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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第八章:武王が居た国
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1161話・予選6区決勝‐4戦目‐奏怜刃 対 ユチャ(3)

「面白い歩法を使うわね・・・」

興味深そうに言う怜刃。



これにユチャは槍を振り被る独特の構えをし、

「褒め言葉として受け取りますね」

そう返した瞬間に踏み込んだ。



再び凄まじい速度で突っ込んで来るユチャに、今度は剣での受け流しを試みる怜刃。

相手の足を止めるには、それが一番手っ取り早いからだ。



先程の突きとは違う、槍先での振り下ろし。

それを受け流した直後、怜刃の剣に予想以上の加重が掛かった。

「むっ!?」

その所為で受けて"流す"筈が、強力な槍先の一撃で剣が弾かれてしまう。



この隙を逃さないユチャは、振り下ろした勢いを利用し槍をクルッと半回転させる。

すると切先の逆・・・槍の柄先が体勢を崩した怜刃を襲う。



『やるなっ!』

怜刃は素直に感心する。

間合いの広さ、速度、近接でも立ち回れる汎用性・・・これらをユチャが十分に理解して槍を扱っていた為だ。


だが怜刃も相手の想定通りには動かない。

剣を弾かれた勢いに逆らわず体を横に回転させたのである。

そして回転に因って半身になった傍を、虚しく槍の柄が虚空を薙いだ。



こうして両者とも深追いをせず、距離を取るように後方へ飛び退(すさ)った。



「ユチャって人の歩法・・・縮地だね、」



ボソリと呟いたタトリクスの言葉に、アグノスは首を傾げた。

「しゅくち・・・ですか?」



「流石はタトリクス殿だな、縮地を知ってたか!」



「・・・!!?」

突然背後に現れて大声を出すクシフォスに、アグノスの体がビクッと跳ね上がった。



「・・・そう言うクシフォス殿も知っていたのですね。武神と呼ばれるだけの事はあります」



「ハハッ! よせやい、褒めても何も出ないぞ・・・ぐえっ!?」


タトリクスに褒められて嬉しいそうなクシフォスだったが、怒ったアグノスに耳を引っ張られてしまったのだ。

「気配を消して女性の後ろに来ないで下さい! これだから脳筋は!」



シュン・・・となるクシフォスを他所に、タトリクスはアグノスへ説明を始めた。

「縮地は相手に悟られ難くする移動法で、勿論普通に走るより段違いで速いの」



「へぇ〜〜そうなんですか。私は武術は素人なので何とも言えませんが、一歩が凄く広い感じに見えました」



「うん、理屈で言うと足を動かして進むのでは無くて、体を進む方向へ倒すの。それで倒れる挙動を利用して前進・・・足は後から付いて来る感じ」



不思議そうな顔をするアグノス。

「ん? でもユチャさんは始めに踏み込んでたように見えましたが・・・」



「そうだね・・・私も只の縮地なら気にも留めなかったけど、正に知り合いの縮地がユチャ氏のように特殊な物だったのよ」



「成程・・・ならユチャさんは重要参考人ですね!」



アグノスの言い様に、ずっこけそうになるタトリクス。

「それは犯罪に関係する事で・・・まぁ良いか。取り敢えず、もう少し様子を見るよ」




『不味いわね・・・』

ユチャは自分が追い込まれている事に気付く。


開幕から後の先で対応し続ける怜刃、加えて勝利が決するような進展も皆無だ。

つまる所、それは手の内を剥かれ続ける事に等しい。

そうなれば最終的に弱点を突かれて、自分が負ける未来しか見えなかった。


『なら、一か八か勝負に出るしか無いわね』

意を決したユチャは、得物である槍を真ん中から二つに分離したのだった。




「えっ・・・何ですか、あれは?!」

呆気に取られるアグノス。


それもその筈、有利だった槍の長さを自ら無くしたのだから当然だ。

これで手数が増えても、怜刃が得意な間合いに入らなければならず、ユチャが不利になるのは明らかに見えた。



「ん〜〜仕込み槍? 短い槍が2本になったね」

特に驚いた様子も無くタトリクスは答えた。



因みに分離した槍の後ろの方は、ちゃんと先に刃が付いている。

強度的に疑問を感じるが、タトリクスの言うように仕込み槍が名称に相応しいだろう。



『二刀流? だが刃が先にしか付いていない分、相手を斬り付ける小回りは片手剣の方が上ね』

そう怜刃は高を括った。



相変わらず待ち受ける怜刃を見越したのか、ユチャは右に持った槍を徐に振り上げる。

そして震脚を伴う縮地で突っ込んで来ると思いきや・・・・何と、その右の槍を怜刃へ投擲したのだった。



「なっ!!」

虚を突かれた怜刃は反撃し易い回避では無く、槍を剣で受け止めてしまう。



「おぉっ!」

少し感心して声を漏らしたタトリクス。


ユチャが投擲した槍の真後ろから、怜刃に肉薄していたのである。

つまり投げた槍と殆ど同じ速度で追随しており、人間離れしているとしか言い様が無い。



片や怜刃は完全に出遅れた状態になる。

否・・・投擲された槍を受け止めた直後であり、迫るユチャの追撃に対処出来る訳が無かった。

「・・・!!」



「申し訳ありませんが、勝たせて貰います!」

懐に入ったユチャは左の槍を逆手に持って、柄先で怜刃の鳩尾へ鋭い突きを放った。

勿論、震脚を伴う突きで、そんな物を急所に受ければ昏倒は間違い無いだろう。


「!??!」

ユチャは目を見張った。

突いた槍の柄が、まるですっぽ抜けたような妙な手応えだった為だ。



「残念・・・剣相手に零距離だからと気を抜いたみたいね」



『しまっ・・・』

その怜刃の声を聞いた刹那、ユチャは意識が遠のくのを感じる。

零距離からの掌底が、ユチャの顎を撃ち抜いていたのだった。



倒れ伏したユチャを目の当たりにした観客等は、一瞬の決着劇に呆然とする。

だが審判が駆け寄り怜刃の勝利を高らかに言い放つと、漸く状況を理解したのか歓声が湧き起こった。



「今のは・・・一体どうなったんですか?!」

未だに状況が理解出来ないアグノス。

虚を突き懐に潜ったユチャが明らかに優勢に思えたが、気が付けばユチャが倒れていたからだ。



「怜刃さんは着物と袴に上から打掛を羽織っているでしょ。あの格好は動き難そうだけど、一応は理由が有るのよ」



「・・・? と言いますと?」



「着物や打掛は体の細かな動きを見せなくするの。袴も同じ・・・爪先の向きや脚の角度を見せなくして、挙動を隠してしまうの」

そこまで言ったタトリクスは、身振りで更に補足を続けた。

「今回のは両肩を動かさず、着物の中で腹部から腰を捻って、ユチャの突きを皮一枚で躱した訳だよ」



「なるほど! そんな事も可能なんですね〜〜」

文化的な戦闘様式の違いにアグノスは感心した。


南方や西方は戦闘に於いて、動き易いピッチリとした装いをする。

或いは頑強な鎧などを着込み、攻撃を受けた場合の被害の軽減を重視している。


『まさか当てさせないような工夫をしているなんて・・・』

正に目から鱗であった。



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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