1172話・昼食休憩
予選6区決勝が終了し、タトリクス達は貴賓客専用の展望食堂に来ていた。
ここは闘技場の最頂部にある施設で、貴賓として大会観覧に招待された外国人や、武國の要人などが利用できる。
またかなりの広さが有り、簡易に衝立で仕切られた箱席(注1)や完全な個室、またガラス張りから舞台を見下ろせる席も用意されている。
因みにタトリクス達は秘密会議?をするので、完全な個室で昼食を取る事にした。
「う〜ん…私は沢山食べられないから、つけ蕎麦だけでいいかなぁ」
料理の品書きを見ながら呟くタトリクス。
いち早く給仕役を買って出たクラージュが、
「承知しました。他の皆さんは如何します?」
と何故か楽しそうに一同を見渡して尋ねた。
『くぅ〜〜私がするつもりだったのに…』
などと内心で悔しがるアグノス。
タトリクスの世話をしたくて侍女的な振る舞いをしたかったのだ。
「そうですね…私も眠くなっては困るので、タトリクス様と同じ物にします」
これに釣られたのかズィーナミも、つけ蕎麦を選んだ。
「では儂も同じ物にしよう」
しかしクシフォスだけは違った。
「俺はここから、ん〜〜ここまでだ」
品書きにある半分以上の料理を選んだのだ…しかも酒瓶を2本も追加する有様。
巨躯を維持するのに大食漢なのは分かるが、昼間っから酒とは些か節度に欠ける感は否めない。
「ハハッ…分かりました。では私も、つけ蕎麦だけにしようかな…」
などと渇いた笑いを漏らしながら個室を出るクラージュ。
すると個室の前にはインチェンが直立不動で佇んでいて、クラージュの心臓が跳ね上がった。
「びっくりした…! こんな所に立って…皆さんと一緒しないのですか?」
「いえ、私は結構です。大事な話し合いがあるようですし、聞き耳を立てる者が居ないか私が見張りをしておきます」
「そ、そうですか…」
『か、堅苦しい…』
片や大食漢の脳筋、片や堅苦しい女暗殺者…色物が周囲に多過ぎてクラージュは少し引いてしまう。
またインチェンが割と美人なのが気掛かりだ。
理由はタトリクスが気にいる可能性があり、そうなると競争相手が増えてしまうからである。
そう為らないように動く事も出来るが、さもしい感じがして何だか嫌だ。
『こればっかりは焦っても仕方ないわね…』
気持ちを切り替えたクラージュは、昼食の注文を伝える為に厨房へ向かうのだった。
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全員の料理が一応運ばれて、皆思い思いに食事を始める。
"一応"なのはクシフォスの料理が多過ぎて、配膳だけで無く調理自体が終わっていないからだ。
そんなクシフォス以外どうでも良い状況の中、ふとアグノスが呟いた。
「そう言えば奏大人が居られませんね?」
「確かに…どうされたのでしょうか?」
首を傾げるクラージュ。
ズルズルと蕎麦を啜った後、ズィーナミが言った。
「んん~~本線までには戻ると言っておったような…」
「ええぇ?! こちらの派閥の中核ですのに、この場に居なくて良いのですか?!」
何故か直接関係の無いクラージュが心配する。
同じくアグノスも続いて慌てた。
「そうですよ! 武國の未来を決める大会ですのに…細かな打ち合わせとか作戦会議とか行わないと!」
「何で2人が慌てるのよ?」
タトリクスに突っ込まれて、アグノスとクラージュは少し恥ずかしそうに俯く。
「「……」」
するとクシフォスが豪快に笑いながら言及する。
「ガハハッ! それはあれだろ…大好きなタトリクス殿の取り組んでいる事が、上手く行って欲しいからだろうに」
『こ、この脳筋…自分の事は鈍感な癖に!』
『うぅ…これでは公私混同がバレてしまう。脳筋の癖に余計な事を!』
南方最強の武人相手に、内心では滅茶苦茶な言い様のクラージュとアグノス。
これにズィーナミが予想外の反応を示す。
「ぬ? お二人はタトリクス殿が好きなのかね?」
面と向かって訊かれると、尚のこと恥ずかしいと言うものだ。
だが嘘は付きたくないので、躊躇いながらも答えるクラージュとアグノス。
「え…あ、その……はい、大好きです」
「ううぅぅぅ……大好きです!」
半ば唖然とするズィーナミ。
「永劫の王国の王妃と、セルウスレーグヌムの戦女神がタトリクス殿を好きだと?!」
ズィーナミからすれば、確かにタトリクスは超絶者で凄まじい存在だ…しかし在野でフラフラしている浪人でもある。
そんな存在を好きになるとは、立場に対する責任感を疑いたくなってしまう。
何よりアグノス王妃は聖女王の伴侶である。
こんな事が露見すれば武國と永劫の王国との国家問題に発展し兼ねないだろう。
しかしアグノスは国家間の心配よりも、個人的な心配をしてしまう素っ頓狂ぶりだ。
『う……しまった! 下手をすればタトリクス様の正体がバレるかも…』
されどアグノスよりも素っ頓狂な者が居た……クラージュである。
「人を好きになる事に立場など関係ありません!!」
自信満々に言い放つクラージュに、ズィーナミは戸惑いを隠せない。
「い、いや…儂が言いたいのは、そう言う事ではなくてだね…」
そこまで言って当事者であるタトリクスを見やる。
本当に大丈夫なのか?…と暗に訊いているのだ。
そうするとタトリクスはニヤニヤした様子で答えた。
「まぁクラージュの言う通りだと思うわよ。そんなのでゴタゴタする国なら潰れちゃえば良いのよ」
最早ここまで来ると冗談を通り越して脅迫である。
『事情を知ら無い者からすれば焦るだろうけど…フフフッ』
そしてズィーナミが困るのが分かっていて北叟笑む…なんとも質が悪い。
当然これにズィーナミは冗談と受け取れず固まるのだが、
「心配するなズィーナミの爺さんよ…俺が保証するから」
直ぐにクシフォスが割って入って事無きを得る?が、いまいち釈然としていないのだった。
『やれやれ…私がプリームスと知れた時、どうなるんだろうか…』
勿論、素性を隠したままにする事も可能かも知れない。
それでも信義を鑑みるなら、何時かは打ち明けなば為らないと思い溜息が出そうにあるタトリクスであった。
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(注1)箱席・造語-枡席やボックス席の事。ここでは後者。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




