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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第八章:武王が居た国
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1158話・予選6区決勝、小休憩(2)

衝突の二つ名を持つタンユと剣匠ズィーナミの戦いは、当然の如くズィーナミが勝利した。

危なげも無く勝利したはずだが、当のズィーナミは直ぐに控え室へ消えてしまう。



「流石は剣匠の爺さんだな」



「・・・・」

クシフォスの言葉に、タトリクスは僅かに含みを持った様子で無言のままだ。



「どうかされたのですか?」

心配になって尋ねるアグノス。



「ん? あぁ・・・リニス長官の様子が少し気になってね」



首を傾げるクシフォス。

「様子? 何か変だったか?」



「ん~~~リニス長官がって言うより、決着した瞬間に微妙な違和感が有ったのよね・・・まぁ気の所為かも知れないけど」



「なら控室を尋ねてみませんか? 剣匠ズィーナミ・リニスに会った事が無いので・・・イリーク卿の御父様ですし、ご挨拶しておきたいですね」

と提案したのは御忍びで武國に来た、次期レギーナ・イムペラートムのクラージュだ。



「うん・・・そうね」

相槌を打ちタトリクスは周囲を見回す。

ズィーナミの事も気にはなるが、何時の間にか姿を消したジズオと、端から貴賓席に姿が無かったギンレイが気になっていた。

『何か企んでるのは確かだろうけど・・・』






 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※






【闘技場内 医務室】


「ぐぅぅ・・・」

久しく感じた事の無い痛みに、タンユは呻き声を漏らした。


理由はズィーナミに砕かれた左腕と右脚が痛んだからだが、彼の巨躯に合うベッドが無く中々治療が出来なかったのも原因だ。

最終的には既存のベッドを3つ引っ付けて、何とか間に合わせの治療台を作るに至る。



「・・・・」

応急処置の間、タンユは"依頼主"との遣り取りを思い出していた。


   ※

   ※

   ※


そこは陰湿な地下室のような空間。

タンユには少しばかり手狭な部屋であり、大剣を背に担いでは柄先が天井に擦れてしまう。

仕方なしに右手に握っていた。


「こんな場所しか無かったのか?」

鬱陶しそうに言うタンユ。



この部屋には、もう1人居た・・・マントとフードで様相を隠した華奢な人物だ。

「済まないね・・・王宮や武林館では人目に付くゆえ我慢して欲しい」


そう、ここは王都武林・・・特に内環状街の地下に多く広がる地下空間の一画。

土地勘が有り、且つ地下構造に詳しくなければ、容易く遭難してしまう複雑な場所だ。



「さっさと済ませよう」



タンユが焦れた様子で言うと、フードの人物は部屋の中央を指して告げる。

「その大剣を床に置いて下さい」



「・・・・」

言われるがまま従うタンユ。



フードの人物は置かれた大剣へ、懐から取り出した何かを振り掛ける。

するとそれは液体だったようで、不思議な事に床に溢れず、大剣の刀身に染み渡る風に広がった。



「何をしたんだ?」

タンユは不安げに尋ねた。

武器は傭兵とって生死を左右する道具なのだ、信頼する鍛治士以外に何かされては不安になって当然だ。



「大丈夫ですよ・・・対象の髪の毛を培養して作った呪物媒体です。これでズィーナミ・リニスのみに効果を発揮する呪いの剣となりました」



「おいおい・・・普通に使えるのか?」



「ズィーナミの"体に接触"した時のみですから、それ以外は誰を斬ろうが普通の大剣ですよ。別に切れ味が落ちる訳でも無いですしね」



その説明に胸を撫でおろすタンユ。



そんな彼へフードの人物は念を押した。

「依頼の達成はズィーナミの体へ、その大剣で触れる事です。かする程度でも構いません、必ず生身に一度で良いので触れること・・・宜しいですか?」



「ああ・・・承知した。で、どんな呪いが掛かるんだ?」



「なに、大した事は有りませんよ・・・僅かな髪の毛で掛ける呪いですから、効果も弱く1日ほど切れます。只、同格以上を相手取った場合、必ず呪いの効果が足枷になります」


   ※

   ※

   ※


『やれやれ・・・六大大人・・・いや、これほど超絶者を相手するのがキツいとはな、』




こうして応急処置が終わり、本格的な治療の為に病院へ搬送する途上、何者かに搬入用通路で呼び止められた。

「タンユ殿・・・」



担架では乗らないので荷車で運ばれていたタンユは、搬送担当へ止まるように告げる。



「剣匠相手に見事な戦いぶりでした」

呼び止めた人物は六大大人の1人、ジズオだ。



「・・・・」

通路の天井を見上げたまま無言のタンユ。



そんな彼の傍に寄り、その耳元へジズオは囁いた。

「少し冷や冷やしましたが、何とか私の依頼は達成出来ましたね。報酬は色を付けておきますよ」



「この有様では割に合わん・・・」



ぶっきら棒なタンユの返しに、ジズオは苦笑する。

「フフフッ・・・では事が全て上手く行った暁には、貴方を高い地位で登用しましょう。勿論、給与も弾みますよ」



「考えておく・・・」






 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※






『儂も耄碌(もうろく)したな・・・』

ズィーナミは控え室のソファーに座り己の手を見つめた。


拳や剣の柄を握る事は可能だろう。

だが攻撃をする水準で力を込めるのは不可能に思えた。

「はぁ・・・剣を振れば手からすっぽ抜けそうだな、」


恐らくタンユの大剣を、素手で受け止めた弊害だと考えられた。



大会規定上、毒の使用は禁止されている。

しかし魔導具・・・つまり魔法武具の使用は禁止されていないのだ。

例えそれが毒に似た効果を発する魔法や、或いは呪いの付加がされていてもである。


只、殺傷性が増す物や後遺症が残る物と発覚すれば、使用禁止命令が審判から出される。

勿論、これを無視すれば即刻失格だ。

これらを鑑みて弱毒性の何かを、タンユの大剣に仕込んでいたのだろう。


『体の自由を僅かに抑制する程度だが、本戦では命取りだな』

今の状態でジズオに当たれば、正直勝てる気がしない。

また時間経過と共に悪化する可能性も捨てきれない。


こんな事態になるなら体面を気にぜず、タンユを一方的に叩き伏せれば良かった・・・そんな後悔の念がズィーナミの胸中を覆った。

「はぁ・・・こんな事、恥ずかしくて誰にも言えんわい」



突然、バ〜ンッと大きな音を立てて扉が開け放たれる。



「・・・!?!」

ビクッとなるズィーナミ。



「おう! 爺さん・・・様子を見に来たぞ!」

などと大声で告げたのは、礼節や気品の欠片も無いクシフォスだ。

そしてその背後には、申し訳無さそうにする女子3名の姿が見えたのであった。



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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