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私の兄は。  作者: 棚田もち
学生生活
7/34

6ー話を聞く

 "サブちゃん" の命名は、サブリナの運命の人だった。


「ちゃんと昨日話を聞かないからですよぉ」

 カーラが言うが、そんなあだ名をつける人が、運命の人の訳無いだろう。


「ふふ、いいのですよカーラさん。私の迸る愛をアイリーンさんにも聞いてもらいましょう」


 それからサブちゃんの愛が迸って暴走した為、私が纏めると

 

 エスコートしていた父親が離れ、青年貴族に絡まれた。小部屋に連れ込まれそうになるが、恐怖で声も出ない。それでも必死で抵抗していると、突然カクッと青年が膝から崩折れた(これは膝カックンだと思われる)。青年が何が起こったのかと立ち上がって振り返る。そこに腕が飛んできて青年が昏倒(詳細を聞くと、どうやらアゴを掌底で打たれたらしい)。呆気に取られていたが、兎に角助かったのかとその人物を見てみると、ドレスを着た、てるてる坊主だった……。


 てるてる坊主に連れられて、別の小部屋に移動し、おしゃべりをしているうちに気分も良くなり、友人になってもらおうとしたが、さっきの男に身バレすると面倒だからと、とても残念そうに断られた。被っていた白い布は、給仕から奪ってきたサーヴィスナプキンで、取ってみると中からとても背が高くスタイルの良い、健康的なお色気姉さんが現れる。顔以外は見えていただろうと思ったが、気が動転していたのと、頭部の異様さにばかり目がいっていた為、気付かなかったようだ。


 表立って友人関係にはなれないが、心の友となるその証として "サブちゃん" の愛称を授けられた。そしてその運命の相手とは、最近社交界で話題に上ることの多い、子爵令嬢だった。


 この話に思うところは色々ある。てるてる令嬢のセンスもどうかと思うし、女性に対して運命を感じてしまう程の恐怖を、男性に与えられたサブリナ……いや、サブちゃんの精神状態も心配だ。しかし立ち直っているようにも見えるサブちゃんよりも、今一番気になるのは、現在私がモブにすらなれていないという事実だ。


 ヒロインのイベント現場にも居合わせず、巻き込まれもしなければ、助けに来るてるてる坊主もいない。最後のは無くてもいいが。

 辛うじて、ヒーローの様な騎士と兄妹関係である事だけが、存在価値であるようだが、逆にその所為で、兄に対して皆のように盛り上がれないとも言える。


 普段あまり周りに興味を持たない私だが、自分だけが物語に参加出来ていないような、最早只の数合わせ転生……などと考える程度には疎外感があった。

 勿論、自分が何の行動も起こそうとしないのが原因だと分かっている。

 ただそれでも、取り残されたような気分になる。


 とは言え、やはり平和が大切だ。

 サブリナとサンドラの名前が似ていて面倒だと思っていたのが解決したのだ。素晴らしい事だと素直に喜べばいい。


 何とか気を取り直し午前の授業を終え、サンドラ達と女子用の食堂に向かっていると、ヤマダが小走りで追って来た。

「アイリーンさーん。ちょっと待ってくださいよー」


 今はヤマダの相手をする気分じゃないが、皆を先に行かせて、追いつくのを待った。


「ありがとうございます。ちょっとお話しいいですか?」

「食堂では駄目?」

「う〜ん、歩きながらで大丈夫です」


 ゆっくりとした速度で並んで歩き出す。

「それで、何の話なの?」

「えっと、お兄さんのお休みを教えて欲しいんです」

 そんな事だと思った。


「無理」

「えー。友達じゃないですか」

 そこまで親しくはないが。

「兄に近づこうとする人は多いわ。何でもないような情報でも悪用される事もある。私を使うのは諦めてもらうしか無いわね」


「確かにあれだけカッコいいと、面倒も多そうですね。んー、でもなあ」

 まだあるのか。

「あなた、ダグラス・フォードはどうしたの? 彼が好きだったんじゃないの?」

「彼は勿論好きですよ。でもサイモン様を見た後じゃ、大分落ちるっていうか」


 こんな奴だったか? イライラする。


「残念ながら、あなたは兄の好みじゃないようよ」

「えー。好みなんて不確かなものには縋りませんよ。やるだけやってみないと、後悔するじゃないですか」


 足が止まる。ヤマダもつられて立ち止まる。

「自分の事だけ? 相手の迷惑は考えないの?」


 ヤマダが鼻で嗤って言った。

「何その負け犬思考。何もしないで何が手に入るって言うんですか。まあ、あなたは何か転がってくるのを、そうやってジッと待っていればいい。私はごめんです。サイモン様は、迷惑に感じたらきっとそう言ってくるんじゃないですか。あなたみたいなヘタレには見えない」


 コイツッ!

「あなた――」

「何をしている!」

 

「あ、リチャード様」

 リチャードが現れ、ヤマダを庇うように前にでた。

「何を言い争っていたのか知らないが、君は侯爵令嬢だろう。いずれ公爵夫人にもなる身だ。クラスメイトのヤマダに優しく接する事も出来ないのか。事を丸く収めるのも君の仕事だろう」


「……………………リチャード」

「何だ。何か言い訳があるのか」


 リチャードの膝にローキック。

「んわっ」

 更に足払い。完全に転んだ所でマウントを取り、胸ぐらを掴んで思い切り頭突きをかました。

「リチャード様!」

 大丈夫ですかとヤマダが慌てて駆け寄る。


 彼は大丈夫。か弱い女のする事だ。むしろ私の頭が痛い。それでも


 ああ、スッキリした――――。





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