103話・古代迷宮の魔女(1)
アグノスの説明によれば、その迷宮は王都外郭の更に外れにあるらしい。
要するに一般市民が暮らす城下街の中にあるようだ。
そして地下迷宮の名は"エスプランドルの古代迷宮"と呼ばれていて、王国と魔術師学園の管理下にあった。
王都内にある訳なので国が管理するのは分かるが、学園が関わっているのは変だと疑問を持つプリームス。
しかしその疑問は直ぐに解決される。
「このエスプランドルの古代迷宮は、元々母の拠点だったのです」
とアグノスが言ったからだ。
"ただの人"の魔術師が地下迷宮を構えるなど聞いた事が無い。
故に一同は驚きの表情を隠せなかった。
「成る程、迷宮の管理に学園が噛んでいるのは変だと思ったのだが・・・確かに元の持ち主が理事長ならそれは合点がいく」
そう驚きもせずにプリームスは言い放つ。
これにアグノスは少し訝しんで困惑する様子を見せた。
「プリームス様は母が迷宮の主人だった事に驚かれないのですね」
プリームスに抱きついたまま戸惑うアグノスは何だか可愛らしく見えた。
プリームスはアグノスの背中を優しく撫でながら告げる。
「"ただの人"ならば私も驚いただろう。だがエスティーギア王妃はそうではなかろう?」
更にアグノスは驚いてしまう。
何もかも見透かされていたからだ。
「ご存知だったのですか・・・?!」
スキエンティアも少し驚いた様子でプリームスに尋ねる。
「エスティーギア王妃から大きな魔力は感じませんでした。とても迷宮を統べる程の能力は無いと思ったのですが、実は違うと?」
頷くプリームスは無意識にアグノスの背中からお尻を撫でてしまっていた。
「ぅんっ・・・」
とアグノスの声が漏れる。
不機嫌な表情を浮かべるスキエンティア。
「真面目な話の最中にイチャつくのは如何かと思いますが」
まるで猫のように懐くアグノスを撫でながら、プリームスはニヤリとスキエンティアへ笑みを向けた。
「そうカリカリするな。今夜、褥を共にすると言ったろう?」
敬い慕う相手にそう言われてしまえば、如何にスキエンティアでも黙るしか無い。
困った表情で顔を赤らめると、直ぐに目を背けて少し俯いてしまった。
その状況をみてフィエルテは唖然とする。
プリームスとスキエンティアが、ただならぬ仲であるのは分かっていた。
しかしスキエンティアが想いを寄せていると迄は、思い至らなかったからだ。
今度はアグノスが不機嫌そうな顔をしだす。
これは不味いと思ったプリームスは強硬手段にでた。
すかさずアグノスの耳を唇で咥えてしまったのだ。
「プ、プリームス様、な、何を!?」
アグノスはプリームスの突然の行動に身を硬直させてしまう。
更にプリームスは追い討ちを加える。
その柔らかい唇でアグノスの耳をハムハムしたのだ。
日頃触られる事が無い敏感な部分にそうされた物だから、
「あぁあぁぁぁ・・・」
とアグノスは声を小さく洩らして完全に大人しくなってしまった。
2人の美女を一瞬で無力化してしまったプリームス。
それを見てフィエルテは色んな意味で恐ろしいと思う。
どんな相手でも簡単に懐柔してしまい、自分など必要無いのでは?と考えてしまったからだ。
それに夜伽に呼ばれた場合、プリームスの望む奉仕を自分がこなせるのかと心配にもなった。
傍に居る3人が静かになって、プリームスは漸くスキエンティアの問いに答え始める。
「エスティーギア王妃は何かしらの方法で自身の魔力を抑え込んでいるようだな。しかし魔力の本質はその精神力、いわばその魂に在る。表面上の魔力を抑え込んだところで私の目は誤魔化せんよ」
するとスキエンティアが平常運転に戻り、最も気になっていた点をプリームスへ尋ねた。
それはフィエルテも気になっていた事で、”身内”の戦力としては是非聞いておきたい話であった。
「ではどの程度の魔力と能力を隠していると?」
プリームスは少し考えるような仕草をしながら答える。
「私やスキエンティア程では無いよ。だが不死王級の力は持っていそうだな」
「母はその昔、古代迷宮の魔女と呼ばれていたようです。15年前の南方紛争では武神と称されるクシフォス様と並び、その武勲で名を馳せたと父から伺いました」
そうアグノスがおずおずと話に続いた。
様子を窺うように躊躇いがちなのは、またプリームスに悪戯されるのではないかと警戒しているからだ。
それを口に出してしまった事を後悔するように、ハッとした表情を見せるアグノス。
そして慌ててたように告げた。
「”古代迷宮の魔女”の二つ名は皆さんお忘れください! 父と結婚する為に、その二つ名を苦労して払拭させたらしいのです」
「隙あり~!」
と言ってプリームスがアグノスをソファーに押し倒す。
加えて上に覆いかぶさると、スカートの裾の下から手を股間に差し込んでしまった。
そうしてプリームスは嬉しそうにアグノスを弄り、更に胸元や首筋に口付けまでし出すと、
「フフフッ、聞いてしまった物はどうにもならん! 黙っておいてやる代わりに、これが等価交換だ! もとい昨夜の仕返しだぁ~!」
そう強引なこじつけで悪戯を楽しんでいる様であった。
「はぁ・・・やれやれ」
スキエンティアはプリームスの戯れに溜息をつくと呟いた。
「まぁ確かに王の妃となる者が、不死王級の魔女だと知れたら体裁が悪いですからね」
一方フィエルテは弄るプリームスと、されるがままで声も出ないアグノスを見てドキドキするばかりであった。




