1205話・ソキウス 対 クシフォス(3)
凄じい速度の3段突きを放つソキウス。
その標的は不敵に両腕を広げているクシフォスだ。
『当たり所が悪ければヒビくらい入るかもだけど…』
急所では無く右腕を狙ったのは、ソキウスなりの配慮である。
しかしソキウスは呆気に取られる羽目に。
何故なら殆ど時間差が無く放たれた3段突きを、まるで虫を払うかの如く打ち落とされたからだ。
「痛た…、物凄い突きだな。お前、中々やるじゃ〜ねぇか」
先程と同じく防いだ右手をブラブラさせるクシフォス。
『ええぇ?! 今の…まぁまぁ本気で打ち込んだのに!』
余りの衝撃にソキウスは固まってしまう。
こうなると隙だらけ…なのにクシフォスは攻撃を仕掛けずに言った。
「それでお仕舞いか?」
正に、これこそが武神と称される所以。
相対した者に全てを出させ、それを真っ向から捻じ伏せる。
これは決して舐めているのでは無く、相手を知る為の物…そう、クシフォスにとっては対話に等しい行為なのだった。
「そんな訳無い!」
ソキウスは男を演じるのを忘れて素が出てしまった。
それでも仮面のお陰で、発せられる声は潜もったままだ。
「そうか…なら出せる物を全部見せてみろ」
一聴すれば煽るような言い様だ。
だがこのクシフォスの声音には好奇心だけが含まれていた。
片や相対するソキウスが汲み取れる訳が無く、
『ムキー!! 何か腹立つ!!』
と内心穏やかで居られるない。
それに今は潜入活動をしているが、中身は永劫の騎士なのだ。
つまり自分が軽んじられるのは、永劫の騎士を侮辱するに等しい。
否…延いては主君を貶める事になる。
などと堅苦しく考えてしまい、ソキウスは熱くなる始末。
「武神がなんぼのもんじゃい! 今すぐにギャフンと言わせてやる!!」
怒りに任せて素が出ていたとしても、年頃の女子が発する言葉では無い。
されどクシフォスは、遣る気満々の相手にご満悦だ。
「ハハッ! いつでも来いや!」
傍目から見れば、もはや無頼漢同士の喧嘩である。
幸い離れているので観客席に聞こえないが、ズィーナミなどの一廉の武人には馬鹿にされる事に。
「何をやってるのやら…」
これへクラージュも同調する様に苦笑いを浮かべた。
「何だか揉めてる感じがしますね。武術大会なんだから武芸で収めれば良いのに…」
「全くだ、」
こうして再び妙な仕切り直しになるソキウスとクシフォス。
と言っても互いの距離は至近のまま…その気になれば容易に相手へ触れられるだろう。
そんな一触即発の間合いでソキウスは警告した。
「骨の一本や二本は覚悟しろ」
「やれるもんなら、やってみろ!」
"気にするな"と伝えたいつもりが、何故か煽り文句になるクシフォス。
ここまで来ると最早才能である。
ソキウスの気配が突如変化した。
殺気に似た何か……相手へ配慮せず壊す為の意思と姿勢、それが気配となって醸し出されたのだ。
そしてユラ〜っと半歩前進し、緩やかに柔らかく突き出される右の縦拳。
恰もヨボヨボの老人が差し出す風な力の無さ…素人目にも分かる弱々しさだ。
「…!!」
なのにクシフォスは直ぐさま後方へ下がり、その縦拳の間合いを外した。
「受け止めてくれるんじゃなかったのか?」
揶揄する様に尋ねるソキウス。
「ハッ! よく言う…まともに受けたら本当に骨が折れるぞ」
クシフォスは笑いながら返しつつも、背筋が凍る思いをしていた。
『こいつ…威力だけならタトリクス殿に匹敵しそうだな』
詰まる所、生半可な受け方をすれば、クシフォスでも負傷は免れない威力と言えた。
かと言って挑発してしまった以上、受け止めない訳にはいかない。
他の事はさて置き、武芸に於いて"反故"をしては武神の二つ名が泣く。
『やれやれ…こんな事なら無手のみなんて言うんじゃなかったな』
別に楽をしで勝ちたいのでは無い…只、戦いを楽しみたいだけなのだ。
されど今のままでは、相手の全力を引き出せない可能性がある。
『それじゃぁ味気ない。まぁ、ある程度楽しめたら"交渉"するか…』
クシフォスが呑気に思案していると、有無を言わさずソキウスが接近して来た。
そこから先程と同じ緩やかな縦拳が繰り出される。
『ちっ! 仕方ない受けるか』
腹を括ってクシフォスは足を止め、両腕を大きく広げた。
まるで隙だらけの正中線を狙えと言わんばかりに。
対するソキウスは"この一撃"に自信が有り、罠であっても突き破る確信も有った。
狙うはクシフォスの鳩尾…直撃すれば武神でも只では済まない。
兆しを感じさせない無からの縦拳。
限り無く弛緩し、直撃時のみ膂力を込め、これに螺旋が加われば巨岩をも粉砕する威力となる。
バキッ…っと地面が爆ぜる音が響いた…それはソキウスの震脚の音。
これと殆ど同時に重く乾いた音が続く。
両腕を十字にして防御したクシフォスに、縦拳が直撃した音だった。
「ぐおっ!!」
200cmもある巨躯が、ソキウスの細腕から放たれる縦拳に浮かされた。
否…ただ浮いただけでは済まなかった。
そのまま真っ直ぐ後方へ10mも吹き飛んだのである。
この分かり易い状況に、観客席は一瞬で湧き上がった。
一方クラージュは、クシフォスを吹き飛ばした技に驚愕する。
「な、何っ?! 今の突きは!?」
武器を使った回転力や、助走に因る慣性が加われば或いは可能かも知れない。
だが徐に差し出した縦拳で、巨躯のクシフォスを吹き飛ばすのは不可解この上ない。
『あのソキウスって人…一体何者なの?!』
見た感じや雰囲気から女性に思えるが、それが的を射ているなら、タトリクス級の無手の使い手と言う事になる。
クラージュと同じく、ズィーナミも驚いていた。
「これ程の無手の強者が居たとは……これは、ひょっとするとクシフォス殿が剣を持っても、中々良い勝負になるやもな」
素手と得物持ちが戦う場合、素手の方が数段格上でなければ、互角の勝負にならないと言われている。
クシフォスとソキウスが、それに当て嵌まるかは定かでは無い…しかし現状でソキウスが押しているのは確かだ。
またズィーナミやクラージュよりも驚いている者も居た。
それさジズオである。
アポラウシウス以外は余り期待して無かっただけに、武神を圧倒しているソキウスに感嘆の声が漏れる。
「ハハッ…これは、とんだ拾い物だわ」
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




