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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第一章:終焉と新生
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11話・死熱病

朝になると驚くほどにクシフォスの容態が回復していた。

プリームスが起きるより早く起きて、周囲に危険が無いか歩き回っていたくらいだ。



野営中の周囲の安全確保は怠っていなかった。

スキエンティアの結界魔法を発動させていたからだ。

これは使用する魔力量にもよるが、一般的には半径20mの結界を張り巡らせて、結界への他者の侵入を知らせる効果があった。


その魔法は”警報(キンディノス・アンゲリアー)”と言う。

以前いた自分たちの世界では、城や拠点に大規模に施す用途が一般的だ。


そして効果時間は、発動した時に込める魔力に依存する。

故に一度効果時間を想定して魔力を込めれば、後は勝手に効果が続いてくれた。



プリームスは野営道具を、収納機能がある指輪にどんどん仕舞い込んでゆく。

それを見ていたクシフォスが驚いた様子で声をかけてきた。

「プリームス殿・・・それは凄いな! 収納機能を付加された指輪なのだろうが、それ程の魔法の品を見た事が無い」



少し気になったプリームはクシフォスに問いかける。

「ほほう・・・では、どの程度の物なら見た事があるのかな?」



思い出すような仕草をするクシフォス。

「俺が見知っている物は、王族が使用する品だな。それもプリームス殿が持つような小さな物では無く、もっとこう大きいのだ」



『う~ん・・・要領を得んな・・・』

プリームスは少し頭を抱えた。

以前いた世界でも、人間と魔族では魔法の技術そのものに差があった。

どうやらこの世界では、その比ではないようだ。



朝食を準備していたスキエンティアが見かねて割って入る。

「恐らくですが、”小型化”が成功していないのかと・・・」



するとそれを聞いたクシフォスが閃いたように、

「そうそれだ!錬金術師達が言っていた。収納能力を付加するのは良いが、収納の許容が大きければ大きい程、継続使用する魔力が多くなると。故に貯蔵する魔力スペースも必要になり、とても持ち運べる大きさには出来んそうだ。それでも洋服タンスなら、その10倍は収納できるようだがね」



なるほど・・・。

プリームスは納得がいった。

この世界は錬金術に関して言えば、以前居た世界の足元にも及ばないようだ。



ひょっとしたら魔法技術も発展していない可能性がある。

とすれば、不必要に自分達が錬金術や魔法、それに準ずる事を行うのは危険を伴うとも考えられた。



この地の人々には未知の技術と見えるに違い無い。

そうなれば無用なトラブルに巻き込まれるのは明白だった。

未知で、その上便利であるなら、それを手に入れよう考える権力者は必ず存在するからだ。



面倒な事が増えそうな予感がして、プリームスは溜息が出た。

そしてとりあえずは出来る事はやっておこうと思った。

「クシフォス殿・・・私やスキエンティアがこういった品を持っている事は黙っていて欲しい」



するとクシフォスは真顔で頷き言った。

「無論だ! その水準の魔法の品は、もはや神器と呼んでも過言ではない。無用な争いの種になり兼ねん、黙っておくさ」


そしてニカっと笑うと、興味津々な様子で言葉を続ける。

「その指輪もさる事ながら、俺の病はどうやって治したのか気になって仕方ない。他言しないゆえ教えてくれないか?」



フッと笑むとプリームスは少し安心した様子で答えた。

「貴方が患った病は”死熱病”というものだ。蚊を媒介して感染するゆえに、発症者から他人に伝染する事はない。ただ感染すればほぼ助からない。ある特定の薬以外では対処できないからな・・・」



驚いた様子でクシフォスはプリームスを見やった。

「そんな死の病にかかって俺は良く助かったものだな・・・ひょっとして特定の薬とやらを、プリームス殿は持っていたのか?」



頷くプリームス。

「この病は風土病だ。ある特定の地域でしか生きられない蚊を媒介するからだ。私は色々な土地を旅する機会があったゆえ、この病気を知る事が出来てね。そして病原を突き止め、特効薬を作る事も出来た。薬に関しては持っていると言うより、以前作った薬の備蓄が残っていた・・・が正しい」



再び驚くクシフォス。

「プリームス殿はさぞや高名な錬金術師・・・いや医者なのだろう。見たところその出で立ちと雰囲気も只者には見えんし」


そしてクシフォスは悩みだす。

「しかし、何と言うか・・・失礼だが見た目が幼く見えるのでな。困ったな・・・プリームス殿をどう扱ったら良いのか」



プリームスは笑いがこみあげて来た。

このクシフォスなる人物は根っからの善人なのかもしれない。

その武人然とした風貌から思うに、まどろっこしい駆け引きなどは嫌いな質と見える。



また彼がプリームスに言ったように、彼も只者ではない雰囲気を持っている。

大規模な調査隊を指揮していたと言うからには、かなりの地位にあるに違いない。


それに隙のない立ち振る舞い、武の面で言うならスキエンティアに肉薄するのではないかと思えるくらいだ。



これらを考慮するに彼を助けたのは、大正解と言える。

彼からこの世界の多くの情報を得られるからだ。



クシフォスがおずおずと再び問いかけて来た。

「その死熱病とやらの特効薬は・・・何とかならんものかな? 黙っていると言った矢先、申し訳ないのだが」



クシフォスは暗に薬が欲しいと言っているのだ。

プリームスは欲しい理由が気になった。

「ほほう・・・どうしてかな?」



クシフォスは腕を組み唸るように瞳を伏せた。

「実はな、近年この混沌の森に近い領土で、その死熱病が流行っていてな。村一つが全滅する異常事態が起こった。助けれるものなら助けたいと思ってな・・・」



彼はお人好しなのか、それとも国家に関わる要人で領民を心配しているのか・・・。

どちらにしても見捨てる事は出来ない性格なのだろう。

ならば答えは一つだ。



プリームスはクシフォスに微笑みかけた。

「薬の備蓄は僅かしかない。だが原材料が調達できれば、幾らでも作る事は可能だ」



そしてプリームスはクシフォスに片手を差し出した。

「助けたい命が有るなら協力しよう」


大喜びしてプリームスの手を取り握手をするクシフォス。

「ありがとう! これで俺の使命が果たせそうだ」



『使命、、、?』

スキエンティアから朝食のスープを受け取りつつ、訝しむプリームス。


どうやらまだ彼から詳しい話を聞かねばならないようだ・・・。



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