1144話・予選区戦
武術大会開催の2日前・・・前夜祭と呼ばれる予選区戦が行われた。
概要は本戦に出場する者を選ぶもので、最終的には10名が選出される。
因みにタトリクス、クシフォス、ズィーナミ、奏怜刃、ギンレイ、ジズオは予選免除枠に居るが、予選10区の内6区から勝ち上がった者と本戦を懸けて戦う事になる。
これは本大会開催日に行われる予定だ。
こうして2日に渡って無観客予選が行われた場所は、武王宮で最も広大な平地を誇る軍訓練用敷地である。
ここは軍単位での訓練が可能で、10予選区1000名を十分に収容し、問題無く2日で予選を終わらすに至った。
そして本戦を懸けて戦う6区が出揃う。
1戦目:タトリクス・カーン 対 クラージュ
2戦目:クシフォス・レクスデクシア 対 タンラン
3戦目:ズィーナミ・リニス 対 タンユ
4戦目:奏怜刃 対 ユチャ
5戦目:ギンレイ 対 インチェン・ワンノン
6戦目:ジズオ 対 フーリー
また予選免除枠との対戦から外れた本戦出場者は、アポラウシウス、グラキエース、ゼノ、ソキウスの4名だ。
これら4名は全くの無名な上、4人中3人が南方出身と言う異例事態に市井は湧き上がった。
何故なら武芸の中枢と言われた武林を差し置き、他の文化圏からの台頭に新たな風を感じたからである。
つまり皆は飽き飽きしていたのだ・・・同じ世界の同じ強者ばかりに。
故に目新しい刺激を得て、湧き上がるのも当然と言えた。
予選の観戦を終え、シェイの宿舎へ戻って来たクシフォス。
彼に、その結果が記された書類を見せられ、
『どうしてこうなった!?』
とタトリクスは居間で頭を抱えた後、テーブルに突っ伏した。
傍に居たアグノスは慌てる。
「えっ?! ど、どうされたのですか?!」
「ハハハッ! 今にも卒倒しそうだな、タトリクス殿」
片やクシフォスは察しているのか、いないのか、他人事のように揶揄い口調である。
「うぅ・・・クラージュが・・・」
突っ伏したまま愚図るタトリクスに、いまいちアグノスは要領を得ない。
「え? え? クラージュ?」
「フフッ・・・実はな、このクラージュってのがセルウスレーグヌムの王女と同じ名前なんだ。で、俺が実際に確認しに行ったら・・・」
クシフォスの話へ、興味津々に身を乗り出すアグノス。
「行ったら?」
「本人だった・・・がははっ! 師に似てクラージュ姫は随分とお転婆だよな!」
「あ・・・そう言えば! 今回みたいに偽装して・・・」
続きを言う寸前に、タトリクスが咄嗟にアグノスの口を手で覆った。
「ちょっと! 秘密なんだから!!」
小声で咎めるタトリクス。
「あ・・・す、すみません」
「ハハハッ・・・バレたところで元が誰か分からんと意味がないからな、そんなに気にする事は無いだろうよ。何にしろ本戦前に師弟対決が実現した訳だな」
他人事を俯瞰から楽しむようなクシフォス。
そんな時、お茶を持ってチュンシーが居間に入って来る。
「何だか対照的な状況ですね・・・」
凹んでいるタトリクスと、愉快そうなクシフォスを見て言っているのだろう。
「ククッ・・・聞いてくれて奥方。タトリクス殿が弟子と大会で当たる事になった。それが止ん事無き地位の人間でなぁ〜〜扱いに困るよなぁ?」
悪ふざけ過ぎるクシフォスを、アグノスが嗜める。
「クシフォス様・・・それ位にして下さい」
『タトリクス様は何時も超絶的で何でも見透かすから、愉快な気持ちは分からないでも無いですが・・・』
そこまで考えて、それを慌てて払拭する。
敬愛する伴侶の落胆する姿を見て、喜ぶ気持ちが湧き上がるなど有ってはならないからだ。
3人にお茶を差し出し、チュンシーは首を傾げた。
「タトリクス様がお弟子さんと大会で? それも止ん事無い立場の方と?」
「一応お忍びみたいだしな、秘密にしてくれよ・・・」
そう念を押したクシフォスは、事情を勝手に話し出してしまう。
タトリクスが以前、セルウスレーグヌム王国で王女アグノスの家庭教師をしていた事。
それに魔術と軍事の顧問もしている事を語ったのだ。
これにチュンシーが驚かない筈も無い。
「ええぇっ!? セルウスレーグヌム王国の王女が、お忍びで大会に出場しているんですか!?!」
しかもタトリクスの弟子なのだから、ある意味で世間は狭い?と言うべきなのか・・・色々と驚愕するばかりだ。
しかしタトリクスが気落ちしている理由が分からなかった。
「お弟子さんに会えるのは嬉しく無いのですか?」
「そらそうだろ・・・大会で当たってボコるのは忍びないってもんだろ?」
「そうですね・・・タトリクス様からすれば優勝しなければなりませんし、幾ら可愛い弟子でも手は抜けませんものね」
クシフォスとアグノスの意見に、「そう言うものか・・・」とチュンシーは無理やり自身を納得させた。
「ふむ・・・」
もし自分が弟子なら実力を見て貰う為に、師匠には全力で立ち合って貰いたい。
逆に師匠の立場なら弟子の全力を見る為にも、自分が全力を出さなくてどうすると考える。
『人の考えとは本当に多種多様ね・・・』
するとタトリクスは未だに愚図りながら呟いた。
「うぅぅ・・・絶対怒られる・・・うぅ・・・」
「「「へ・・・?」」」
クシフォス、アグノス、チュンシーは3人揃って首を傾げた。
"怒られる"の意味が分からなかったのだ。
「だって・・・クラージュ姫を誘わず、勝手に武國に来ちゃったから・・・」
「「「えぇぇっ?!」」」
『『『そこが心配?!?』』』
タトリクスのズレた心配に、唖然とする3人であった。
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〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜




