5ー話し合う
閑話で書き忘れていた事を思い出し、少し書き足していたのを更に忘れて、今思い出しました。申し訳ございません。
増えたのは単に「ヤマダは運が悪い」という事です。ーーそうですか。ご存知でしたか。
悩みは解決した。
同士じゃない。ヤマダは敵だ。
兄に目を付け、迷惑を掛けているらしい。私は中々その現場に居合わせないのだが、既に噂になっている。
授業も終わったので、高確率で現場に遭遇するサンドラから、今日も話を聞いているところだ。
「とうとう顔と名前を覚えて貰ったみたいですよ」
「もう5回は接触をもったのだから、当然か」
「そうですね。ハンカチを落としても気付かれず生徒に踏まれ、普段しないリボンを落としても気付かれず、用務員のおじいちゃんが踏んで転び平謝り。これおじいちゃん怪我無くて本当に良かったです。危ないと思ったのか落とすのは諦めて、自分で転んで見せれば例の子猫がやって来て注意を奪われ、ならばと子猫を抱っこして、待ち構えて見れば親猫の元に返せと怒られて」
サンドラが指折り数える。こうして挙げられてみると
「あら。ほとんど接触してないわね」
「確かに。でも前回の一回で印象に残ったんじゃないですかね」
接触を持とうと努力するのは、別に悪いことじゃない。しかし結果を見て、遠巻きにしていたものも、真似をするようになるのが問題だ。
「今回は何をしたの?」
「差し入れです」
「普通ね」
「猫の形のクッキーだったようですよ。で、渡す時に名乗ったので、覚えて貰ったらしいです」
「……何で最初に名乗らなかったのかしら」
「それは偶然を装いたかったからですね!」
この言葉に反応して、カーラも参戦してくる。
「わかるぅ! 運命の出逢いってやつよねぇ」
「はい、乙女の憧れです」
普段内気なサブリナも来て同意する。
サブリナは優しい良い子なのだが、偶に気になる発言をする。本当の乙女は、自分を "乙女" とは称さないと思うのだ。
もう少し親しくなったら、本当のところが分かるかも知れない。
思考を逸らしていたら、サブリナがおかしな事を言い出した。
「聞いてください。私、運命の出逢いをしたんです」
「え〜、なになに? ハンサムな人? 捕まえた? どこまでいったのぉ」
「昨日の夜会で……」
目に見えて話が逸れていく。
帰って兄に話を聞こうと、皆に声を掛けその場を後にした。
しかし気になる事がある。
ヤマダが転べば必ず猫が寄ってくるのだろうか。……実験したい。
あれ?これ何かのフラグ? ナシナシ。実験なんかしたくないですよー。平和が一番。安全第一。
これで大丈夫だろうか。不安だ。
校舎を出る時に、遠くで騒いでいるような声がしたが、既に私の頭もお腹も夕食に向いていたので無視した。
今日はムニエルでした。
満足して部屋でダラダラしていると、侍女が兄の来訪を告げた。直ぐに兄が入ってくる。
「お帰りなさい、サイモン」
「ただいまアイリーン」
挨拶のキスをして、席を勧める。
「疲れて帰ってきた所をごめんなさい」
「構わないよ。今日は元々早く終わる予定だったから、アイリーンとゆっくりしたいと思ってたんだ」
これを超絶イケメンが言っている。
当然私は兄が大好きだ。
学校長のよりは大分美味しいお茶を淹れ、兄に向かい合う。
「今日、女生徒からクッキーを貰ったんですって?」
「いや、貰ってないよ」
「あら、だってヤマダさんから渡されたんでしょ?」
途端に渋面を浮かべる。
「あの生徒は、何と猫のクッキーを作ってきたんだ」
「可愛いわね」
「その可愛い獣を私に食えと言う。私が猫を気に掛けている事を知っての所業。鬼か。いずれ盗賊にでもなるかもしれん」
ならないと思うな〜。
「じゃあ私が今度、騎士団にお肉を差し入れするわね」
「流石だ。分かってる」
「後はレモンの蜂蜜漬けね」
「女神か。肉にレモンは死ぬほど合う。さては殺す気か」
「レモンは訓練中でいいけど、お肉は勤務が終わってからにしてね。皆んなで食べられるように、料理人付きで許可を得ておくから」
兄との会話は時折修正が必要になる。放っておくと、本当に訓練中に焼肉パーティーになりかねない。……楽しそうだ。そして私も参加すれば良かったのか。見つかっても、私はお咎めなしだろうし。
騎士との焼肉に未練を残しつつ、暫く談笑してからお休みの挨拶をする。
パタンと扉が閉じられ、一人になってから考える。
ふむ。兄が攻略されそうな素振りはない。
ヤマダは嫌いじゃない。
何故か落ち着く空気を持っている。例えるなら "田舎のおばあちゃんち" だ。
しかし、兄に合うか、何より私の姉として考えられるかといったら、断固として拒否したい。絶対面倒な事になる。
あんなに運の悪い人間は見た事がない。
何故か大事には至っていないが、これからもそうとは限らない。卒業したら尚更だ。家や兄に影響が出るのは困るし、何より私が尻拭いをする羽目になりそうで嫌だ。
もし兄が好意を持ちそうだったら介入しようと思ったが、これなら大丈夫だろう。
その日は良く眠れた。
そして次の日登校したら、サブリナの呼び名が "サブちゃん" になっていた。
どうしてそうなった。
あらすじ通り主人公が本当に何もしないので、びっくりするほど話が進みません。
次は何とかしたいです。