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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第八章:武王が居た国
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1143話・武王デンとジズオ

突如、発症した闇堕ち。

タトリクス特有の病・・・もとい呪いと言うべきかも知れない。

これは周囲に溜まった負の感情を、その特異な体質の所為で吸収してしまうのだ。


そして症状が進み末期になるとタトリクスの体は黒く染まり、非常に強い破壊衝動に駆られる。

更に重度になると敵味方の判別が付かなくなる程に狂乱し、魔力や体力が尽きるまで破壊を撒き散らすのだ。


こうなると起因となる存在を消滅させるしか、闇堕ちを完全に解消する術が無くなる。

しかしながら今の症状は非常に軽度であり、直ぐに危険な状態になる訳では無い。


『自覚症状も出ない程だけど、原因は・・・』

正直、よく分からないタトリクス。

だが魔法障壁で防げる程度に、この武國・・・武林の地に因果の負属性が蔓延しているのだろう。

若しくは聖剣の呪いが、微細な因果の負属性を引き寄せている可能性も考えられる。



タトリクスは頭を抱えた。

魔法障壁で因果の負属性を防げば、聖剣の呪いが進行してしまう。

かと言って魔法障壁を張らなければ、闇堕ちが重症化するからだ。

『うぅ・・・これじゃぁ八方塞がりじゃないか』


なにより身内に心配を掛けたくは無かった。

『魔法障壁を張ったり解除したり、騙し騙しやり過ごすしか無いかな・・・』


真横には、まだ幼さの残る端正な顔が瞳を閉じていた。

小さな寝息を立てている事から、自分と居る事に安心しきっているのだろう。

それはタトリクス自身も同じだ。


だからこそ思う・・・ギンレイも気掛かりではあるが、先ずは大切な伴侶と身内へ配慮しなければならないと。

『身内を不安がらせてどうする・・・無茶はこれっきりにしないと・・・』

そんな決意を嘲笑うように、タトリクスの意識を強い眠気が覆い隠してしまうのだった。






 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※






ジズオは重く厳かな扉を開き室内へ入った。

ここに至るまでは何重もの警備機構を抜けなければならない・・・そう、武王宮で神域と呼ばれる武王デンの寝所であった。


寝所に入ると直ぐに大きな衝立が視界を塞ぐ。

首を垂れて静かに尋ねるジズオ。

「デン陛下・・・お加減は如何でしょうか?」



「・・・・ジズオか・・・うむ、起き上がる事は出来ぬが、今日は何時に無く調子が良い」

しがれた声が返って来た。



「左様ですか・・・それでは点滴をお変え致しますね」



「うむ・・・」



衝立を越えると、部屋の中央に天蓋付きのベッドが目に飛び込んで来る。

そして窓から差し込む淡い陽光が幻想的で、まるで御伽話の一場面かの様だ。



抱えていた金属製の鞄をベッドテーブルに置き、それをジズオは静かに開ける。

中には無色透明の液体が満たされた点滴瓶が2つ、点滴に使用する器具が敷き詰められていた。



天蓋の蚊帳を開き、ベッドに横たわるデンの脈を取るジズオ。

「・・・・」



「2週間前までは動けたのだかな・・・」



「・・・・・」



「もう皆の前に立つのも叶わぬ・・・情けない」



「その様に弱気な事を仰らないで下さい」

ジズオは感情を押し殺しながら淡々と返した。



「ジズオ・・・お主には色々と苦労を掛けた。儂の延命の為に、お主へ不名誉な汚名を着せる事になってしもうた。本当にすまない・・・」



「いえ・・・目的は違えど、"その行為"は噂と然して乖離は有りませんから。フフッ・・・何処から漏れたのやら、」

デンへ点滴の処置をしながら、ジズオは自嘲気味に言った。


デンの延命処置に使用する薬剤・・・それは生命力の根幹である心臓や、生命の苗床である子宮を必要とした。

これらを集めるには、人間の女性を捕えるのが最も効率的なのだった。

だが、それを国民から得る訳にもいかず、極刑が下された罪人や、武國に潜入した間者などを捕え殺害し、薬剤の材料へ変えていたのである。


倫理を欠いた所業と言わざるを得ない。

それでもジズオは、そうしなければ為らなかった。

武王デンが失われれば、延命に使われた何万倍を超える人命が失われる。

正に少数を犠牲に、大多数を救う為の苦渋の決断なのであった。



「お主が魔教主だった事を知る者の中で、反感を抱く者が流した噂だろう。何も知らぬがゆえの愚行だな・・・」



それには何も返さず静かに尋ねるジズオ。

「・・・点滴を変え終わりました。何かご所望が有ればお伺い致します」



「うむ・・・儂の後継は見つかりそうか?」



「魔剣から収集した情報では、一人だけ滅魔の素質が有りました。他は全くの適正が無いか、多少有っても発狂して使い物にはなりません」



デンは深く溜息をつき、諦めた様子で尋ねた。

「・・・・そうか。武國内や北方に撒いた魔剣は、全部で幾つになった?」



「流した核のみも含めましたら、丁度100本になります」



「100人中で1人とは・・・その者に期待して良いのか?」

それはデンにとって一筋の光明・・・150年にも及ぶ苦行が解放される可能性を秘めていた。



「はい・・・既に私の派閥に属し、次期武王候補として擁立しております」



ジズオの回りくどい言い様に、怪訝そうな表情を浮かべるデン。

「派閥だと? つまり対立候補が居るのだな?」



ジズオは苦笑いを浮かべた。

「流石はデン陛下ですね・・・仰る通りです」



余計な心配を掛けまいとする思いは、デンとしては嬉しい。

だが国家の存亡に関わるのなら話は別だ。

「対立"出来る"派閥が有るなら、脅威なのは間違いなかろう?」



「私に対立しているのは剣匠と奏怜刃・・・そして二人が擁立した武王候補は、タトリクス・カーンと言う人物です」



「・・・!!」

デンは目を見張る。


剣匠ことズィーナミ・リニスは、最重要機密であるデンの秘密を知らない。

しかし代々奏家は武王の秘密を共有し、封魔の一族として武王に仕えて来たのだ。

最悪、中立の立場を取っても、敵対するなど考えられなかった。



「ご心配には及びません。どちらが次期武王を擁立するかは、武術大会での結果で雌雄を決します・・・これに勝てば良いだけなのですから」



「そうか・・・手段は幾らでも有ると言う訳だな」



「左様で御座います・・・」

恭しくジズオは首を垂れて言った。



「ふぅぅ・・・相分かった。お主に全て任せる」

例え計画が破綻していようが、もはや起き上がる事さえ儘ならぬ自分に対処する術は無い。

信頼と諦めが()い交ぜになった思いを抱え、デンは静かに瞳を閉じたのであった。



楽しんで頂けたでしょうか?


もし面白いと感じられましたら、↓↓↓の方で☆☆☆☆☆評価が出来ますので、良かったら評価お願いします。


続きが読みたいと思えましたら、是非ともブックマークして頂ければ幸いです。


また初見の読者様で興味が惹かれましたら、良ければ各章のプロローグも読んで貰いたいです。


なろう作家は読者様の評価、感想、レビュー、ブックマークで成り立っており、して頂ければ非常に励みになります・・・今後とも宜しくお願いします。


〜「封印されし魔王は隠遁を望む」作者・おにくもんでした〜

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