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封印されし魔王は隠遁を望む  作者: おにくもん
第三章:謀略の王都
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99話・一段落と新たな問題

エスティーギアがプリームスへ理事長の代行をして欲しいと言いだした。

これにはプリームスを除く一同が驚きを隠せない。



スキエンティアはエスティーギアが言いだした内容に驚きはしたが、”こう言った形”になるのは予見していたようで非常に不機嫌そうだ。


そしてアグノスは少し嬉しそうである。

プリームスが理事長代行になれば得する事があるのかもしれない。



一方フィエルテはこれまでの立ち振る舞いを見るに、国家権力に属する事をプリームスが嫌っている筈と考えていた。

事実、本人が「疲れた」「隠遁したい」とまで言っているのだから。

故に国家に委託されて魔術を管理するこの学園に、力を貸すとは思えない。

しかし人の良いプリームスが拒否するとも思えなかった。




プリームスは「ふ~む・・・」と呟くと、

「まぁ良かろう、しかし私一人だけでは何も出来んぞ。補佐を付けてくれんとな」

そう言いだしたのであった。

詰まり引き受けると言う事だ。



エスティーギアはプリームスの手を取り両手で握ると大喜びをする。

「有難うございます! 補佐に関しては問題ございませんよ。アグノスが十分すぎる程にお役に立るかと」



エスティーギアの説明によるとアグノスは、14歳からこの学園で魔術を学んで昨年に卒業したとの事だ。

その後は理事長の母を手伝い、理事長補佐として立ち回っていたらしい。



アグノスは嬉しそうにプリームスに抱き着く。

「誠心誠意補佐させて頂きます!」

プリームスはアグノスに微笑み返すと静かに呟いた。

「あぁ、頼りにしているぞアグノス・・・」



そう期待されてアグノスは嬉しいのだが、プリームスの様子がやはり普通で無い事に気付く。

表情には全く出さないが、密着する身体から微かに熱を感じたのだ。

「プリームス様、お疲れでは? ここの日差しや海風はお体に障りますので戻りましょう」



アグノスに気付かれた事でほんの一瞬動揺するプリームス。

だが直ぐに笑顔を浮かべると、何も無かったように頷いた。

「そうだな・・・」


そのままプリームスは優しくアグノスに手を引かれて塔の屋上を後にする。

そしてスキエンティアとフィエルテも仮面を着け直すとその後を追った。



「スキエンティアさん・・・」

とスキエンティアを呼び止めるエスティーギア。



無機質な仮面がエスティーギアへ少しだけ振り向いた。

「何か?」

それは不満か不機嫌なのか、少し尖ったような声音を含んでいる。



何だか居たたまれ無くなったエスティーギアは、おずおずと尋ねた。

「私は余計な事をしてしまったのでしょうか? 良かれと思い提案したのですが、私の悪い癖もでてしまったようですし・・・」



その言い様に首を傾げるスキエンティア。

表情は仮面で読めない。



『何を今更と思われたのか、それとも私自身を訝しんでいるのか・・・』

そう思いエスティーギアはスキエンティアとの関係に不安を抱く。

なので本心を話しその不安を払拭すべきだと考えた。



「プリームス様の事を思い提案したつもりが、損得をきっちり考えてしまうのです。根本的に私に利が有るようにと・・・私は浅ましいですよね」

エスティーギアは本音で、そうスキエンティアへ告げる。



スキエンティアはエスティーギアから視線を外すと、

「プリームス様は考えた上でお請けになったのでしょう。貴女が自身を卑下する事はありませんよ」

そう優しい声音で言った。



ホッとするエスティーギア。

しかし次のスキエンティアの言い様で、再び不安がエスティーギアを支配してしまう。



「ですが、貴女がプリームス様の心と身体を傷付けるような事があれば・・・私は躊躇わず貴女を殺します。ゆめゆめお忘れなきように」



エスティーギアの背中に冷たい何かがツゥーっと流れたような気がした。

恐ろしい程の強大な魔力と、口では表現し難い恐ろしい力をスキエンティアから感じたからだ。

プリームスを害する事が有れば、その相手どころか関係する組織、下手をすれば国さえも一人で滅ぼしてしまうのでは・・・。

そう思えるほどの恐怖を感じてしまう。



そんなエスティーギアを見て「ふっ」と小さく笑うスキエンティア。

「そう怯えることはありませんよ。只、普通に誠意ある行動をとっていれば、その様な事態にはならないでしょうし、それに私がそれを未然に防ぎますからね」



正直納得せざるを得ないこの状況に、エスティーギアは溜息が出てしまった。

納得とは、強大な力や英知を利用するならば、それに等価する物を差し出すか代償を支払わなければならない事をだ。




スキエンティアが屋上から去ろうとした時、再びエスティーギアが呼び止める。

まだ何か有るのかと少し呆れた様子のスキエンティアであったが、相手は一国の王妃である、礼は失せずにその場に留まった。


「ポリティークの件で、これ以上プリームス様の手を煩わせたくないのです。ご意見を伺ってもいいですか?」

少し申し訳なさそうにエスティーギアは尋ねる。



スキエンティアは頷くとぶっきら棒に答えた。

「どうぞ・・・」



「プリームス様は、舎人に気を付けるようにとケラヴノスにいったようですが、これは詰まりポリティーク殺害に関与していると言う事ですよね? どう対処すべきなのか・・・」

そう話すと困ったようにエスティーギアは俯いてしまう。



スキエンティアはプリームスと王都に来てからの行動を話し始めた。

傭兵ギルドへ寄り道もせずに向かった事。

そこで時間を置かずにポリティークの手の者が接触して来た事を掻い摘んで説明する。


「早すぎると思いませんか? いくらボレアースで名を上げて聖女と呼ばれていたとしても・・・しかも極秘裏に王都に到着したのにです」

とスキエンティアはエスティーギアへ問うた。



思考するように口元に片手を置くエスティーギア。

「確かに変ですね、早すぎます。まるで誰かに付けられていたか、情報を流した者が傍に居たか・・・」



頷くスキエンティアは話を続けた。

「傍にはクシフォス殿の舎人であるフィートが居ました。プリームス様は傭兵ギルドからの展開で、舎人が怪しいと考えていたようです。舎人は恐らくプリームス様の行動情報をポリティークへ流していたのでしょう・・・そう考えれば辻褄が合いそうですしね」



エスティーギアは少し慌てた様子でスキエンティアに言い放った。

「ポリティークと繋がっているのに、その殺害にも関与しているとするなら、アンビティオーの間者で有る可能性があるのでは?!」



呆れたような語調でスキエンティアは言った。

「可能性では無く、十中八九繋がっているでしょうね。それと舎人への対処ですが、放置して泳がせる方が良いかと思いますよ」



そう言われてエスティーギアはプリームスの言葉を思い出す。

”策を講じるなら失敗した時の事も考えておくだろう?”

それは間者である舎人を拘束して情報を引き出したとしても、無駄だと言う事だ。


詰まりポリティークが失敗した時の為にクシフォスの舎人が間者として動いていたなら、その舎人に足が付いた時の対策も講じている筈だからだ。



スキエンティアの言葉が理解出来、逆に溜息が漏れてしまうエスティーギア。

想像以上に隣国の宰相は策士で慎重なのだ。

保険に保険をかけるとは・・・もはや反撃に出る打つ手が見当たらなかった。


ならばこちらが舎人に気付いていない様に振舞い、泳がせてアンビティオーの動きを探る方が得策と言う事になる。

そうすると色々準備せねばならない。

我が国の切れ者であるレクスアリステラ大公が帰って来るまでの辛抱だ。



そうエスティーギアが考えている内に、スキエンティアの姿は消えてしまっていた。

何ともつれない、そして恐ろしい女性だとエスティーギアは思うのであった。



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