121話・フィエルテ強化計画(2)
スキエンティアの咄嗟の機転により、プリームスは何とか格好が付きそうであった。
何に対しての恰好かと言うと、フィエルテに対してだ。
元々フィエルテの武力を鍛える約束をしていたのに、すっかり忘れていたのだ。
そしてどう鍛えるか考えあぐねていた所を、スキエンティアの助言に救われたプリームス。
その助言内容は、”意識”と”無意識”で、武を極めたと言って良いプリームスの最も得意とする分野でもあった。
しかしスキエンティアの言う"意識"と"無意識"に、フィエルテは首を傾げてしまう。
漠然とし過ぎて全く分かっていないようだ。
そんなフィエルテの為にスキエンティアは掻い摘んで説明をし始めた。
「人の動きとは意識して行われるものです。ですが戦いの場合、攻撃する意識を持てば、露骨に挙動に出てしまう・・・そうすると相手に動きがバレてしまいますよね。これを兆し、又は起りを読まれると言うのです」
丁寧にフィエルテへ説明するスキエンティア。
一応師匠らしい事はするのだなと、プリームスは感心した。
するとフィエルテが合点がいったように、
「成る程! 詰まり相手に悟られず攻撃する為、無意識にそれを実行する訳ですね?」
と自分で言って再び首を傾げた。
「あれ? でも無意識に行動する事は可能なんですか? しかも戦いにおいて実行するとなると、何も考え無いって事ですよね?」
フィエルテの言っている事は最もである。
人は意識して考えるからこそ人で有り得るのだ。
しかしそれならば何故、無意識と言う言葉が存在するのか?
それを先ずは説明せねばとプリームスは考えた。
「フィエルテ・・・無意識とは例えば何を指して言うのか分かるかね?」
プリームスの問いに考え込むフィエルテ。
「えぇ~と、呼吸とかでしょうか? 後は痛みで声が出たりとか、クシャミなども無意識で出てしまいます」
頷くプリームス。
「うむ。呼吸は意識しても行えるが、基本的に身体の自律的機能が生命維持の為に行っている。また痛みで声が出たりクシャミが出たりなどは、条件反射や体の防御機能が働いて行われる。詰まり人が意識して考えずとも起こってしまう行動だ。これは至極自然な事であり、無意識こそが自然と言える」
プリームスはフィエルテの目の前に立つと、徐に右手を差し出しだした。
その手はフィエルテの胸の中心に触れる。
「今、私がお前に触れる途上の動きを察知出来たかね?」
とフィエルテに問いかけるプリームス。
「えっ、あれ!?」
少し戸惑った様子で、フィエルテは自身に触れるその手を見やった。
そして驚いた様子で答える。
「全く気づきませんでした。触れられて、更にプリームス様に問われて気付いたくらいです・・・」
プリームスはニヤリと笑む。
「体感して分かったと思うが、私が触れる事を察知出来なかったと言うより、意識出来なかったのであろう? 無意識を武術に応用すると言うのは、詰まり相手に此方の動きを意識させない事なのだ。これは武の最高到達地点である、2つの内の1つと私は考えている」
武の最高到達地点と聞いてフィエルテは、正直腰が引けてしまった。
それも2つも有り、その1つがこの”無意識”だと言うのだから、気が遠くなってしまいそうになる。
しかし聞いてしまえば興味が湧くと言う物だ。
「では、”無意識”の他にあるもう1つとは、如何なものなのでしょうか?」
フィエルテが恐る恐る尋ねると、プリームスは簡単に答えてしまう。
「弛緩だ」
また何とも聞き慣れない言葉を言われてしまい、再び戸惑ってしまうフィエルテ。
「弛緩・・・ですか?」
「一度に2つを極めようとは思うな。時期を見て、その時が来れば教えてやろう」
そう言ってプリームスは、フィエルテの胸をスリスリと撫でて身を翻した。
撫でられて少し照れつつも、フィエルテはプリームスに触れられて少し嬉しくなる。
そして撫でられた感触が消えゆくのを惜しみつつ、
「では、相手に意識させない方法を教えて頂けるのですね?」
とプリームスへ問いかけた。
「勿論だ」と笑顔でプリームスは頷く。
そうしてフィエルテから2m程距離を取って向かい合うと、
「口で説明するより実際にやってみるのが一番手っ取り早いだろう。どんな手段を使っても構わんゆえ、この距離で私を抱き竦めてみよ」
そう不敵に言い放った。
流石にこの至近距離で捕まえられない訳が無いと、フィエルテは苦笑いしてしまう。
それを見たプリームスは小さく溜息をつくと、
「1度試みる度に元のこの位置に戻る様にな。それと、もし私を抱き竦める事が出来たら、何でも1つ願いを聞いてやろう」
ニヤリと笑みを浮かべてフィエルテに告げた。




