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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第八章:武王が居た国
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1179話・ゼノ 対 ズィーナミ(3)

左側面から襲って来た何か…これをズィーナミは左手に生成した気功剣(アストスパティ)で咄嗟に受け止めた。

そして驚愕する羽目になる。


なんとズィーナミが防いだのは只の布だったのだ。

しかし威力は、先ほど受け止めた漆黒の剣などとは段違い…かなり重い上に速く、危うく気功剣(アストスパティ)を落としかけた。


『一体何なのだ?! こ奴は得物を選ばんのか!?』

もはや選ばないでは無く、何でも武器にしてしまうのではないかと思えてくる。



「流石は剣匠…良い反応だね」

余り感情を含まないゼノの言い様は、仮面も相まって不気味この上無い。



「とても褒められている様には思えんぞ」



「いやいや…本心さ」



そうゼノが返した直後、ズィーナミの受けていた左手の荷重が突如消失した。

「!!??」

否…実際に漆黒の布が消えていたのだ。


『不味い追撃が来る!!』

長年の経験から来る勘が警笛を鳴らす。

攻撃した手段が消失したなら、新たな別の攻撃が来るのは必然…故に五感を研ぎ澄ませ防御体勢を取った。


「…!!」

手刀が見えた…しかも兆しが見え見えの振り下ろし。

ひょっとすれば神経を研ぎ澄ませた所為で、相手の動きがハッキリと見えたのかも知れない。


直後、ゼノに受け止められた右手の剣が軽くなり、そこから直ぐに察する。

『…軽くなったのでは無い!』

崩された…そう、全ては連動していたのだろう。

気功剣アストスパティを受けたのも、見え見えの兆しも、全てガチガチに警戒した自分を崩す為だった。


また、それに気付いた時には既に遅く、ズィーナミは右半身から前へ倒れかかってしまう。

「くっ!!」



「私は余り武術は好きじゃ無いんだ。野蛮だからね…」



抑揚の無いゼノの声が聞こえた。

また同時にズィーナミの左肩口へ凄まじい衝撃が走る……手刀を食らったのだ。


『ぐぅ…儂とした事が…』

硬気功を使い、身体の強度を高めれば耐えられたかも知れない。

だが間に合わない…攻撃を得物で受け止める事ばかり考えていた為、柔軟で臨機応変な思考が欠如していた。


恐らく何時もの自分ならば、こんな事態には陥らなかった。

相手を必要以上に警戒し、己の能力を十分に発揮出来なかった事こそが失策。


『いや……違う』

そもそも守る事ばかりで能動的に攻めなかった。

武芸の神髄を極めた剣匠が、その技を駆使せずに、前へ踏み出し斬り込む事を躊躇した…これこそが敗因だ。



「さぁ、どうする?」

地面に片膝を付いたズィーナミへ、ゼノは静かに尋ねた。



「……」

手加減をされたのは明白だった。

正に戦場を支配する能力の持ち主──ゼノ。

ズィーナミは既に戦う前から、この不可思議で無名な超絶者に飲まれていた。

『もはや超絶者や技術云々の話では無い……か、』


「世界は広いな…本当の戦場なら何とも言えんが、この立ち合いでは儂の負けだ」

素直にズィーナミは負けを認めた。



「そう……」

と返したゼノは、審判へ視線を向ける。



すると一瞬の決着劇で呆然とした審判が、慌てて駆け寄って来るとズィーナミの様子を確認した。

それに頷くズィーナミ。



「ズィーナミ・リニス…対戦続行不能に因り、ゼノの勝利とする!!」



高らかに言い放った審判の宣言に、観客席が一呼吸置いて歓声を上げる。

観客らも何が起こったのか理解出来て居なかったのだ。

ただ分かっている事は、たった2合で決着がついたと言う事だろう。




「ズィーナミ様が負けた……?!」

舞台袖で観戦していたクラージュは、驚愕と落胆を同時に感じていた。

大陸最強の一画であり、自分が目指す極地の1人だったのだから当然だ。


だが考えてみればタトリクスも無名だったのだ。

それを考慮するなら、まだまだ無名の強者が在野に潜んでいる可能性がある。

正直、恐ろしいと思えた…ゼノのような超絶者はまだ良心的だが、他がそうとは限らないのだから。



呆然としているクラージュの元へ、医療班に肩を支えられたズィーナミが戻って来た。

「クラージュ姫…情けない所を見せてしまったな」



「いえ…お身体は大丈夫なのですか?」



「うむ、儂が老人ゆえに相手も手加減してくれたようだ」



「左様ですか…医務室に向かうのでしたら、ご一緒しても宜しいですか?」



クラージュが怖々(おずおず)と訊くので、不思議に思うズィーナミ。

「……? クラージュ姫は儂の介添人であろうに、尋ねるまでも無かろう」



「そ、そうですね…では同行します」

クラージュが気にしたのは、ズィーナミの自尊心だ。


剣聖と並び称される剣匠が、何処の馬の骨とも知れぬ武芸者?…下手をすれば武芸者では無い相手に負けたのである。

誇りが傷付いたのは明白で、本来なら1人になりたい筈…だからこそ敢えて尋ねたのだった。


また、そこまで配慮していながら態々尋ねたのは、実際にゼノと相対したズィーナミから生の声を聞きたかった為だ。

つまりゼノの実力に興味が惹かれて仕方なかった…これがクラージュの本音と言えた。



実際に(やま)しい訳では無いが、自分が疾しいと思えば態度に出るものだ。

申し訳無さそうに後ろを付いて来るクラージュへ、ズィーナミは苦笑しながら告げる。

「儂らは強さを貪欲に求める人種だ…だから儂が負けたからと言って一々気にせんでも良い」



「はい…」

それでも浮かない顔のクラージュ。



『やれやれ…この娘は繊細で他者に気を配りすぎたな』

「ゼノと相対した感想を聞きたいのだろう? その代わりにクラージュ姫が、タトリクス殿に負かされた感想を聞かせて貰おうかのぅ」



「…! ズィーナミ様は意地悪です!! じゃあ私も気にしません!」

ズィーナミの揶揄う言い様に、クラージュはカチンと来てしまう。

だが先程までの浮かなさ消えて、12歳の少女らしい明るい表情に戻っていたのであった。



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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