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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第八章:武王が居た国
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1194話・強かな傑物達

グラキエースは控え室のソファーに座り自嘲していた。

「フッ…私もまだまだ精進が足らぬ」



「貴女ほどの武人でも、タトリクス・カーンは手に負えませんでしたか…」

開けっぱなしだった控え室の入り口から、聞き覚えの有る声が聞こえた。



「…気配を消して近付くとは、ジズオ殿は趣味が悪いな」



グラキエースに文句を言われ、ジズオは苦笑いを浮かべる。

「フフッ…御免なさい。でも本当に意外だったの…貴女がタトリクス・カーンに負けるのがね」



「私の戦い方は魔法と剣を併用した物…相手に合わせ過ぎたのが敗因と言えるわ」

そう返したグラキエースは、少し思考してから続けた。

「いや…どの道、出し惜しみ無しで戦えば、私が負けていたかもね…」



未だに震えるグラキエースの左手を見て、ジズオは僅かに顔をしかめる。

「相当な一撃だったようですね。恐らく螺旋波動かと思いますが、あの威力を矮小な包丁で成すのは脅威でしか無いですよ…」



「……」

『螺旋波動……確かに凄まじいがタトリクス(プリームス)様の本気は、あんな物では無い』

結果的に予定通り負けた訳だが、いまいちグラキエースは腑に落ちなかった。


それは自分の攻撃が2回ほどタトリクスに掠った事である。

魔王だった頃のプリームスなら、素の状態でも一切攻撃が当たらなかった筈なのだ。

『やはり本調子で無いのでは?!』


このまま武術大会を進行させて問題ないのか?

そんな不安がグラキエースの胸中を覆う。


主君(プリームス)の目的が達成されるのは確かに最重要事項だ。

しかしながら、それはプリームスが無傷である事が大前提となる。

つまり目的が達成されても、主君を害する結果になるのは本末転倒なのであった。



「どうかしましたか?」

急に黙り込んだグラキエースに、ジズオが心配そうに…否、怪訝そうに尋ねた。



『ここで勘繰られては不味いな…』

「私が負けても現状で有利なのは変わり無い。ならタトリクス・カーンを負かせば、ジズオ殿の思惑通りになる。残る当ては…と思ってね」



するとジズオの後ろから声がした。

「それはアポラウシウス氏に任せるしかないね」

貧民街の王ジウジだ。


彼女は元六武大将であり、王都武林の一画を支配する傑物でもある。

そしてアポラウシウスとソキウスの共同事業者で、グラキエースとの協調を選んだ曲者だ。


また武國の未来を憂い、ズィーナミ勢力が一強になる事を危惧している。

その結果、ズィーナミ派と対立するジズオへ協調したのだった。



「ジウジ殿か…この一画は関係者以外の立ち入りは禁止している筈だが?」



グラキエースに揶揄され、ジウジはニヤニヤと笑みを浮かべた。

「何言ってるんだい、私が行けない所なんて武國では殆ど無いよ。まぁ強いて言うなら神域くらいかねぇ〜」


元六武大将だから?

違う…その張り巡らせた情報網と、凡ゆる場の人間に買収が成せる技だろう。



『フッ…協調者であれば利用価値は非常に高いな』

土地勘が無く伝手が無いグラキエースからすれば、ジウジは重要な人材と言える。

故にジズオ派が負けようとも、貧民王(ジウジ)との繋がりは維持せねばならない。

「アポラウシウスに任せれば勝てると?」



「うん…そう私は思うけどね。武神クシフォスにも上手く立ち回って、結局は勝っちゃったしね。タトリクス・カーンにも上手くやってくれるんじゃないかな?」

などと答えるジウジは飄々とした口調だ。

まるで勝っても負けても、困らないように見えなくも無い。



その態度から凡そを洞察するグラキエース。

『成程…貧民王は時の権力者に合わせて来た訳か。なら…』

負ければズィーナミへ鞍替えし、勝てば現状維持…

何とも打算的な為人である。


しかし裏を返せば互いに利用価値が有る限り、裏切る事は無い。

ある意味で分かり易い相手とも言える。


何より裏組織フォボス武國支部の共同経営者なのだ、余程の事が無い限り互いに後へは引けない。

つまり現状で心配すべきはジズオとの関係…そして武國政権の行く末だろう。


「アポラウシウスが負ければ如何する?」



グラキエースの問いに、ジウジは「ん〜〜」と態とらしく考えてから答えた。

「その時はタトリクス・カーンを暗殺するしか無いね。まぁ隙が有ればの話だけど」



『…!!』

グラキエースは怒りで全身の毛が逆立つような感覚を覚えた。

だが、そんな素振りなど見せずに再度問う。

「暗殺は後処理に問題が有る。全く他国の要人ならいざ知らず、同じ国の武王候補を暗殺するのは感心しない」



「へぇ〜〜意外にグラキエースさんは真面(まとも)だね」

このジウジの反応には僅かだが怪訝さが含まれていた。



辛辣且つ打算的に返すグラキエース。

「私は費用対効果や、予測される最良の結果で方法を選択する。そう言う意味なら、貴女よりは真面だろうよ」


正に腹の探り合い…味方同士であっても、決して全幅の信頼を置かない。

なのでこの辛辣な言い様は、じゃれ合い程度でしかないのだ。



「ハハハッ、違いない。まぁ今の提案は冗談と思っておくれ。それに私の見立てでは、意外と簡単にタトリクス・カーンを落とせるかもって考えてるしねぇ」



「落とす?」

「ほほぅ…?」

グラキエースは首を傾げ、ジズオは興味深そうに相槌を打った。



「だってタトリクス・カーンはギンレイさんと仲が良いのでしょ? ならそれを利用して籠絡すれば早い。それが駄目でも態と負けるように、ギンレイさんがお願いすれば済むのでは?」



まさかの提案にグラキエースは露骨に嫌そうな顔をする。

「……」



「あれ? 私の提案は駄目かい?」

不思議そうにするジウジ。



するとジズオが溜息をつきながら答えた。

「はぁ…貴女には分からないでしょうが、基本的に武人は信義を重んじます。ですからタトリクス・カーンがズィーナミを裏切る事は絶対にありませんよ」



「ふむ…そう言うものなのか」



理解し難そうなジウジに、グラキエースの方が理解し難かった。

『この女…打算的過ぎる。下手をすれば裏切りそうだな…』

かく言う自分も”元から”裏切っている…もとい潜入なので人の事を言えないが…。


何にしろ全ての事が終わっても、この貧民王ジウジは無傷な気がする。

それを鑑みると事後の問題の方が厄介…そうグラキエースは思えてならないのであった。


楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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