1179話・ゼノ 対 ズィーナミ(3)
左側面から襲って来た何か…これをズィーナミは左手に生成した気功剣で咄嗟に受け止めた。
そして驚愕する羽目になる。
なんとズィーナミが防いだのは只の布だったのだ。
しかし威力は、先ほど受け止めた漆黒の剣などとは段違い…かなり重い上に速く、危うく気功剣を落としかけた。
『一体何なのだ?! こ奴は得物を選ばんのか!?』
もはや選ばないでは無く、何でも武器にしてしまうのではないかと思えてくる。
「流石は剣匠…良い反応だね」
余り感情を含まないゼノの言い様は、仮面も相まって不気味この上無い。
「とても褒められている様には思えんぞ」
「いやいや…本心さ」
そうゼノが返した直後、ズィーナミの受けていた左手の荷重が突如消失した。
「!!??」
否…実際に漆黒の布が消えていたのだ。
『不味い追撃が来る!!』
長年の経験から来る勘が警笛を鳴らす。
攻撃した手段が消失したなら、新たな別の攻撃が来るのは必然…故に五感を研ぎ澄ませ防御体勢を取った。
「…!!」
手刀が見えた…しかも兆しが見え見えの振り下ろし。
ひょっとすれば神経を研ぎ澄ませた所為で、相手の動きがハッキリと見えたのかも知れない。
直後、ゼノに受け止められた右手の剣が軽くなり、そこから直ぐに察する。
『…軽くなったのでは無い!』
崩された…そう、全ては連動していたのだろう。
気功剣を受けたのも、見え見えの兆しも、全てガチガチに警戒した自分を崩す為だった。
また、それに気付いた時には既に遅く、ズィーナミは右半身から前へ倒れかかってしまう。
「くっ!!」
「私は余り武術は好きじゃ無いんだ。野蛮だからね…」
抑揚の無いゼノの声が聞こえた。
また同時にズィーナミの左肩口へ凄まじい衝撃が走る……手刀を食らったのだ。
『ぐぅ…儂とした事が…』
硬気功を使い、身体の強度を高めれば耐えられたかも知れない。
だが間に合わない…攻撃を得物で受け止める事ばかり考えていた為、柔軟で臨機応変な思考が欠如していた。
恐らく何時もの自分ならば、こんな事態には陥らなかった。
相手を必要以上に警戒し、己の能力を十分に発揮出来なかった事こそが失策。
『いや……違う』
そもそも守る事ばかりで能動的に攻めなかった。
武芸の神髄を極めた剣匠が、その技を駆使せずに、前へ踏み出し斬り込む事を躊躇した…これこそが敗因だ。
「さぁ、どうする?」
地面に片膝を付いたズィーナミへ、ゼノは静かに尋ねた。
「……」
手加減をされたのは明白だった。
正に戦場を支配する能力の持ち主──ゼノ。
ズィーナミは既に戦う前から、この不可思議で無名な超絶者に飲まれていた。
『もはや超絶者や技術云々の話では無い……か、』
「世界は広いな…本当の戦場なら何とも言えんが、この立ち合いでは儂の負けだ」
素直にズィーナミは負けを認めた。
「そう……」
と返したゼノは、審判へ視線を向ける。
すると一瞬の決着劇で呆然とした審判が、慌てて駆け寄って来るとズィーナミの様子を確認した。
それに頷くズィーナミ。
「ズィーナミ・リニス…対戦続行不能に因り、ゼノの勝利とする!!」
高らかに言い放った審判の宣言に、観客席が一呼吸置いて歓声を上げる。
観客らも何が起こったのか理解出来て居なかったのだ。
ただ分かっている事は、たった2合で決着がついたと言う事だろう。
「ズィーナミ様が負けた……?!」
舞台袖で観戦していたクラージュは、驚愕と落胆を同時に感じていた。
大陸最強の一画であり、自分が目指す極地の1人だったのだから当然だ。
だが考えてみればタトリクスも無名だったのだ。
それを考慮するなら、まだまだ無名の強者が在野に潜んでいる可能性がある。
正直、恐ろしいと思えた…ゼノのような超絶者はまだ良心的だが、他がそうとは限らないのだから。
呆然としているクラージュの元へ、医療班に肩を支えられたズィーナミが戻って来た。
「クラージュ姫…情けない所を見せてしまったな」
「いえ…お身体は大丈夫なのですか?」
「うむ、儂が老人ゆえに相手も手加減してくれたようだ」
「左様ですか…医務室に向かうのでしたら、ご一緒しても宜しいですか?」
クラージュが怖々と訊くので、不思議に思うズィーナミ。
「……? クラージュ姫は儂の介添人であろうに、尋ねるまでも無かろう」
「そ、そうですね…では同行します」
クラージュが気にしたのは、ズィーナミの自尊心だ。
剣聖と並び称される剣匠が、何処の馬の骨とも知れぬ武芸者?…下手をすれば武芸者では無い相手に負けたのである。
誇りが傷付いたのは明白で、本来なら1人になりたい筈…だからこそ敢えて尋ねたのだった。
また、そこまで配慮していながら態々尋ねたのは、実際にゼノと相対したズィーナミから生の声を聞きたかった為だ。
つまりゼノの実力に興味が惹かれて仕方なかった…これがクラージュの本音と言えた。
実際に疾しい訳では無いが、自分が疾しいと思えば態度に出るものだ。
申し訳無さそうに後ろを付いて来るクラージュへ、ズィーナミは苦笑しながら告げる。
「儂らは強さを貪欲に求める人種だ…だから儂が負けたからと言って一々気にせんでも良い」
「はい…」
それでも浮かない顔のクラージュ。
『やれやれ…この娘は繊細で他者に気を配りすぎたな』
「ゼノと相対した感想を聞きたいのだろう? その代わりにクラージュ姫が、タトリクス殿に負かされた感想を聞かせて貰おうかのぅ」
「…! ズィーナミ様は意地悪です!! じゃあ私も気にしません!」
ズィーナミの揶揄う言い様に、クラージュはカチンと来てしまう。
だが先程までの浮かなさ消えて、12歳の少女らしい明るい表情に戻っていたのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




