不穏な雰囲気
その日は、時間の問題でログアウト。明日の、夜7時頃にこのメンバーで集まる事になりました。
そして、夜7時にグレンが来てから………
周りは、謎の攻防戦をニヤニヤと眺めている。
「えー、良いじゃん!やろうぜ、イベント!」
「だから、戦うのは苦手なんですよ!」
ゆるゆるな雰囲気で、ルイスをイベントに誘うグレン。ルイスは、嫌だと言わんばかりに断る。
「大丈夫、戦闘は俺に任せろ!」
「だから、そういう問題じゃないのですがっ!?」
すると、マッキーも苦笑して頷いている。
9月に、行われるイベントはタッグバトルコロシアム。1チーム、2人でトーナメント形式で行われる戦闘イベント。そして、2人なら生産職業でも参加してよい。ベスト10には、運営からの豪華商品が送られる。更に、参加者全員にランダムチケットがプレゼントされる。多くの参加者を呼ぶために、数個商品か公開されていた。
「別に、行けるとこ迄で良いんだよ。」
「そもそも、グレンなら引く手あまたでしょう?」
すると、グレンは一瞬だけ疲れた表情をする。勿論だが、それを見逃すルイスではない。つまり、グレンは何か理由がありルイスを誘っているのだと。
「確かに、引く手あまただ。けど、純粋に誘ってくれる人って少ないし。それに、どうせなら知っている人と出たいって思ってさ。なー、駄目か?」
「………保留で。ですが、出たい人が見つけられたら無しで。これが僕の、最大限の譲歩です。」
すると、グレンはキョトンとしてから笑う。
「つまり、良い相棒が見つからなかったら、お前が一緒に出てくれるって事なのか?」
ルイスは、無言で頷いてからため息を吐き出す。
「ありがとう、ルイス。」
「ちゃんと、パートナーを探してくださいよ?そうですね、期間はイベント開始の一週間前でどうでしょうか?僕も、いろいろと忙しいので。」
すると、グレンは嬉しそうに笑って頷いた。
さて、イベントの話は終わり!それより、5人組の話です。取り敢えず、今はイベントなんて忘れておきましょう。そう、彼等についてですよ。
「取り敢えず、5人が来るまでは時間ありますね。レシピで、トンガさんの報酬のお酒でも作りましょうか?他は、のんびりしててください。」
ルイスは、キッチンでレシピを見て作っている。
レシピを使うと、質が落ちるのだがレシピで質を落とさないと危ない。過去に、自重せずにお酒を作った結果………神々の美酒ソーマが出来てしまった。
更に、称号の【神の美食】がある。
さて、洋酒より日本酒が良いかな?取り敢えず、焼酎をレシピで作っちゃおうかな。
完成!
ピコン!称号が、進化しました。
【神々の美食】
あれ、複数に増えた?まぁ、別に良いです。
「ルイス、5人が来たぞ。」
「あ、はい……」
僕は、お酒を持ってキッチンから出る。
「あのさ、俺が思ったんだけど………」
マッキーさんは、深刻そうな表情である。
「こいつら、回復役が居ないじゃん!」
あー、確かに………。でも、それなら。
「僕が、一時的にパーティーに入ります。彼等が、ある程度強くなったら抜けますけどね。」
「つまり、俺らのホームに来てくれると?」
マッキーは、驚いてから思わずルイスを見る。
「まぁ、一時的ですが。」
「よっしゃ♪」
ルイスは、キョトンとして首を傾げる。そして、昨日の装備の件を5人に話してみた。5人は、嬉しそうに頼んできた。さて、3人を紹介しますか。
マッキーさんは、前線で5本の指に入るクラン《フリューゲル》のリーダー。個人では、3本の指に入る程の実力者。ジョブは、拳闘士でサブが守護騎士になる。βテスターで、〔英雄〕の通り名がある。
「なぁ、ルイスは拳闘術を使えるよな?」
「はい、使えますけど?」
本当は、進化して格闘術になってたりしますが。すると、マッキーは嬉しそうに言う。
「なら、滞在期間だけ組み手をしてくれないか?」
「あー、しごかれるんですね。」
ルイスは、苦笑してから良いですよ。と言う。
「なーに、嘘ついてる。あの、暗殺者を瞬殺した時に理解した。お前は、俺より絶対に強い。」
「一応、訂正します。殺してません!」
ルイスは、少しだけムスッとして訂正する。
「そうだな、気絶させただけだな。」
「それは、バロンの事ですか?」
キリアさんが、少しだけ申し訳なさそうに言う。
「そうだよ。けど、思ったより弱かったし………」
そこで、口を滑らせたと黙り込むルイス。すると、マッキーさんは青ざめる。それで、全員が察してしまった。やっぱり、生産職最強は健在なのかと。
「では、今の私ではルイス様には勝てませんね。」
「ん?キリアさんは、僕に勝ちたいの?」
すると、キリアさんは苦笑して言う。
「いいえ。ただルイス様が、私達を守ってくれるように私達も貴方を守りたいだけです。」
「……ありがとう。でも、気負い過ぎないようにね。僕は、冒険者だから倒されても大丈夫だけど。君達は、死んだらそこで終わりだよ。僕も、蘇生薬について調べているけど。素材が、希少で素材ランクも☆10の最高ランク。幻想級の素材だから、量産は不可能だし並みの錬金術師では錬成が不可能。しかも、鮮度が低いと高確率て失敗するみたいだし。」
すると、全員が驚いてルイスを見ている。
「それ、どこで知ったんだ?」
「β時代に、賢者の森でカリオストロから聞きました。彼は、希少な錬金術を使う錬金王。僕も、弟子ではありましたが………。彼には、やっぱり勝てませんね。レベルを上げて、会いに行かなければ。」
すると、マッキーは困った表情で言う。
「実は、β時代で死んだNPCはこの世界には居ないみたいだ。そして、死んだ事にされていた。」
「なるほど……。運営も、意地悪な事をしてくれますね。でも、どうであれ彼のアトリエに行かなくてはならないんですけど。錬金術師の、職業クエストの最終目的地は彼のアトリエですからね。」
すると、グレンは真剣な表情でルイスを見る。
「それ、掲示板に載せても良いか?」
「良いですよ。けど、錬金術師の職業クエストは全部で10あります。最終目的地は、彼のアトリエですがその前の9のクエストをクリアしなければならないはずですよ。キーキャラに、会うには9のクエストをクリアが絶対条件ですから。飛ばして、行ったら追い返されたらしいです。」
ルイスは、懐かしそうに笑って言う。
「さて、彼等の強化は明日からだな。」
「わかりました。」
そう言って、報酬を渡す。それは、マッキーさんが裏切らないと分かっているから。
「じゃあ、装備はあたしらに任せて♪」
シャルムは、笑顔で言う。生産クラン《紫陽花》のリーダー。前線で、最も活躍するクランの1つ。職業は、裁縫師でサブが付与師。前線は、サブリーダーに任せっきり。そして、〔影縫い師〕の通り名を持っている。たまに、前線で戦っている。
「うむ、明日には持ってこよう。」
トンガは、生産クランで鍛治師の頂点と呼ばれる人だ。クランは、《ネコネコ団》のサブリーダーだが基本はアトリエにこもっている。通り名は、〔鍛治の鬼〕である。たまに、前線で暴れているらしい。そして、鍛治師でサブは斧師である。
2人に、報酬を渡してから5人に教える。
「じゃあ、ルイスの紹介は俺がするか。」
マッキーは、笑いながら暢気に言う。
ルイスは、錬金術師の最高到達点だと言われてる。クランは現在、無所属だがかつては前線の最強クラン《炎天神楽》の錬金術師だった。ちなみに、そのクランに居た頃からイベント嫌いだった。当時は、錬金術師でサブが料理人のもろ生産職業。だけど、種族スキルのみで生産職最強になった男だ。当時の通り名は、〔生産職最強〕そして……
はい、ストップ。それは、言わせないよ☆
内心、冗談を言いつつ苦笑する。そして、無言でマッキーを殴り止める。勿論、スキルは使ってない。
「ぐはっ!分かった、言わねぇよ。」
「言ったら、一週間お店に出禁にします。」
僕は、真顔で言えば謝るマッキーさん。
「ん?あれ、薬屋さんは?」
「当時、ルイスは薬屋とは呼ばれていなかった。けどな、本人が嫌がったから薬屋になった。まぁ、これ以上は言えない。俺が、お店に出禁になる。」
ルイスは、話は終わりと言わんばかりに言う。
「さて、話を戻しましょう。明日から、暫くお世話になりますね。5人は、お金稼ぎに交流クエストに行ってください。では、解散ですね。」
そして、5人はクエストに向かった。俺も、外に出て歩きながらモヤモヤとしていた。
グレンは、ルイスの通り名が気になり調べる事にした。何故か、知りたいと思ってしまった。
だが、人に聞いても彼等は口を堅く閉ざす。
ルイスは、椅子に座って紅茶を飲む。マッキーは、苦笑してからルイスに言う。
「グレンが、お前の通り名を探ってるぞ。」
「………まぁ、ですよね。」
ルイスは、苦笑してから頬杖をつく。
「お前は、戻らないのか?」
「それは、炎天神楽にですか?」
そう、クラン《炎天神楽》は存在する。だけど、昔とは別物になってしまった。β時代、前線最強のクランで名高い《炎天神楽》はもう面影すら残っていない。だから、僕はあのクランには戻らない。
「リーダーから、勧誘がきているんだろ?」
「ええ、丁寧にお断りしましたが。相手も、諦めが悪いようですね。グレンに、余計な事を話さないと良いのですが。それは、無理でしょうね。」
ルイスは、冷ややかな視線で窓の外を見ていた。
「………だな。それで、どうする?」
「そうですね、グレンに護衛をつけたい所ですが。いくら、グレンが前線でソロ活動してても彼等は強いですから。例え、彼が攻撃職最強でも………」
ルイスは、真剣に考える仕草をする。
「じゃあ、俺が適任かな。」
そう言って、現れたのはバロンだった。
「おや、お腹は大丈夫でしたか?」
「もう、ばっちり。この仕事、ちゃんとクリアしたらあんたのお店に雇って欲しいんだけど。」
ルイスは、キョトンとしている。
「えっ、暗殺ギルドは?」
「あー、クビになった。」
すると、キリアさんも近づいて来て頭を下げる。
「私からも、お願いいたします。彼は、私と兄弟のようなものなので………その、図々しいお願いかもしれませんが。どうか、彼を雇ってくれませんか?」
「………分かった。さて、バロンさんとキリアさんにお願いがあります。グレンは、危険な事をしているから彼が危なくなったら助けて。後は、絶対に無事に帰って来るんだよ。僕は、待ってるから。」
ルイスは、優しい笑顔で2人を見て言う。
「「了解しました!」」
2人が、出て行ったのを見てため息をつく。
「取り敢えず、僕は5人組に集中しますか。」
「だな。じゃあ、転移門を使って急ごうか。」
僕は頷いて、立ち上がり机を片付けて外に出た。
さて、次の日になりました。にしても、聞いてませんよ?何で、僕は多人数に囲まれて……
「すまん、ルイス。メンバーが、暴走している。」
「い、いえ………良いんですが………。」
僕は、困ったように笑って言う。
「ほら、お前ら退け。さて、どうする?5人は、スキルの確認と使い方を学びに俺の仲間と出たぞ。しかも、行き先はバラバラだしな。」
「でしたら、約束の組み手でもしますか?」
ルイスは、暢気に笑って言う。
「ああ、俺は本気で行くから。」
「あはは……、そこはお手柔らかに。」
マッキーは、無言でかかって来る。ルイスは、それを軽々と受け止めいなす。その表情は、薄く笑っており余裕も感じられる。マッキーは、思わず冷や汗をかいて距離を取りルイスを見る。ルイスは、想定内と前に距離を詰めて拳を構える。マッキーは、構えが崩れた状態でギリギリそれを受け止める。そして、更に距離を取って警戒する。
「お前さ、本当に怖いな………。いなした後に、カウンター攻撃をしようとしただろ?しかも、当たらなくっても俺の構えを崩せるしな。恐ろしくって、思わず下がってしまった。しかも、構えを崩されたしな。あー、本当に勝てる気がしないんだが?」
「では、ここで勝負を投げますか?」
すると、マッキーは鼻で笑って構え直す。
「まさか、冗談じゃない。せっかく、お前が手合わせしてくれる気になってんのに勿体ないだろ?」
「勿体ないって……。」
ルイスは、困ったように笑いながら呟く。
「よっしゃ、仕切り直しだ!」
「まぁ、良いんですけどね。」
2人は、拳を構えて再び戦う。
「くそぉー、生産職最強は健在かよ!」
「あの、叫んでる暇があるんですか?」
結果、ルイスの勝利。
「さて、ありがとうございました。」
「おう、完敗だぜ。」
ルイスは、苦笑してから周りを見る。どうやら、周りもリーダーが敗れるとは思っていなかったようですね。さて、どうしましょう。
「ん?彼は、新人ですか?」
ふと、見習い神官の服を着た少年を見る。
「おう、昨日からの新入りだ。」
「なるほど……」
おそらく、レベルは5人組とそう変わらないはず。明日から、パワーレベリンクだし一週間くらい一緒に行動して後は彼をパーティーに入れて貰えるか聞いてみよう。あ、大丈夫そうですね。
「お前が、離れたら入れる予定だ。」
「では、明日から一週間よろしくお願いいたしますね。皆さんには、迷惑をおかけしますが。」
すると、マッキーさんは驚いてルイスを見る。
「ルイス、滞在期間が短くなってないか?」
「余り、他所のギルドに長居するものではありませんよ。早めに、撤退して僕はこもります。」
ルイスは、少しだけ苦笑して言う。
「………そうか。少し、残念だけど仕方ないか。」
「さて、彼等が帰って来ましたね。僕は、ログアウトします。それでは、お休みなさい。」
そう言って、ルイスはログアウトした。その時、見習い神官がじっとルイスを見ていたのだが………
それに気付いたのは、マッキーとログアウトしたルイス本人だけであった。マッキーは、少しだけ見習い神官を警戒する事にして思考を巡らせた。




