1158話・予選6区決勝、小休憩(2)
衝突の二つ名を持つタンユと剣匠ズィーナミの戦いは、当然の如くズィーナミが勝利した。
危なげも無く勝利したはずだが、当のズィーナミは直ぐに控え室へ消えてしまう。
「流石は剣匠の爺さんだな」
「・・・・」
クシフォスの言葉に、タトリクスは僅かに含みを持った様子で無言のままだ。
「どうかされたのですか?」
心配になって尋ねるアグノス。
「ん? あぁ・・・リニス長官の様子が少し気になってね」
首を傾げるクシフォス。
「様子? 何か変だったか?」
「ん~~~リニス長官がって言うより、決着した瞬間に微妙な違和感が有ったのよね・・・まぁ気の所為かも知れないけど」
「なら控室を尋ねてみませんか? 剣匠ズィーナミ・リニスに会った事が無いので・・・イリーク卿の御父様ですし、ご挨拶しておきたいですね」
と提案したのは御忍びで武國に来た、次期レギーナ・イムペラートムのクラージュだ。
「うん・・・そうね」
相槌を打ちタトリクスは周囲を見回す。
ズィーナミの事も気にはなるが、何時の間にか姿を消したジズオと、端から貴賓席に姿が無かったギンレイが気になっていた。
『何か企んでるのは確かだろうけど・・・』
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【闘技場内 医務室】
「ぐぅぅ・・・」
久しく感じた事の無い痛みに、タンユは呻き声を漏らした。
理由はズィーナミに砕かれた左腕と右脚が痛んだからだが、彼の巨躯に合うベッドが無く中々治療が出来なかったのも原因だ。
最終的には既存のベッドを3つ引っ付けて、何とか間に合わせの治療台を作るに至る。
「・・・・」
応急処置の間、タンユは"依頼主"との遣り取りを思い出していた。
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※
※
そこは陰湿な地下室のような空間。
タンユには少しばかり手狭な部屋であり、大剣を背に担いでは柄先が天井に擦れてしまう。
仕方なしに右手に握っていた。
「こんな場所しか無かったのか?」
鬱陶しそうに言うタンユ。
この部屋には、もう1人居た・・・マントとフードで様相を隠した華奢な人物だ。
「済まないね・・・王宮や武林館では人目に付くゆえ我慢して欲しい」
そう、ここは王都武林・・・特に内環状街の地下に多く広がる地下空間の一画。
土地勘が有り、且つ地下構造に詳しくなければ、容易く遭難してしまう複雑な場所だ。
「さっさと済ませよう」
タンユが焦れた様子で言うと、フードの人物は部屋の中央を指して告げる。
「その大剣を床に置いて下さい」
「・・・・」
言われるがまま従うタンユ。
フードの人物は置かれた大剣へ、懐から取り出した何かを振り掛ける。
するとそれは液体だったようで、不思議な事に床に溢れず、大剣の刀身に染み渡る風に広がった。
「何をしたんだ?」
タンユは不安げに尋ねた。
武器は傭兵とって生死を左右する道具なのだ、信頼する鍛治士以外に何かされては不安になって当然だ。
「大丈夫ですよ・・・対象の髪の毛を培養して作った呪物媒体です。これでズィーナミ・リニスのみに効果を発揮する呪いの剣となりました」
「おいおい・・・普通に使えるのか?」
「ズィーナミの"体に接触"した時のみですから、それ以外は誰を斬ろうが普通の大剣ですよ。別に切れ味が落ちる訳でも無いですしね」
その説明に胸を撫でおろすタンユ。
そんな彼へフードの人物は念を押した。
「依頼の達成はズィーナミの体へ、その大剣で触れる事です。かする程度でも構いません、必ず生身に一度で良いので触れること・・・宜しいですか?」
「ああ・・・承知した。で、どんな呪いが掛かるんだ?」
「なに、大した事は有りませんよ・・・僅かな髪の毛で掛ける呪いですから、効果も弱く1日ほど切れます。只、同格以上を相手取った場合、必ず呪いの効果が足枷になります」
※
※
※
『やれやれ・・・六大大人・・・いや、これほど超絶者を相手するのがキツいとはな、』
こうして応急処置が終わり、本格的な治療の為に病院へ搬送する途上、何者かに搬入用通路で呼び止められた。
「タンユ殿・・・」
担架では乗らないので荷車で運ばれていたタンユは、搬送担当へ止まるように告げる。
「剣匠相手に見事な戦いぶりでした」
呼び止めた人物は六大大人の1人、ジズオだ。
「・・・・」
通路の天井を見上げたまま無言のタンユ。
そんな彼の傍に寄り、その耳元へジズオは囁いた。
「少し冷や冷やしましたが、何とか私の依頼は達成出来ましたね。報酬は色を付けておきますよ」
「この有様では割に合わん・・・」
ぶっきら棒なタンユの返しに、ジズオは苦笑する。
「フフフッ・・・では事が全て上手く行った暁には、貴方を高い地位で登用しましょう。勿論、給与も弾みますよ」
「考えておく・・・」
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『儂も耄碌したな・・・』
ズィーナミは控え室のソファーに座り己の手を見つめた。
拳や剣の柄を握る事は可能だろう。
だが攻撃をする水準で力を込めるのは不可能に思えた。
「はぁ・・・剣を振れば手からすっぽ抜けそうだな、」
恐らくタンユの大剣を、素手で受け止めた弊害だと考えられた。
大会規定上、毒の使用は禁止されている。
しかし魔導具・・・つまり魔法武具の使用は禁止されていないのだ。
例えそれが毒に似た効果を発する魔法や、或いは呪いの付加がされていてもである。
只、殺傷性が増す物や後遺症が残る物と発覚すれば、使用禁止命令が審判から出される。
勿論、これを無視すれば即刻失格だ。
これらを鑑みて弱毒性の何かを、タンユの大剣に仕込んでいたのだろう。
『体の自由を僅かに抑制する程度だが、本戦では命取りだな』
今の状態でジズオに当たれば、正直勝てる気がしない。
また時間経過と共に悪化する可能性も捨てきれない。
こんな事態になるなら体面を気にぜず、タンユを一方的に叩き伏せれば良かった・・・そんな後悔の念がズィーナミの胸中を覆った。
「はぁ・・・こんな事、恥ずかしくて誰にも言えんわい」
突然、バ〜ンッと大きな音を立てて扉が開け放たれる。
「・・・!?!」
ビクッとなるズィーナミ。
「おう! 爺さん・・・様子を見に来たぞ!」
などと大声で告げたのは、礼節や気品の欠片も無いクシフォスだ。
そしてその背後には、申し訳無さそうにする女子3名の姿が見えたのであった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




