7ー考え行動する
前回のあらすじ
苛立つアイリーンがリチャードを成敗してスッキリ。
月の物が来た。
あのイライラはPMS(月経前ナントカといったが忘れた)だった。理由が分かったので落ち着いた。
頭突きをされたリチャードは、文句を言おうとしたようだったが、私の赤くなっているだろう額を両手で抑え、痛みで潤んだ目で見上げてやれば、話も聞かず思い込みで攻めたと詫びてきた。私にだって女子力くらいある。それにあいつは、結構紳士的なのだ。
ヤマダは不満そうだったが、昼食に誘われ付いて行った。
……紳士は婚約者の前で別の女を誘うのが日常で、勿論淑女も直前に友人発言した相手の婚約者を掻っ攫って行くのが嗜みだ。当然また苛立ちが募った。これは月経前症候群(思い出した)じゃなくてもイライラしたと思う。
そして冷静になった今、私はとても反省している。
ヤマダの言葉にも一理あると思ったのだ。
謝りはしない。兄を売るような真似は出来ない。しかし現在のようにただ傍観してるだけで、後悔はしないのか。
ずっと結婚すると思っていたリチャードとの仲もどうなるか分からない。
意外と素直で、冷静なら話も通じる男だ。付き合いも長く、愛着も湧く。このまま、ヤマダに持って行かれるのを見過ごしていいのか。
きちんと考えなくてはならない。
考えた結果、騎士団に差し入れに来て、焼き肉パーティーに参加しております、オホホホ。
「こちらの肉がいい感じに焼けてますよ」
「バッカ、お前、女性は野菜が好きなんだよ。こちらのタマネギが食べ頃です」
「両方いただきます」
肉多めで、の言葉は飲み込んだ。
いい。大変結構だ。
畏まったパーティーでチヤホヤされるより、断然こっちだ。駆け引きがストレートで分かりやすい。普段男ばかりの所為か、とても持ち上げてくれる。
女性同士も楽しいが、これは癒される。
なるべくお淑やかに、でも高速で肉を食べていると、今日ももれなく神々しい兄が、厳つい男を連れてやって来た。
「沢山食べているか? ちょっかい出してくる馬鹿はいないか?」
「大丈夫。みんな親切にしてくれるわ」
「何かあったら、すぐ言うんだぞ」
「愛してるわ、サイモン」
つい本音を溢すと、持っていた皿を兄が取り上げ、給仕へと渡される。そして腕に囲われ締め上げられた。
「ぐふっ」
「あー、アイリーン可愛い。私も愛しているよ。ずっと家に居ればいいのに」
スリスリされながらも地味にもがいていると「コール。落ち着け。妹が苦しんでるぞ」低く野太い声が兄を制してくれた。
「団長。妹を紹介しますね」
若干涙目になっている私に見向きもせず、団長と呼んだ男に向き合う。おい兄よ。本当に私に愛があるのか。
切り替えの速い兄によって、厳つい40歳くらいのおじさんを紹介された。
「妹のアイリーンです。アイリーン、こちらは白騎士団長のオリバー・アダムス様だ」
お偉いさんだった。
挨拶をしようと口を開きかけたその時、アダムス様が大股に距離を詰め、ひょいっと私の手を取ると、流れるような仕草で指先を口元へ近付ける。
「美しいお嬢さん。むさ苦しい騎士団へようこそ。心より歓迎する」
そう言って視線はこちらに向けたまま、本当に口付けた。
むきゅーんっ
はううっ。こ、これはギャップ萌え。ギャップ萌えに違いない! さっきまでは只のゴツいオヤジだったのに、今は一気に七割は増して見える。(当社比)
兄に説教されながらも、悪戯が成功したというような無邪気な笑顔でこちらを見ている。
「サイモン」
袖を引いて兄の注意を引く。
「団長に言ってやりたい事があるのか? 幾らでも言うがいい」
「そうじゃなくて」
声を落として兄に尋ねる。
「アダムス様は結婚してるの?」
「? いいや。独身だ」
「……18の小娘に興味あるか聞いてみて」
「?? 団長。小娘は好きですか?」
しまった! こんな聞き方じゃ、興味あったら変態みたいじゃないか。
しかし心配は杞憂だった。
「ああ。娘がいたら可愛いだろうな」
真っ当な感性の持ち主である事が分かった。同時に小娘は恋愛対象外である事も分かったが。
内心ガッカリしていると、「そういえば……」と兄が何かを思い出したようだ。
「小娘といえば、お前のクラスに小さい茶色の女の子がいただろう」
「ヤマダさんね」
「そう、それ」
鬼呼ばわりしていたのに、もう名前を忘れたらしい。
「彼女、可愛いな」
…………は!?