表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第八章:武王が居た国
1249/1771

1190話・グラキエース 対 タトリクス (4)

タトリクスとの対戦で、まだまだ自分が未熟だったと思い知らされたグラキエース。

しかし前向きな思いも湧き上がっていた。

『正に武の根幹…これは学べる良い機会なのかもね、』



「さぁ、楽しみましょう」

そうグラキエースへ告げると同時に、タトリクスの胸中は他の者へ"伝わる"事を願っていた。


それはクラージュや、観戦しているであろうギンレイだ。

2人とも自分の教え子で弟子…故に武の核心と言える螺旋と波動を伝えたかった。


只、幾ら核心でも生半可に理解出来る物では無い。

『せめて大体の仕組みと便利さが分かれば良いのだけど…』



グラキエースは再び自分から仕掛ける。

今度は突きでは無く下からの切り上げ…いわゆる逆転袈裟斬りだ。

これなら先程とは違う対処を見れる筈である。



すると完全に見切られていたようで、タトリクスは包丁を逆手に持って刀身の背で簡単に受け流してしまう。

「流石に速いわね。でも芸が無いわ」



駄目出しだけして攻めて来ないタトリクスへ、グラキエースはお構い無しに攻撃を続ける。

しかしその全てを寸前で回避されるか、包丁の背で巧みに受け流される羽目に。


『慣れていない武器とは言え、これほど簡単に防がれるなんて…』

攻撃の速度は超絶者か、或いは近い域に在る者しか見えない程に速い。

それを子供扱いする風に対処されては、もう自信を無くしそうだ。


それでも何故に包丁での対戦を選んだのか、凡そ察する。

包丁の背は意外に強度が高く、強烈な攻撃を受けたり流したりするのに支障がないのだ。


また短剣と違い、刀身の背で殴り付ける事も可能だろう。

この場合は相手を切傷させず、打撃的な制圧も問題無さそうに見えた。

つまり刀で言うところの峰打ちだ。

『確かに模擬戦などには打って付けかもね』


だが感心ばかりはしていられない。

せめて格好が付く程度には、対戦を成立させなければ為らないのも事実。

このままではジズオに怪訝そうにされても文句が言えない。


そうグラキエースが思った刹那、異変が起こった。

タトリクスの鳩尾辺りから下腹部に掛けて、旗袍の布がハラリ‥とはだけたのである。



「ありゃ……」

つい声が漏れるタトリクス。

『うは…2撃ほどかすっていたのね…』


余裕でグラキエースの攻撃を躱したかに思えたが、実は相当に鋭い攻撃だったようだ。

それもその筈、相手は魔王プリームスの四天王──氷武帝グラキエース…回避一辺倒で完璧に遣り過ごせる相手では無く、当然の結果と言えた。



「あ……!」

今度はグラキエースが小さく声を漏らした。


何とタトリクスの開けた腹部に、2本の赤い線が浮かび上がったのだ。

そう、布だけが斬れたのでは無く、その下の皮膚まで掠っていた…加えて血がジワっと滲み出てしまう。


『あぁぁ…!! 何て事!! 敬愛する主君を傷付けるなんて!』

自分の過ちにグラキエースは、頭を抱えて屈み込みそうになった。


そして直ぐに”ある事”に気付く。

攻撃がタトリクスに触れたと言う事は、タトリクスが魔法障壁を展開して居ない証拠。

つまり事故に因り大怪我をさせていた可能性が有った訳だ。


『そんな…これでは何も出来ない…』

魔法障壁が有るからこそ、遠慮せずに全力の攻撃を仕掛けていたグラキース。

もう”遊び”にすら応えられないだろう。




観客等も息を飲んだ。

先程までタトリクスが圧倒していたかに見えたが、実際はグラキエースの攻撃が当たっていた。

この事実が対戦の行方を断定させず、妙な不安と緊張感を生んだのだった。


何より露になったタトリクスの腹部。

薄っすらと腹筋が割れており、且つ真っ白な肌…それを強調するが如く、軽い切傷と浮き出た血珠は、何故か見る者に扇情さを覚えさせた。




「タ、タトリクス様が怪我を…!」

慌てるクラージュ。



「……」

一方ズィーナミは唖然とする。

タトリクスの身のこなしは完璧であり、自分でも当てる事は不可能だと考えていたからだ。

そんな相手に攻撃を当てた…掠っただけではあるが、この事実は自分を超える超絶者なのを明白にしていた。



またグラキエースの素性を知っているクシフォスは、この状況を目の当りにして妙に納得する。

『あ~~流石だな。やはりスキエンティア殿と互角か?』

そして思う…永劫の王国アイオーン・ヴァスリオには超絶者が何人も居て、その気になれば世界征服も容易いのでは…と。


『いやいやいや…馬鹿な事を考えてはいかんな。タトリクス殿の人柄を見れば一目同然…そんな可能性など砂粒程も無い』

直ぐに愚かな考えを払拭した。




周囲の思惑など余所に、舞台上では妙な展開に至る。

表向きでは敵対派閥同士だが、グラキエースはタトリクスプリームスの臣下なのだ。

故に傷付けてしまったことで、グラキエース自身が対戦をし難い気持ちになっていた。

「タトリクス様…どうして魔法障壁をお使いにならないのですか?」



対戦そっちのけで尋ねるグラキエースに、タトリクスは苦笑いを浮かべて答えた。

「ん~~ちょっとね…今は魔法が使えないと言うか、使わない方が良くって。でも気にしないで全然攻撃してきて構わないから」



超強固な魔法障壁が有ってこそ遠慮無く攻撃が出来た訳で、それが展開されていない主君へ攻撃できる訳が無かった。

「主に刃を向けるなど…臣下失格です…」



「いや…これは武術大会だから、別に刃を向けようが問題無いのだけど…」

不可抗力とは言え、攻撃を受けてしまった自分が悪いのも確かだ。

『でもこのままじゃ面白くないわね…』


仕方なしに一時的にだが魔法障壁を張る事にするタトリクス。

「はぁ…分かったわ。ちゃんと守りを固めたら相手してくれる?」



「それは勿論です」



即応するグラキエースに、タトリクスは笑みが漏れた。

『何だ…グラキエースも私と戦いたかったのね』


嬉しくなって直ぐに魔法障壁を張り巡らせる。

僅かだが聖痕に痛みが走るが気にしない…自分に最も近い強者の一人と”本気”で遊べるのだから。


楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ