パンッと乾いた音が鳴った。

緩い縦拳に合わせたクシフォスの左手が、勢い良く弾かれたのだ。



「なっ!?」

つい驚きで声が漏れるクシフォス。

力の慣性は明らかに縦拳の進行方向にある…なのに側面へ触れただけで弾かれてしまったからだ。



そして縦拳は緩やかにクシフォスの鳩尾に肉薄する。



『ぬぅ! 避ければ良かった…』

内心で後悔するクシフォスだが、直ぐさま空いていた右手を鳩尾と縦拳の間へ差し込んだ。


だが、これでは連拳と思われるソキウスの左を受け流せない。

それも分かっていて縦拳への対処を優先したのは、この突きの威力を十二分に理解している為だった。


『多少痛い目を見るが、鳩尾に食らって内臓を痛めるよりは随分マシだな…』

などと高速化する思考内でボヤく。



直後、ソキウスの縦拳がクシフォスの右手に受け止められる。



「うぬぬっ!!」

岩をも容易く砕きそうな一撃を受け止め、クシフォスの体が一瞬だけ浮くが…吹き飛ばない。

そう、浸透系の突きだったのだ。


『うおっ! 不味いぞ!』

縦拳の威力は受け止めた右手を抜け鳩尾に伝播する。

否…伝播しそうになった。

察知したクシフォスは即座に体を半身にし、伝播する先の鳩尾を外していた。



「やるな!」



ソキウスの(くぐ)もった声が聞こえた刹那、クシフォスの右側面から"何か"が迫った。

『連拳…仕方ない、甘んじて受けてやる』

既に左手は跳ね上げられてしまっており、追撃の連拳を防ぐ術は無い。



バシ〜ンッと叩くような音が響いた。



「ぶべっ!!?」

右側面から迫った"何か"が、クシフォスの頬を強打したのだった。

その性質は打撃に似ていて非なる物…かと言って斬撃でも無い。

しかし威力は凄まじく、クシフォスの首が90度ほど左へ回転した。


『痛ぇっ!!!!』

こんな痛い打撃は久方ぶりに食らった。


並の攻撃ならば表面が多少ヒリ付く程度で済む。

されど今の一撃は鞭のように(しな)って、尚且つ吹き飛び兼ねない威力だ。

鍛えていない一般人なら、恐らく首が捻じ折れていただろう。


この鞭のような一撃が浸透系で無かった事と、クシフォスが被害を抑える為に体を捻ったお陰で、互いの距離が開く結果になる。




「……凄い。あの一瞬で2撃も?!」



呆気に取られるクラージュへ、ズィーナミが補足を口にした。

「クシフォス殿の受け流しを弾いたのは体動衝撃だろう。それに左の連拳は恐らく鞭打べんだ…実に珍しい技を使う」



「体動衝撃? べんだ…? 無手の技も奥が深いのですね……」

武器を持ってこそ最強たり得るのが武人…そう思っていただけにクラージュは驚きを隠せない。

何より2人の技術が余りに高くて、自分が剣を持っても勝てないと感じた。



「体動衝撃は体内で圧縮した気を、瞬間的に身体の表面へ発する技だ。こうして口で言うのは簡単だが…あれ程の威力は生半可な練度では成せない」



「ズィーナミ様でも難しいのですか?」



頷くズィーナミ。

「うむ…まぁ出来ない事は無いが、人には得意不得意がある。どちらかと言うと儂は、気の硬化や物質化が得意だからのう」



クラージュは震撼した。

『そんな…』

要するに無手であれば剣匠ズィーナミでも、ソキウスやクシフォスに敵わないと暗に言っているような物だからだ。


ならば2人の雌雄は如何にして決まるのか?

ほぼ互角に見える戦い…僅かにソキウスが押している様に見えるが、クシフォスがその気になれば剣を取るだろう。

正直、どちからが勝つかクラージュには予想もつかなかった。




「ハハハッ! 面白くなって来たな!! しかし受け止めるのは止めだ…もう手と腕が痛くなって仕方ないからな!」



「なら今直ぐ止めを刺してやる」

潜もった不気味な声で返し、ソキウスは不敵に前進したのであった。


楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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