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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第八章:武王が居た国
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1200話・アポラウシウス 対 タトリクス(4)

『馬鹿な…長棍へ吸い付いたように防がれた?!』

アポラウシウスは驚きを隠せないでいた。

放った5本のレイピアを、徐に回転するタトリクスが容易く打ち落とした為だ。


何か仕掛けがある筈…それが何なのか分からねば、恐らく攻撃を当てる事は叶わないだろう。

『いや…それでも、』

飽和攻撃なら話は別である。


相手は長棍1本。

対して此方は10本のレイピアなのだ。

5本が駄目ら10本で攻めれば良い…しかし出来るだけ無傷に負かすのは不可能と思えた。


そもそもタトリクス相手に様子見が間違っていた。

『多少傷物になるのは仕方ないようですね…』

弾かれたレイピア5本を引き戻したアポラウシウスは、後方の地面へ無造作に寝かせる。



片やタトリクスは独楽(こま)のような回転を止めると、身の丈を超える長棍を垂直に立てた。

そして立てた長棍を持つ手はソッと添えるだけ…何故なら倒れないからである。

この長棍、実は伝説級の魔導具で半自立型の逸品、故に敢えて地面に寝かせない限り、勝手に立ってくれるのだった。


『さて、これで流石に本気で来るわよね』

後は全ての攻撃を無力化して、絶望した所をコテンパンに殴り倒すだけだ。

そう、こちらから攻めるだけの力と体力は、1回しかないとタトリクスは自覚しているのだ。


何より10本のレイピアを自在に操る、その不可視の技術が気になっていた。

凡その仕組みは分かっていたが、完全に見抜いた訳では無い。

『出来れば何度か攻撃さて、じっくりと観察したいわね』



そんな風に思われているとは微塵も気付かないアポラウシウス。

一応は飽和攻撃で圧倒するつもりだが、レイピア5本の一斉攻撃を容易に凌がれ、未だに不安が払拭し切れないでいた。


万が一、10本全てが防がれれば、もう肉弾戦しか無い…そうなれば無様な戦いになるのは必至。

それは手加減の無い殺しの技であり、血生臭い不快な技でしか無いのだ。


『やれやれ…魔法が使えれば、ここまで悩む事もないのですが…』

などと内心でボヤキながら、アポラウシウスは指先へ気と僅かな瞬動を伝える。



突如、立て掛けた5本と地面に寝かされた5本のレイピアが、魚が水面を跳ね上がるように浮き上がった。



不可思議この上無く、恰も心霊現象の如くだ。

これに度肝を抜かれた観客は息を飲み、クラージュとアグノスは目を見張った。



一方ズィーナミは、その技が何なのか見当が付く。

『もしや鋼糸術か?! だが目に見えぬ程の鋼糸など有り得るのか?』


魔法が禁止な以上、他に考えられるのは魔法の武器くらいだろう。

しかし空中を飛行し自在に制御可能な武器が、果たして"10本"も存在するのか?



答えは…否である。

只、これを認識しているのはタトリクスとアポラウシウスだけ。

その理由は極小の糸で操る術を、恐らくこの2人しか心得ていないからだ。


正にアポラウシウスにとって秘伝の奥義であり奥の手。

しかしながら武の極地に在るタトリクスからすれば、数ある種類や様式の一つでしかなかった。



この差こそが対戦の雌雄を決する起因となる。



浮き上がった10本のレイピアは、一斉にタトリクスへ目掛けて飛来する。

その速度は先程と段違いな音速に達し、衝撃波を発するに至った。



だが直後、まるで凧の糸が切れたようにレイピアが四散する…10本全てが。



「なっ!?」

驚愕の余り声が漏れるアポラウシウス。



制御を失ったレイピア10本は、舞台の上や場外へ軽い金属音を立てて落下した。



「フフッ…相手が悪かったわね」



そうタトリクスが言った刹那、アポラウシウスの耳に覚えが有る風切音が聞こえる。

それは余りにも微かで、"知っている者"しか察知し得ない物……糸が空気を斬る音だった。


「くっ!!」

アポラウシウスは攻撃に使用していた"物"を全て防御に回し、透かさず飛び退った。



「良い判断ね…」



10mは離れていた筈のタトリクス…その声がアポラウシウスの傍で聞こえた。

「…!?」



タトリクスは密かに展開させていた鋼糸で、アポラウシウスが操る"糸"を切断していたのだ。

加えて長棍の挙動を利用して棒高跳びのように跳躍…結果、瞬間移動したかの如く肉薄に至る。



「さて、約束通り仮面をバキバキにしてあげるわ」



タトリクスが"糸"を操ると悟った時点で、アポラウシウスは糸に因る攻撃へ全力の警戒を傾けていた。

その為、タトリクスの肉薄を察知し得ず、その後の近接攻撃にも防御が追い付かなかった。

『不味い!!』


気付いた時には既に後の祭り。

タトリクスが放った掌底が、アポラウシウスの顔面を捉えていた。

すると見事に翻筋斗(もんどり)を打って吹っ飛び、アポラウシウスは場外へ落下したのだった。



闘技場内はシーン……と静まり返る。

そうして1分程の間の後、慌てて審判が舞台へ上がって宣言する。

「タ、タトリクス・カーンの勝利!!」



これで漸く理解した観客から、割れんばかりの歓声がドッと上がった。



「はぁ…やれやれね」

掌底を放った右手を摩りながら、タトリクスはトボトボと舞台を降りる。

その姿ときたら、とても勝者とは思えない覇気のなさであった。




「「タトリクス様!!」」

控え室へ戻ろうとするタトリクスへ、アグノスとクラージュが血相を変えて駆け寄る。



「え?! な、何!? どうしたの?」

可愛い女子2人に詰め寄られ、戸惑うタトリクス。



「どうしたの?…じゃありませんよ!」

「そうですよ! 体は大丈夫なのですか?」

勢い余ったアグノスとクラージュは、そのままタトリクスに(すが)り付く始末。



こうなると体に力が入らないタトリクスは、2人に抱き付かれたままドベッと倒れてしまう。

「ぐぇっ!」



「あわわぁ…申し訳ありません!!」

「うわぅ!? ご、御免なさい!!」

などと泣きそうになりながら謝る2人だが、タトリクスから一向に離れようとはしない…確信犯である。



「フフッ…何とか対戦を勝利で乗り切れて良かった。さぁ手を貸そうタトリクス殿。クククッ…」

と告げて手を差し出したズィーナミたが、滑稽な3人を前に込み上げる笑いを我慢する気は無いようであった。



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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