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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第四章:魔術師学園
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109話・学園の敷地とその構造

プリームスは下級学部10教室の生徒3人に学園を案内してもらう事となった。



生徒と言ってもそこそこの年齢で、1人は30歳位の大柄色黒男性バリエンテ。

2人目はイディオトロピアと言い、少し気の強さうな長い灰色の髪の毛が印象的な美女。

そして3人目は黒髪ボブのオットリとした女性でノイーギアと名乗った。



この2人は女子”生徒と言うより”女性”生徒と言った方が良いだろう。

2人とも20代半ばに差し掛かるくらいの年齢に見えた。



バリエンテの話によると傭兵ギルドに元々所属していて、ギルドマスターに魔術の才能を見出されてこの学園に来たらしい。

イディオトロピアとノイーギアも傭兵ギルドに在籍している冒険者と言う事で、ここに来た理由もバリエンテと似たり寄ったりとの事だ。



この3人は傭兵ギルド所属だったと言う事もあり、既知では無かったが直ぐに打ち解けたとバリエンテは語る。

プリームスが思うにバリエンテの人懐っこさとお節介焼きが、この3人を結びつけたのだろう。

教室でも一目置かれたような雰囲気だったので、人を纏め上げたり世話を焼く甲斐性が強いのかもしれない。




何気ない会話をしながら一旦下級学部の校舎から出る。

この下級学部の校舎は学園で一番大きい。

理由はこの学部に所属する生徒が全体の5割を占め、500人もの生徒が学んでいるからであった。



魔術師学園の敷地は南北に長方形の形をしていた。

南の外壁中央に正門が位置し、そこから正面先に職員専用の本館がある。

因みにここは、理事長室が最上階にある塔が併設されている。

プリームス達が出て来た下級学部校舎は、本館のすぐ東に建てられており正直本館より巨大である。



バリエンテが分かり易いように地面に敷地の構成を簡単に描いてくれた。

「本館が一番南に建っていて、その東に下級学部校舎がある。それから本館の西に建っているのが中級学部の校舎だ」


そして中級学部の校舎の図の上に、2つの建物を縦に並べて描くバリエンテ。

「更に中級学部の校舎の北に上級、その更に北に特級校舎が建っているんだよ」



地面に描かれた敷地の図は、真ん中が空白になっている様にプリームスは思えた。

「では、この本館の裏手に当たる場所は何か建っているのか? 只の広場?」


バリエンテは首を横に振ると、その空白の位置一杯に四角い図形を描き込む。

「ここは室内演習場と、野外演習場が半々だな。魔術の実演訓練などを行う・・・と言ってもここを使うのは、殆どが上級と特級学部の奴らだけだがね」



どうも上級と特級学部にバリエンテが良い印象を持っていない様に感じる。

するとイディオトロピアがバリエンテに続いて愚痴めいた事を言いだした。

「本来は私達のような下級学部の生徒にも、演習場を使う権利があるんだけどね。授業以外の学部外活動だと上級の奴らがいちゃもん付けて来たり、妨害して来たりするのよ」



ノイーギアも困った顔で続く。

「そうですね・・・学部外活動では団体に所属して活動したりするのですが、下級学部はそもそも団体に入れなかったりしますしね」



プリームスは人間の縮図をここに見たような気がした。

『成程、印象が悪いと言う以前に確執が有るのか』

人間は自身より劣っていたり、集団に倣わず異質の行動をとる者に嫌悪感を持ったりする。

下手をすれば排除しようともするのだ。

それが集団の強さを発揮する人間の長所でもあるが、埋もれた才能を潰してしまう短所でもあった。



魔術師学園の理事長代行としては、何とかしてやりたい気持ちが湧く。

しかし学園の状況把握が先である。

と言うかプリームスは”学部外活動”が気になって仕方が無かった。

「学部外活動とやらを詳しく教えてもらえんかね?」



痺れを切らせたようなプリームスに問われバリエンテは苦笑する。

「流石、視察に来たと言うだけあって随分と知識欲が旺盛だな。う~む・・・そうだな順を追って説明しようか」



バリエンテの説明によると、生徒達が自立して修学活動する学園内組織を団体と言うらしい。

この団体は基本的に放課後の時間を利用する。

故に学部外活動なのだ。

また学園内の施設は許可さえ取れれば、その団体活動に利用する事が可能でる。



そして基本的に下級学部の生徒はこの学部外活動に参加出来ていない。

学園で5割も占める生徒数だと言うのにだ。

これにプリームスは首を傾げる事しか出来なかった。

『何の為の学び舎と言うのか・・・』



そんな様子を見て察したイディオトロピアが自嘲するように言う。

「私達のような落ちこぼれは足を引っ張るからね。才能を見込まれて後々中級や上級に進学出来るような奴しか参加できないんだよ。後、そもそもが団体に所属しないと活動の建前が立たないの。その団体にさえ下級学部の生徒では所属出来ないからねぇ」



バリエンテが不満そうに言い放った。

「一番の問題は団体の実権を金持ちや貴族の生徒が握ってる事だ。才能があっても、そいつ等に媚びないと団体には所属出来んしな」



何だか面倒臭いし、ややこしいと思い始めたプリームス。

ならそんな物に頼らずに自分達だけで修学に励めば良いのだ。

考えれば考える程、人間の愚かさに呆れてしまう。

「と言うか、そんな活動に参加せずとも魔術を学ぶ事は出来るだろう?学部の授業だけでは駄目なのかね?」



プリームスの問いにノイーギアが困った表情で答えた。

「中級学部までは可能でしょうね。ですがそこから先は学部外活動の実績も加味されます。最終的には上級へ進学し卒業を目指しますが、それぞれの学部の在籍期限は1年のみと定められていて・・・」



「詰まりもたもたしていると、進学出来ずに退学になってしまうと言う事か」

と呆れた様子でプリームスが言い放つ。



苦笑いしながらノイーギアは頷いた。



「時間の経過で退学に追い込まれるのは、俺達のような金の無い推薦入学や保護されて入学した者達だな。成績をそれなりに維持して上手く媚びを売らないと、卒業どころか進学もままならん」

そう残念そうにバリエンテが告げる。



要するに金が有れば在籍期間を延ばせるし、団体の実権を握る生徒に媚びれると言う訳だ。

プリームスは学園の実態を知って落胆してしまった。

一体理事長であるエスティーギア王妃は何をしていたのか・・・。


そもそもそこまで学園に拘る意味も分からなかった。

「魔術自体の修学に苦労するなら分かる・・・しかしそんな下らない苦労までして卒業する意味が有るのかね?」



プリームスの言い様は最もだと頷くバリエンテ。

しかし魔術の知識は王国と魔術師学園が保護し秘匿している為、市井では学べないのだと言う。

更に国内に居る魔術師は全て学園の管理下にあるらしい。

詰まり学園が嫌なら国外に居る魔術師に弟子入りするしか方法が無い。



そして魔術師学園を卒業する意味は、その後の展望に有るとの事だ。

国家認定の魔術師として免許を所持出来、安定した国の職種に就けるのだ。


例えば宮廷に仕える魔術師、軍の魔術師士官、学園の魔術講師、魔術研究学者などである。



『何とも世知辛いのう・・・』

魔術師を目指す雛が、大事に保護されて育てられる環境と思っていた。

しかし思った以上に容赦なく汚れている事に、プリームスは落胆するのであった。



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