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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第八章:武王が居た国
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1205話・ソキウス 対 クシフォス(3)

凄じい速度の3段突きを放つソキウス。

その標的は不敵に両腕を広げているクシフォスだ。


『当たり所が悪ければヒビくらい入るかもだけど…』

急所では無く右腕を狙ったのは、ソキウスなりの配慮である。



しかしソキウスは呆気に取られる羽目に。

何故なら殆ど時間差が無く放たれた3段突きを、まるで虫を払うかの如く打ち落とされたからだ。



「痛た…、物凄い突きだな。お前、中々やるじゃ〜ねぇか」

先程と同じく防いだ右手をブラブラさせるクシフォス。



『ええぇ?! 今の…まぁまぁ本気で打ち込んだのに!』

余りの衝撃にソキウスは固まってしまう。



こうなると隙だらけ…なのにクシフォスは攻撃を仕掛けずに言った。

「それでお仕舞いか?」


正に、これこそが武神と称される所以。

相対した者に全てを出させ、それを真っ向から捻じ伏せる。

これは決して舐めているのでは無く、相手を知る為の物…そう、クシフォスにとっては対話に等しい行為なのだった。



「そんな訳無い!」

ソキウスは男を演じるのを忘れて素が出てしまった。

それでも仮面のお陰で、発せられる声は(くぐ)もったままだ。



「そうか…なら出せる物を全部見せてみろ」

一聴すれば煽るような言い様だ。

だがこのクシフォスの声音には好奇心だけが含まれていた。



片や相対するソキウスが汲み取れる訳が無く、

『ムキー!! 何か腹立つ!!』

と内心穏やかで居られるない。


それに今は潜入活動をしているが、中身は永劫の騎士(アイオーン・エクェス)なのだ。

つまり自分が軽んじられるのは、永劫の騎士(アイオーン・エクェス)を侮辱するに等しい。

否…()いては主君(プリームス)を貶める事になる。


などと堅苦しく考えてしまい、ソキウスは熱くなる始末。

「武神がなんぼのもんじゃい! 今すぐにギャフンと言わせてやる!!」

怒りに任せて素が出ていたとしても、年頃の女子が発する言葉では無い。



されどクシフォスは、遣る気満々の相手にご満悦だ。

「ハハッ! いつでも来いや!」



傍目から見れば、もはや無頼漢同士の喧嘩である。

幸い離れているので観客席に聞こえないが、ズィーナミなどの一廉の武人には馬鹿にされる事に。

「何をやってるのやら…」


これへクラージュも同調する様に苦笑いを浮かべた。

「何だか揉めてる感じがしますね。武術大会なんだから武芸で収めれば良いのに…」


「全くだ、」




こうして再び妙な仕切り直しになるソキウスとクシフォス。

と言っても互いの距離は至近のまま…その気になれば容易に相手へ触れられるだろう。


そんな一触即発の間合いでソキウスは警告した。

「骨の一本や二本は覚悟しろ」



「やれるもんなら、やってみろ!」

"気にするな"と伝えたいつもりが、何故か煽り文句になるクシフォス。

ここまで来ると最早才能である。



ソキウスの気配が突如変化した。

殺気に似た何か……相手へ配慮せず壊す為の意思と姿勢、それが気配となって醸し出されたのだ。


そしてユラ〜っと半歩前進し、緩やかに柔らかく突き出される右の縦拳。

恰もヨボヨボの老人が差し出す風な力の無さ…素人目にも分かる弱々しさだ。



「…!!」

なのにクシフォスは直ぐさま後方へ下がり、その縦拳の間合いを外した。



「受け止めてくれるんじゃなかったのか?」

揶揄する様に尋ねるソキウス。



「ハッ! よく言う…まともに受けたら本当に骨が折れるぞ」

クシフォスは笑いながら返しつつも、背筋が凍る思いをしていた。


『こいつ…威力だけならタトリクス殿に匹敵しそうだな』

詰まる所、生半可な受け方をすれば、クシフォスでも負傷は免れない威力と言えた。


かと言って挑発してしまった以上、受け止めない訳にはいかない。

他の事はさて置き、武芸に於いて"反故"をしては武神の二つ名が泣く。

『やれやれ…こんな事なら無手のみなんて言うんじゃなかったな』


別に楽をしで勝ちたいのでは無い…只、戦いを楽しみたいだけなのだ。

されど今のままでは、相手の全力を引き出せない可能性がある。

『それじゃぁ味気ない。まぁ、ある程度楽しめたら"交渉"するか…』



クシフォスが呑気に思案していると、有無を言わさずソキウスが接近して来た。

そこから先程と同じ緩やかな縦拳が繰り出される。



『ちっ! 仕方ない受けるか』

腹を括ってクシフォスは足を止め、両腕を大きく広げた。

まるで隙だらけの正中線を狙えと言わんばかりに。



対するソキウスは"この一撃"に自信が有り、罠であっても突き破る確信も有った。

狙うはクシフォスの鳩尾…直撃すれば武神でも只では済まない。


兆しを感じさせない無からの縦拳。

限り無く弛緩し、直撃時のみ膂力を込め、これに螺旋が加われば巨岩をも粉砕する威力となる。



バキッ…っと地面が爆ぜる音が響いた…それはソキウスの震脚の音。

これと殆ど同時に重く乾いた音が続く。

両腕を十字にして防御したクシフォスに、縦拳が直撃した音だった。



「ぐおっ!!」

200cmもある巨躯が、ソキウスの細腕から放たれる縦拳に浮かされた。

否…ただ浮いただけでは済まなかった。

そのまま真っ直ぐ後方へ10mも吹き飛んだのである。



この分かり易い状況に、観客席は一瞬で湧き上がった。



一方クラージュは、クシフォスを吹き飛ばした技に驚愕する。

「な、何っ?! 今の突きは!?」


武器を使った回転力や、助走に因る慣性が加われば或いは可能かも知れない。

だが徐に差し出した縦拳で、巨躯のクシフォスを吹き飛ばすのは不可解この上ない。


『あのソキウスって人…一体何者なの?!』

見た感じや雰囲気から女性に思えるが、それが的を射ているなら、タトリクス級の無手の使い手と言う事になる。



クラージュと同じく、ズィーナミも驚いていた。

「これ程の無手の強者が居たとは……これは、ひょっとするとクシフォス殿が剣を持っても、中々良い勝負になるやもな」



素手と得物持ちが戦う場合、素手の方が数段格上でなければ、互角の勝負にならないと言われている。

クシフォスとソキウスが、それに当て嵌まるかは定かでは無い…しかし現状でソキウスが押しているのは確かだ。



またズィーナミやクラージュよりも驚いている者も居た。

それさジズオである。


アポラウシウス以外は余り期待して無かっただけに、武神を圧倒しているソキウスに感嘆の声が漏れる。

「ハハッ…これは、とんだ拾い物だわ」



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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