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私の兄は。  作者: 棚田もち
学生生活
9/34

8ー食べる

前回のあらすじ


みんなで肉食ってたら、サイモンがなんか言い出した。


※今回変態臭漂う場面がありますが、決して臭っておりません。実際は無臭でございます。

 どういうこと。いつの間に攻略されたの?

 補正? 嫌だ。サイモンが変わっちゃったらどうしよう。私から離れるの? 今までみたいに話は聞いてもらえる? あの兄が発情期の雄犬みたいになる? そんなの絶対にイヤ。


 兄の発言を聞きつけた騎士達が群がってきた。

「お前がそんな事言うなんて、珍しいじゃねえか」

「そんなに可愛いのか?! お前に釣り合うくらい??」

「いつ見に行ってもいい」

「俺はその子の次でもいい」

「私は私だけを愛して欲しい」


 一部の発言者が引きずられて行ったが、今はそれどころでは……いや、あるな。兄の貞操の危機。いやでもやっぱりそうじゃなくて……。

 グルグルと思考が同じ所を回ってしまう。


「冗談だったんだが」


 場が一瞬静まり返ったあと、湧き上がる。

「え? 何? どーゆーこと??」

「そんなにブスな子なの? それってヒドくね?」

 冗談になっていないと騎士達が笑いながら次々と兄に話しかける中、私は動けずにいた。


 安堵なのか怒りなのか分からない。

 何かが胸に渦巻いて、捌け口をもとめている。兄にぶつけてやりたいけど、この状態では令嬢として相当不味い事になるのが自分で分かる。一体これをどうやって解消したらいいのか。

「皿」

「どうぞ」

 手を出して要求すると近くにいた給仕が素早く応えた。

  既に食べやすいサイズの肉とフォークがセットされている。流石は侯爵家の給仕だ。


 肉を一口。うまい。涙が溢れる。雌犬を追いかけ回す雄犬にならなくて、良かった。更にもう一口。口内に拡がる肉汁が堪らない。なんであんな事言い出したの。驚いたんだよ。まだ涙は止まらない。


 わんこそばのように盛られる肉をどんどん口に入れるが涙はこぼれるばかり。

 おかしいなあ。大好きな兄が騎士団から学び、私に授けてくれた薫陶なのだが。


 肉を食べれば大体大丈夫。


 これは大体の内に入らないのかなあ。

 泣きながら肉と一緒に想いを飲み込んでいると、兄が私の異常に気付き駆け寄って来てくれた。私の泣き顔が周囲に見えないように、体で隠してくれる。気付いてもらえた事で、段々と落ち着いてきた。兄がハンカチを貸してくれたので、目立たないように涙を拭き、鼻をかんで返した。若干微妙な表情をしながらも、ポケットにしまっている。


「どうしたんだアイリーン。肉は良い塩加減だったぞ」

「塩を利かす為に泣いてるんじゃないわ」

 心配そうに覗き込んできた兄のセリフに私は一気に冷静になった。


「そうなのか? まあ既に肉を食べているなら大丈夫だろう」

 その認識には大いなる誤りがあると言いたかったが、慰めるように唇に一つキスを落とされ、口に出す事は出来なかった。

「ふむ、良い肉は脂も甘い」


 口に脂が付いていたようだ。

 ちなみに家族間のマウストゥマウスは時々ある。お国柄なので問題な「ああああ!」い。

「ええー!? これってどっちにどう思えばいいの?」

「あんな綺麗な妹とキスとかあり得ねえ」


 問題あったようだ。騎士達が頭を抱えたり膝をついたり、人を指差して何か叫んだりしている。いや、仲の良い家族なら口にキスもあるよね。

 多分ふざけているんだろう。放置でいい。


「ねえサイモン。どうしてそんな冗談を言おうと思ったの」

「学校に指導に行くようになっただろう?」

 その通りなので頷く。

「だが遠巻きにされるのは兎も角、変に騒がれるのがやり難くてな。同僚達に相談したら、冗談の一つも飛ばしてみればいいんじゃないかと言われたんだ。それで練習してみた」


 センスが無いにも程がある。

「あのね。彼女を可愛いと思う人って結構いると思うのよ」

 兄が衝撃を受けたような顔をしてこっちを見る。流石に失礼なんじゃないだろうか。


「18才には見えないけど、ほら、犬っぽいじゃない」

「私は猫派だ」

「そうじゃなくて」

 どうしよう。面倒臭くなってきた。


「違うよサイモン。主観で意見の分かれる事を冗談にするのは難しいと彼女は言いたいんだよ」


 そうなのか?

 輪から外れていた騎士の一人がやって来て説明してくれたが、実は私にもイマイチ分からない分野なのだ。まあ折角援護してくれたのだから、ここは同調しておこう。


「そう、そうなんです。私が困っているのを見て助けに来てくれたのですね。ありがとうございます。理想の騎士様ですわ」

 柔らかく微笑んで見せる。ただし歯は見せない。貴族だからと言うよりは、何か挟まっているかも知れないからだ。肉の皿を持ってる時点で大幅減点だが、これでも社交界の華。味方を捕まえるチャンスは逃さない。

 

「初めまして。私はノア・ミドルトン。しがない男爵家の次男だよ」

 そういって礼を取り、からりと笑った。


 いい。取り立てて特徴の無い、兄と同年代に見える男だが、いい。貴族としては本当にしがない男爵家の次男だが、卑屈な感じはしない。

 騎士は給金も悪くない筈だ。多分。

 いくら使ったかという話はしても、いくら貰ったかなどという事は話題に上らないので分からないのだ。

 国防を担っているのだから、そこそこ貰ってもいいと思うのだが。今度兄に聞いてみよう。



 そう、私は婚約破棄に備えて男漁りに来ているのだった。






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